キャリアアップの新たな道
日本介護福祉士会では、介護福祉士の上位資格である認定介護福祉士の育成に取り組んでいます。認定介護福祉士に関する詳細はこちらからご確認ください。
私たちの働き方改革
2022/9
会長 及川ゆりこさん
少子高齢化にともない、慢性的な人材不足に陥っている介護業界。一人ひとりの負担を減らし、ワーク・ライフ・バランスを実現するために、どのような取り組みを進めればよいのでしょうか。日本介護福祉士会 会長 及川ゆりこさんに、介護業界が抱える課題、働き方改革を進めるうえで大切な視点について見解をお聞きしました。
公益社団法人日本介護福祉士会は、国家資格である介護福祉士の資格を持つ人たちの職能団体です。介護福祉士の職業倫理の向上、介護サービスの質向上のために生涯研修制度を構築し、介護福祉士の皆さんに自己研鑽の場を提供しています。
介護の現場は今、たくさんの課題を抱えています。もっとも大きな課題は、慢性的な人材不足です。時には、介護施設の経営者から「新しく施設を立ち上げたものの、人材を確保できないためオープンできない」という声を聞くこともあります。厚生労働省による処遇改善、事業所の努力によって離職率の低下は見られるものの、介護サービスの需要は2040年までにさらに高まるとされ、人手不足はまだまだ続く見通しです。
こうした状況を踏まえ、厚生労働省では人手を確保するために介護職の魅力発信に努めています。都道府県介護福祉士会でも、日ごろのケアの成果を披露する介護技術コンテストを主催したり、小中学校で介護職について伝える授業を実施したりと啓発活動を行っています。とはいえ、それだけでは人手を確保することは難しく、介護現場では、外国人材の受け入れも進めています。日本介護福祉士会では外国人材向けWebサイト「にほんごをまなぼう」を立ち上げ、国際介護人材のスキル習得もフォローしています。
▲2019年度ケアコンテストとの様子
また、介護ニーズの多様化も課題のひとつです。近年は介護予防、認知症ケア、看取りなど介護のニーズが広がり、介護職はさまざまな場面で専門性が求められるようになりました。例えば介護予防が必要な方に対しては、身体介護だけでなく、要介護状態にならないための相談や助言、心のケアなども求められます。医療的リハビリテーションなどは専門職の方にお任せしますが、リハビリで培ったものを活かし、生活できるようサポートするのも介護職の役割です。医療をはじめ、他の職能との連携もさらに進める必要があります。
さらに、目の前の課題としては、新型コロナウイルス感染症対策も挙げられます。感染症が拡大した当初は、衛生材料の不足、介護職員の労働環境悪化といった問題が発生したため、日本介護福祉士会では厚生労働省に意見書を提出し、諸問題の改善に取り組んできました。事業所によっては今もクラスター発生などひっ迫した状態が続き、人手不足にもつながっています。
こうした現状を解決し、働き方改革を進めるには以下の視点が重要だと考えます。
介護福祉の専門職である介護福祉士は、チームリーダーを担う立場です。チームメンバーの指導・育成、他職種との連携、ケアのマネジメントを行う重要なポジションなので、資質向上のための研修をしっかり行うべきだと考えています。
中でも最近は、多職種連携が重視されています。認知症の方、病気が重篤化している超高齢者、介護施設や自宅で治療を行う末期がんの高齢者などの中には、自分の意思を表現するのが難しい方もおられます。体温や血圧などのほかに、顔色が悪い、食欲がないといった数値化できない変化を読み取り、医療やリハビリ職員との連携を図るのもチームリーダーの役割です。また、経済的な課題については社会福祉士等と連携を取る場合もあります。こうした資質を高め、スムーズな連携を促すことも、介護福祉士の働き方改革の一環と言えるでしょう。
介護業界の人材不足を解消するため、現在、介護職の機能分化が進んでいます。これは、介護現場の役割を分担し、さまざまな人たちがチームを組んで働くという考え方です。専門性の高いケアは介護福祉士といった専門性が担保された有資格者が担う必要がありますが、業務によっては、専門的な知識や技術がなくともできる業務もございます。アクティブシニアや子育て世代の方など、短時間なら働けるという方に現場を支えてもらうためにも、機能分化が必要です。
少ない人数で現場を回すには、無駄を省き、生産性を向上させることが大切です。その施策として挙げられるのが、デジタルテクノロジーの導入です。ただし、導入にコストがかかるため、法人や事業所によって温度差があります。介護ロボットを取り入れている事業所もある一方で、記録システムの導入から検討しているという事業所もございます。そこを標準化できれば、現場の負担も多少減るのではないかと思います。
ただし、使ってみないことには導入が進まないのも事実です。私が勤めていた事業所では、ご利用者をベッドから車椅子に移乗させるための機器を試験的に導入したことがありました。当初は「ふたりがかりで移乗したほうが早い」と言っていた職員も、実際に使ってみると「安全性が高い」「時間もそれほどかからない」「他のスタッフを呼ばなくていい」と利便性を理解し、正式な導入が決まりました。やはり自分たちの力や技術を過信しすぎると、テクノロジーへの抵抗感が生じます。ご利用者への利益のほか、職員の負担軽減、効率性などを多角的に検証し、抵抗感を払拭すれば機器の導入も進むのではないかと思います。
私は30年前まで、職を転々としてきました。しかし、介護の仕事を始めてからはこの道ひと筋です。誠意をもってご利用者に接すれば、相手の表情が目に見えて変わっていく。おむつ交換の時に「ここ、痛くないですか?」と声をかけることでご利用者とのつながりが深くなる。そんな変化を体感しましたし、ご利用者の「ありがとう」という言葉に私自身も癒されてきました。現在も訪問介護に従事し、やりがいの大きさを日々感じています。
にもかかわらず、介護職は長年「3K(きつい、汚い、危険)」と言われてきました。今は、その専門性が認められ、介護職員等特定処遇改善加算により平均給与額が増加していますが、処遇についてはまだまだ改善の余地があります。日本介護福祉士会もしっかりと国に働きかけ、「私たちは専門性をもったケアを担っている」と訴え続けなければいけないと思っています。
また、現場で介護に携わっている方々にも、もっと自信をもっていただきたいと思います。介護職には控えめな方が多いですが、皆さんが従事しているのは高度な専門職です。ご利用者の体調を日々アセスメントし、状況に合わせてケアの仕方を変えている。ご利用者の要望に合わせて仕事をしている。そんな高度なケアを日々行っているのに、それを表現できていないのはもったいなく感じます。日本介護福祉士会でも介護職の魅力を発信していますが、現場の職員が自身の専門性をしっかり表現できれば、介護職の評価もさらに高まるのではないかと思います。
最後に、介護福祉士の皆さんにふたつのメッセージを送りたいと思います。
ひとつは、介護過程の展開をしっかり実践してほしいということ。介護福祉士がケアを行う際には、まずご利用者の情報を集めて課題やニーズをアセスメントします。そして、一人ひとりに適した個別介護計画を立案し、介護を実施していきます。日々の介護においても、こうした個別介護計画に基づき、ケアを提供いただきたいと思います。それこそが介護福祉士の専門性ですし、皆さんが行う介護には根拠があり、アセスメントの元で実践していることをぜひ声にしてほしいと願っています。
もうひとつは、認定介護福祉士を目指してほしいということ。介護福祉士の有資格者は、ケアの実践経験を積んだあと、ケアマネジャーになるのが一般的なキャリアパスです。ですが私は、それ以外にも道はあると思っています。事業所にとどまりケアマネジャーを目指すのではなく、地域で力を発揮する道もあると考えています。地域包括ケアの推進には、ご利用者に寄り添う専門職として、より広い視野をもった介護福祉士が必要です。そのための専門的な技術・知識をもつのが、介護福祉士の上位資格である認定介護福祉士です。さらなるキャリアアップとして、ぜひ認定介護福祉士を目指してほしいと願っています。
団体名 | 公益社団法人 日本介護福祉士会 |
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住所 | 〒112-0004 東京都文京区後楽1丁目1番13号 小野水道橋ビル5階 |
設立 | 1994年2月 |
目的 | 介護福祉士の職業倫理の向上、介護に関する専門的教育及び研究を通して、その専門性を高め、介護福祉士の資質の向上と介護に関する知識、技術の普及を図り、国民の福祉の増進に寄与すること |
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