資格のチカラ

2022/12

認知症ケア専門士

認知症ケア専門士は、認知症ケアに関する高い知識や技能、倫理観をもった専門技術士の養成と、日本の認知症ケア技術の向上、保健・福祉への貢献を目的に生まれた資格です。更新制の資格で、認定後は生涯学習が義務づけられています。

合格が学びの始まり! 認知症ケア専門士の歩む道

あしたかケアステーション
シルバーヴィラ向山
資格取得年月:2021年5月

介護福祉士

ひわたり かい樋渡 火生

認知症ケア専門士は、認知症患者さんの特徴やサポートの仕方、薬物療法、社会福祉制度など、認知症に関するさまざまな知識をもっています。介護福祉士として働く樋渡火生さんに資格を取ったきっかけや認知症ケア専門士の魅力、今後チャレンジしたいことについてお話をうかがいました。

勉強会で“学ぶ大切さ”に気づき、認知症ケア専門士にチャレンジ

樋渡さんが資格を取ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

21歳で介護士になってから10年弱は「介護の仕事は経験さえ積めばなんとかなる」と思っていて、必要最低限の資格しかもっていませんでした。ところが2018年に、介護士や看護師、民生委員の方などが集まり認知症について考える「ところざわ地域ケアの会」という勉強会に誘われ、初めて参加した時、同じ職種の方々が仕事終わりに集まって勉強している姿に衝撃を受けたんです。同時に自分の知識不足も痛感し、初めて「僕も勉強しなくては……」という気持ちが芽生えました。そして、何か資格を取ろうと考えたのがそもそもの始まりです。

介護の仕事に生かせる資格はたくさんありますが、なぜ認知症ケア専門士を選んだのでしょうか?

「ところざわ地域ケアの会」の代表理事をしている増川さんが、しきりに認知症ケア専門士について話されていたんです。「認知症ケア専門士は、合格したあとも勉強し続けなくていけない仕組みになっている。それに、主催する認知症ケア学会は、日頃から相談会やケアの研究発表をしている。認知症ケアをもっとよくするための工夫や取り組みがとても素晴らしいので、介護に関わる人はぜひ認知症ケア専門士を取ってほしい」と、力説されていて。増川さんがおすすめする資格なら取ってみようかなと思い、2019年の末から勉強を始めました。

薬学、医学、社会福祉制度……初めて触れる分野に大苦戦

資格取得のための勉強で、大変だったことを教えてください。

認知症ケアのスペシャリストを目指す資格なので、介護の知識だけではなく薬学や医学、社会福祉制度など、これまで少ししか触れてこなかった分野も深く学ばなくてはならないのが大変でした。また、介護福祉士などに比べるとまだまだマイナーな資格なので教材の種類が少なく、自分にあったテキストを選ぶことができません。文字がぎっしり書かれたテキストを読み込むのに苦労しました。

モチベーションを保つために、何か工夫していたことはありますか?

正直、勉強は好きではないので(笑)、試験に出そうとか苦手分野とか、そういう内容を重点的にやっても楽しめないと思いました。なので、テキストを読みながら、少しでも興味をもったり衝撃を受けたり、普段の業務に生かせそうだなと感じたページに付箋を貼って、そこから勉強していきました。それから「ところざわ地域ケアの会」には、認知症ケア専門士の資格をもっている方がたくさんいらっしゃるので、わからないことは聞くようにしていました。

認知症患者さんが心から安心できるケアができるように

資格を取って何か変わったことはありましたか?

これまで当たり前のようにやっていたケアに“知識”が加わりました。中でも「認知症の医学的特徴」「認知症の人の心理的特徴」「認知症の人との認知症の行動・心理症状(BPSD)とそのケア」などは仕事中によく思い出します。例えば、認知症のご入居者が何かに対して怒っている時、これまでは落ち着かせることに精一杯になっていました。でも心理学の勉強で「なぜ怒っているのか」というそもそもの部分を理解する大切さを知ったため、今はまず「何に不満を感じているのか」を理解し、解決してあげられるような対応を心がけています。

また、同じアルツハイマー型認知症でも、人によって「してほしい」と感じることは違います。人間らしさを尊重するケア技法「ユマニチュード」の一つに「触れる」ケアがありますが、触れることで安心できるご入居者が多い一方、あまりよい気持ちにはならないご入居者もいます。他にも、理解する能力や伝える能力が低下している認知症患者さんと会話をするためには言葉だけでは難しく、表情や、声のトーン、身振り手振り(ボディランゲージ)でも伝えなくてはならないため、とてもケアが難しいんです。でも幅広い知識や技法を学んだことで、一人ひとりに寄り添ったケアを考えられるようになったと思います。

樋渡さんの気持ちの面で何か変化はありましたか?

介護は人対人なので、ケアをする側の不安や焦りはご入居者にも伝わってしまいます。知識をもとに自信をもって対応できるからこそ、ご入居者にも余計なストレスをかけることが少なくなったと感じます。

業務がスムーズになった場面はありますか?

医師や看護師と連携しながらケアすることもあるのですが、その時のやり取りがとてもスムーズになりました。認知症患者さんが体調を崩したり、気持ちが不安定になったりした時、これまでは介護的な知識のみで「こんな変化がありました」と伝えるだけだったのですが、薬学や医学などの知識もある今は「認知症の薬の副作用や飲み合わせの問題かもしれない」「持病が原因かもしれない」などと、医学的な知識をもとに根拠を示しながら提言できるようになりました。

認知症ケア専門士は合格がゴールではない!

認知症ケア専門士の魅力はどんなところですか?

合格がゴールではないところが一番の魅力です。認知症ケア専門士は「更新制」なので、試験に合格したら、次はさまざまな講座に参加して5年で30単位以上を取らなくてはなりません。介護保険法施行規則の内容や正しい移乗介助の方法など介護の常識はどんどん変わるため、去年はよしとされていた制度・技術が今年はNGなんてこともざらにあります。新しい知識をインプットし続けられるのは、介護士として大きな強みになると思います。

これまで、どんな講座に参加しましたか?

最近、地域共生社会の講座に参加してきました。認知症患者さんだけの話ではないですが、ケアが必要な方を地域全体でサポートする大切さや、自分がその一部を担っていることを改めて感じました。さまざまな見守りシステムがあることも知り、ITの力で介護の現場が変わっていくんだろうなとワクワクしました。ちなみに30単位という条件をクリアするには、たとえ自分の興味が薄い講座であっても受けなくてはなりません。僕は医療分野の情報にうといので、認知症ケア専門士の講座が視野を広げるよい機会にもなっています。

意欲のある人がやりがいをもって働ける環境をつくりたい

今後、資格を生かして挑戦したいことはありますか?

介護経験の浅い若いスタッフや、セカンドキャリアなどで初めて介護職に就いた人の支援をしたいと思っています。残念ながら介護士は定着率の低い仕事なので、やりがいをもって働き続けられるような仕事に変えていきたいです。

介護士の定着率が低い理由について、樋渡さんはどのように考えていますか?

よく言われる「忙しい」「お給料が安い」などの理由の他、僕は「正解がない難しさ」も大きく影響していると思います。例えば、介護の常識はどんどん変わるので、自分の経験を強みに介護をしてきたベテランさんと学校を卒業したばかりの新人さんとでは、インプットされている知識に大きなギャップが生まれてしまいます。正解がないのでどちらが正しいとも言えないのですが、新人さん側からするとそのギャップが「どうしたらいいんだろう……」という困惑や、「やりたいことができない……」というモチベーションの低下につながり、結果的に離職の原因の一つになっているのではないでしょうか。

悩みを抱えるスタッフのサポートとして、何か具体的に行っていることはありますか?

今は勉強会など外部のコミュニティに誘うようにしています。働いている施設にどこか苦しさを感じているなら、他に自分にあう環境を探すことが大事だと思うんです。なので積極的に「こういうコミュニティがあるんだけど参加してみない?」と、外にも居場所がつくれることを伝えています。

こうしたサポートを続けていき、いずれは僕が施設を運営して、意欲のある人ががんばれる環境をつくりたいなと思います。介護士の「つらい」「きつい」といったネガティブなイメージをなくし、次の世代が安心して、誇りをもって働けるような職業にしたいです。資格を取るまではいつも受け身でしたが、認知症ケア専門士の資格を取ったことで初めて「自分が行動を起こして状況を変えたい」と考えるようになりました。

認知症ケア専門士の資格取得を考えている方に向けて、メッセージをお願いします。

認知症ケア専門士と聞くと介護分野の資格のように思えますが、決してそんなことはありません。今は介護施設、病院、公共施設など、どこに認知症患者さんがいてもおかしくない時代なので、みんなで認知症について考えていただき、ぜひ認知症ケア専門士にチャレンジしてもらえるとうれしいです。

1日のスケジュール

7:30起床介助ご入居者とその日初めて顔をあわすタイミングのため、とても大切な時間です。体温測定や会話などで体調を確認します。
9:00朝食食事の様子からも、その日のご入居者の体調を確認します。
9:30朝礼前日の夜から朝までに起こったことなど、必要な情報をスタッフ間で共有します。
10:00排泄介助、水分補給、散歩などご入居者の身体の状態にあわせて必要な介助を行うため、ケアの内容は毎日変化します。
11:30昼食
13:30排泄介助 水分補給、散歩、居室掃除などご入居者のケアに加えて、掃除や備品の補充などを行います。
16:30夕食
17:00就寝介助服薬、口腔、排泄、更衣、入床の介助などを行います。介助を終えたら、日中のご入居者の様子を夜勤スタッフに伝えます。
18:00勤務終了

取得方法・お問い合わせ

資格主催団体名:一般社団法人日本認知症ケア学会
資格種類:一般社団法人日本認知症ケア学会 民間資格
受験資格:認知症ケアに関連する施設、団体、機関等において試験実施年の3月31日より遡り、過去10年間において3年以上の認知症ケアの実務経験を有する者
ホームページ:認知症ケア専門士認定試験 制度の流れ

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