私たちの働き方改革

2022/12

看護記録の音声入力で業務を効率化 超過勤務を減らし、やりがいのある職場環境に

看護記録の音声入力で業務を効率化 超過勤務を減らし、やりがいのある職場環境に

偶然の出来事から音声入力の便利さを実感。活用が広がる結果に

清水

とはいえ、音声入力が浸透するまでには時間がかかりました。看護師は「勤務時間内は患者さんのそばでケアをするものだ」という意識が根強く、以前は看護記録をつけるのは17時以降が「当たり前」で、勤務時間中に記録をするなんて考えたこともありませんでした。日中、ナースステーションで記録をしている看護師を見ると、「勤務時間中なのに何をしているんだろう」と違和感を覚えることもあったほど。また、スマートフォンに向かって話しかけることにも恥ずかしさがあり、抵抗を感じる看護師もいました。そこを乗り越えるのに苦労しましたね。

副看護師長 清水 美紀さん

武田

そんな中、音声入力が一気に広まるきっかけがありました。当院の看護部では、先輩と後輩がペアになって患者さんを受け持っています。ある時、日勤の先輩看護師が、朝に出席しなければならない会議があるのを忘れていて、後輩の看護師に共有事項を伝えることができないと大慌てしたことがありました。その時、「そうだ、音声入力で伝えればいいんだ」とひらめき、観察項目や必要なケアや処置を記録の下書きとして、音声で入力しました。後輩看護師はベッドサイドを回る際、その下書きに沿ってケアや処置を行い、観察したことを記録の下書きに追記していき、安全かつ安心な状態で患者さんをケアすることが出来ました。
この出来事をきっかけに、朝の情報収集前に先輩から後輩へ音声入力で共有をするという習慣ができました。その結果、業務開始15分前までは病院に出勤しないというルールも生まれ、超過勤務のさらなる削減にもつながりました。

看護師長 武田 理香さん

患者さんだけでなく、看護師の幸福も追求

藤野

NHPでは、看護記録の音声入力のみならず、他にも約90項目に及ぶ業務改善を行いました。例えば、勤務中に1時間半~2時間ごとに業務リーダーとスタッフはハドルミーティングを行い、看護師個々の残務量を確認し、業務量の均等化を行うようにしました。お互いに助け合い、チームとして、みんなで超過勤務時間を減らすための取り組みですね。

こうしたさまざまな業務改善策を取り入れた結果、翌年には、取り組み前に比べて、月一人あたりの超過勤務が3時間削減されました。

こうした取り組みにより、職員満足度の調査結果にも大きな影響が生じました。NHPを始めた2017年と2018年を比較すると、「やりがい」や「患者ケア」「患者ケア時間の充足」といった項目の満足度が大きく向上しました。超過勤務が減ったにもかかわらず、患者さんのベッドサイドで過ごす時間は減らず、逆に増えていることがわかったのです。

 

資料提供:聖マリアンナ医科大学病院

清水

業務改善に取り組んでいる間は、通常の仕事に加えて業務量調査もしなければならず、とても大変でした。でも、あるスタッフが「今はすごく大変だけど、今後の後輩たちを働きやすくするためだから頑張ります」と言ってくれたのです。その言葉を聞いて、私たちも頑張らなければと思いました。

藤野

働き方を変えるのは大変ですし、どこから手をつけたらいいのかわかりません。ですから、不満を言いながらもそのままのやり方を続ける病院が多いのだと思います。しかも、トップダウンで「変えなきゃいけない」と言うだけでは不十分。看護師たちが改革の必要性を理解し、「こういうやり方をするといいよ」と広めてくれなければ働き方は変わりません。現場で働く看護師も含めて問題点を洗い出し、業務改善してフィードバックをして……というサイクルを回しながら、より働きやすいやり方に変えていくことが必要だと思います。

本舘

私の究極の目的は、看護師の幸福を追求することです。看護師は、「患者さんのために」という使命感から、自分を犠牲にして仕事に打ち込む傾向があります。でも、ケアする看護師も、ケアされるべき存在。患者さんだけでなく看護師も尊重し、人間としての幸福を追求すべきです。そう考えると、働き方改革に取り組む意義も見出せるのではないでしょうか。

文:野本由起/写真:遠藤麻美

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施設名学校法人 聖マリアンナ医科大学 聖マリアンナ医科大学病院
住所〒216-8511 神奈川県川崎市宮前区菅生 2-16-1
開院1974年2月
病床数1,175床(一般1,123床、精神52床)
診療科総合診療内科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、腎臓・高血圧内科、代謝・内分泌内科、脳神経内科、血液内科、リウマチ・膠原病・アレルギー内科、腫瘍内科、神経精神科、小児科・新生児科、消化器・一般外科、呼吸器外科、心臓血管外科、小児外科、乳腺・内分泌外科、脳神経外科、整形外科、形成外科、皮膚科、腎泌尿器外科、産科・婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、放射線診断・IVR科、放射線治療科、病理診断科、麻酔科、リハビリテーション科、緩和ケア科

※2022年11月現在 聖マリアンナ医科大学病院ホームページより抜粋

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