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2025/6

看護師のためのマネー&キャリア相談室#09「仕事と不妊治療の両立」

看護師のためのマネー&キャリア相談室#09「仕事と不妊治療の両立」

この先、私はどんなキャリアを歩んでいくのだろう。将来のことを考えると、仕事だけじゃなく、お金の計画もきちんと立てなくては。でもこれ、誰に相談すればいいのかわからない……。

そんな看護師の皆さんのお悩みに、看護師の先輩であり、現在それぞれキャリアコンサルタント、ファイナンシャルプランナーとして活躍されている濱田安岐子さんと中林友美さんがズバリお答えします。第9回は、病院勤務のチヒロさんから不妊治療と仕事の両立に関するご相談です。

「不妊治療による急な休みに罪悪感…治療費用も悩みのタネ」

看護師・チヒロさん(38歳/大学病院勤務10年目)のお悩み

不妊治療を始めてから2年目になります。これまで人工授精に複数回トライし、現在体外受精の治療を行っているところです。職場の上司には治療のことを伝えていますが、正直なところ不妊治療について理解が浸透しておらず、同僚には話していません。そのため不規則な診療と仕事をこの先も両立できるか不安です。また夫も正職員として働いていますが、治療費用の負担が大きく悩んでいます。

“人生の大仕事は、看護経験を磨く絶好のチャンス

濱田さんのアドバイス

仕事をしながらの不妊治療は、大変なことだと思います。厚生労働省が企業向けに行った調査の引用ですが、不妊治療をしている人が仕事との両立が難しいと感じる理由は、多い順に「通院回数が多い」、「精神面で負担が大きい」、「待ち時間など通院にかかる時間が読めない、医師から告げられた通院日に外せない仕事が入るなど、仕事の日程調整が難しい」という結果が出ています※1。

※1「令和5年度 厚生労働省 不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」

たとえ不妊治療のための休暇制度があったとしても、同僚や上司に理解してもらっている実感がないと治療継続を断念してしまいそうになりますよね。おそらく、あなたは看護師としてもまじめにご自身の役割を全うしなければと思っているのだと思います。だからこその悩みだと理解します。

看護師の場合、ひとり急な休みを取るだけで業務負担が一気に増大するような感覚があります。不妊治療の突発的なスケジュールに合わせて休みを取ろうと思うと、「また急に休むの?」という職場の空気に耐えなければならないことも。職場からすれば、限界ぎりぎりで人員を調整するので、チームメンバーに迷惑をかけているという気持ちを払拭することは難しいと思います。

チヒロさんは看護キャリアが長く、現在リーダー的立場にあると思います。他方で、30代で妊娠・出産に対しても焦る気持ちがあるのかもしれません。でも、それはあなただけではありません。仕事と家庭、どちらも大事にしたいと思いながらも、妊娠するタイミングはいつがベストなのか、キャリア(仕事)を諦めるしかないのかと悩む人は多いのです。あなたも職場での役割意識が強く、その責任感から思い悩んでいるのだと思います。

しかし、キャリアの視点で考える場合、妊娠・出産・育児がキャリアの分断にはならないことをまずは知っておく必要があります。一般的に女性がライフイベントで仕事を休むとキャリアが分断されると言われるのは、男性中心の組織文化やアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)により、女性が職位や役割付与の機会を諦める判断をすることがあるからです。

一方、看護職はどうでしょうか。出産や育児のライフイベントは家族に対する看護経験として、成長の機会になると理解される場合が多いです。人を理解してケアをする仕事ですから、人生の大仕事はまさに看護職としての学びになると言えます。

同僚の理解が得られない場合は、勤務体制や情報周知について相談しましょう

このような前提に立ったところで、では、いつ妊娠・出産するのがベストなのかという検討事項があります。これは、その人それぞれの人生観やライフプランの問題ですから、正解はもちろんありません。しかし生物学的な出産適齢期と、子育てする自分自身の年齢を考えると、急ぎたくなる気持ちもわかります。このような妊娠・出産・育児を取り巻くさまざまな状況をふまえれば、不妊治療に力を入れて自分の人生を第一に考えることも悪くないと思います。

また、不妊治療に対する同僚の反応で嫌な思いをした場合は、速やかに職場の上司に相談しましょう。重要なのは相談の仕方です。相談後の職場環境を考えると、あなたに嫌な思いをさせた相手を「悪者」にすることは得策ではありません。同僚との関係性ではなく、急な休みが許容されるような勤務体制の工夫や、職場の理解を推進するための周知について相談した方がよいでしょう。

もちろん、十分に言葉を選んで相談しても、上司の理解が得られないこともあるかもしれません。その場合は、上司以外の相談先をあきらめずに探してみましょう※2。専門家とのカウンセリング以外にも体験者と悩みを共有できる場などもあるので、状況に応じて活用してみてはいかがでしょうか。

日本は、少子高齢社会で働き手が減る一方です。勤務しながら不妊治療をすることは、明日の日本社会を支えることになるのですから、あきらめずにがんばっている自分自身を労い、職場内での味方を見つけていけることを願っています。

さて、次回は不妊治療と仕事の両立にまつわるお金の話です。楽しみにしてくださいね!

※2 参考:不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック

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濱田 安岐子さん
NPO法人看護職キャリアサポート/株式会社はたらく幸せ研究所 代表
看護師/国家資格キャリアコンサルタント/ハラスメント相談員

看護師臨床11年、看護教員3年を経験した後、2006年からフリーランスとして独立。2010年、NPO法人看護職キャリアサポートを設立し、看護師が元気に自分らしくキャリアを継続できるように活動中。2018年には、株式会社はたらく幸せ研究所を設立。健康と幸福学で幸せに働ける社会を目指している。
中林 友美さん
フローレンス FP オフィス 代表
看護師/ファイナンシャルプランナー/国家資格キャリアコンサルタント

長らくがん看護に従事し副看護師長を経験後、FPなどの資格を取得。多忙で自分のことをつい後回しにしてしまう看護師が自分らしく輝く人生を歩むために、2019年よりフローレンスFPオフィスを立ち上げ、日々活動中。

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