私たちの働き方改革

2023/12

看護学生を夜間看護助手として活用し、病院の大幅増収や看護師の負担軽減を実現

看護学生を夜間看護助手として活用し、病院の大幅増収や看護師の負担軽減を実現

国立大学法人 東北大学 東北大学病院
東北大学病院 看護部

<お話してくれた方>
副看護部長 佐々木 百合花さん(中央)
看護師長    石垣 麻衣さん(左)
看護師長    片倉 睦さん(右)

東北大学病院 看護部では、「患者さんに優しい医療と先進医療の調和を目指した看護」という理念のもと、約1,200名の看護職が、安全・安心な看護の提供を目指し日々看護力を磨いています。同看護部が2019年から始めたのが、「夜間看護助手としての看護学生の活用」です。現在、全部署で導入しているこの取り組みで、夜間人員の確保や看護師の負担軽減、そして診療報酬の加算による大幅増収も実現しています。副看護部長の佐々木さんと、現在取り組みの中心メンバーである看護師長の石垣さんと片倉さんに、取り組みの成功の背景や現在の状況、今後の展望についてお聞きしました。

2019年始動の看護学生の夜間看護助手活用
成功の秘訣は「初動」にあり

佐々木

看護部では、夜間(16:00~22:00)の看護助手として看護学生を採用しています。この取り組みを始めるきっかけとなったのは、2018年に参加した国立私立大学病院副看護部長研修です。ある国立大学病院で、看護学生を看護助手として活用した「夜間急性期看護補助体制加算100対1」を導入した取り組みを知り、「これだ!」と思いました。もともと、就職後のリアリティショックの軽減のために看護学生のアルバイト導入を考えていましたし、現場としても夜間の看護人員不足は解決したい課題でした。

早速その病院から資料を取り寄せ、看護部内で検討し病院経営戦略会議へ提案。2019年5月には病院プロジェクトが発足し、経営管理課、総務人事課、医事課、経理課などの事務部門、そして大学の保健学科にも協力いただき、取り組みがスタートしました。

診療報酬の加算獲得には全部署での導入が必須です。2019年12月に3部署でのトライアルを実施し、そこから徐々に導入部署を増やしていきました。そして、2020年度に全部署での学生看護助手の導入を達成し、同年11月に「夜間急性期看護補助体制加算100対1」と「夜間看護補助体制加算」の算定を開始しています。

あらためて振り返ってみると、この取り組みは「初動」が成功の分かれ道だったと感じています。トライアルまでに、募集要項や採用、業務手順・基準の作成や導入部署選定、勤務体制、環境整備、研修内容の精査など……本当にたくさんの準備が必要でした。今日まで取り組みを継続できているのは、こうした準備やトライアルの中で「学生看護助手がきちんと働ける」環境や体制を整えるための手間を惜しまなかったからだと思います。

「看護学生を夜間看護助手として活用する取り組み」の経過図※『ナースマネジャー 2023年4月号』より抜粋(日総研出版)

学生看護助手の管理に現場スタッフの協力は必須
受け入れ病棟は挙手制で選定

佐々木

全部署導入のためにはトライアルでの成功が不可欠ですから、トライアルを実施する部署の選定は非常に重要です。そのため、基本的に挙手制としました。というのも、夜間は師長が不在になるため、学生看護助手の管理に現場のスタッフの協力は欠かせません。師長の一存や推進メンバーからのお願いだけではなく、部署のスタッフ全員がトライアルの参加に賛成してくれるところでないといけないと考えたのです。

片倉

当時私は、トライアル実施部署に所属していました。挙手した理由は、夜間の人員を少しでも充足させたいと考えていたからです。当部署は夜遅い時間に手術から戻ってくる患者さんが多かったため、夜間に看護師の手が必要になることも多いんです。その間、訪室や外回りを看護助手にお願いしたいのですが、夜間働ける看護助手がいない状況でした。

佐々木

挙手制だったとはいえ、学生看護助手の導入については現場の看護師の間で賛否両論があり、「必要ない」「学生が来ても…」といった声が上がっていたのも事実です。そこで力を発揮してくれたのが、プロジェクトの専従者だった元人事と業務担当の副看護部長でした。部署のスタッフ全員に協力してもらうために、この2名が部署に出向き、プロジェクトの目的や方法・注意点などを直接スタッフに説明する機会を設けていました。現場スタッフが納得して業務にあたるためのフォローにもつながっていたと思います。

資料を確認する佐々木副看護部長と片倉師長▲資料を見ながら話す佐々木副看護部長(左)と片倉師長(右)

面接は採否を決めるためではなく、
看護学生のことを「知る場」として実施

佐々木

実施のためには看護学生を集めなければいけません。採用面接は採否を決めるというより、応募してくれた学生たちを「知る」ことを目的に実施しました。また、学生看護助手として働くこと、昼間の実習とは違うこともきちんとお伝えしたうえで、本人の意思確認の場にもしていました。一人ひとりの個性を知ることで、配置などを考えるうえでの参考にもなっていたと思います。

ひとつ気にしていたことを挙げるとすれば、働ける頻度です。例えば月に1回のペースで来ていただいても、研修や実践で得た知識が蓄積されるのに時間もかかりますし、病院の雰囲気も掴みづらいでしょう。また、師長が勤務表をつくるうえで調整の手間がかかると思いました。ですから、コンスタントに働く時間を確保できることを大前提としてお願いしていました。

また、保健学科の協力のもと、広報活動も行いました。ポスターやポータルサイトの掲示板で募集をアピールしたり、授業開始前の5分を使って、私や師長から、プロジェクトについて直接看護学生に説明する機会も設けていただきました。結果、20名ほどの応募があり、全員を採用しています。

和やかな雰囲気で話す三名▲「看護学生の採用には期待と不安があった。不安をどのように解消するかをみんなで考えながら、プロジェクトを進めた」と語る佐々木副看護部長

現場と学生看護助手への濃厚なサポートが
トライアルの成功と、対応部署の拡大へつながった

石垣

学生看護助手にトライアルでお願いした業務は、シーツ交換や食事の下膳・配膳、氷枕・湯たんぽ交換、環境整備、車いす移乗などです。夕方は看護師も忙しく、指導する時間があまり取れないのではと考え、スモールスタートにしました。

佐々木

トライアルが始まってからも、現場からは「何を教えたらいいのかわからない」といった声が聞こえてきました。ですから、「学生看護助手勤務実施報告書」を確認しながら、「ここまでの業務はお願いしてもOKなので、学生看護助手を活用してください」とこまめに伝えていました。

また、学生看護助手からの意見を吸い上げるために意見交換会を定期的に設けたことも、効果的なタスクシフトにつながりました。どうしたら働き続けられるか、取り組んでみたい仕事はあるのかなどを聞きながら、学生看護助手の業務管理や内容もその都度見直していきました。

片倉

佐々木副看護部長も話した通り、トライアル中も学生看護助手にお願いすることを随時増やしていきました。例えば看護師が必ずいる場であれば体位変換を手伝ってもらえるようになり、看護師はとても助かっていたと思います。実際、現場の反応もとてもよかったですよ。こうした結果も病棟内に広げていったことで、学生看護助手の導入に立候補する部署もだんだんと増えていきました。

佐々木

特に2人の専従者は現場と学生看護助手をとても親身にサポートしてくれました。本来は日勤のところを夜まで残り、全部署を回って、学生看護助手と看護師がどんなやり取りをしているのか、学生看護助手がどんなふうに動いているのかを自身の目と耳で確認し、少しずつ調整を加えていました。物を購入したり、設備を整えることもとても重要なプロセスですが、何よりも、現場と学生看護助手への濃厚なサポートが、今日の安定的な運用につながっているのだと感じます。

石垣師長▲現在プロジェクトリーダーを務めている石垣師長

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施設名:国立大学法人 東北大学 東北大学病院
住所:〒980-8574 仙台市青葉区星陵町1番1号
創業:1913年
病床数:1,160床
診療科:総合診療科、循環器内科、総合感染症科、腎臓・高血圧内科、血液内科、リウマチ膠原病内科、糖尿病代謝・内分泌内科、消化器内科、加齢・老年病科、漢方内科、心療内科、呼吸器内科、腫瘍内科、総合外科、心臓血管外科、整形外科、形成外科、麻酔科、緩和医療科、呼吸器外科、救急科、婦人科、産科、泌尿器科、脳神経内科、精神科、脳神経外科、小児科、遺伝科、小児腫瘍科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉・頭頸部外科、てんかん科、リハビリテーション科、高次脳機能障害科、放射線治療科、放射線診断科、小児歯科、矯正歯科、口腔支持療法科、顎口腔画像診断科、歯科顎口頭外科、歯科麻酔疼痛管理課、歯内療法科、咬合修復科、咬合回復科、歯周病科、口腔機能回復科
※「2023年東北大学病院案内」より抜粋

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