研修を受けて知った学びの楽しさ
認定介護福祉士は、2015年にできたばかりの新しい資格です。田中さんがこの資格を取ろうと思ったきっかけは?
私は2003年に介護サービスの会社を起業し、無我夢中で仕事をしてきました。それから10年以上経ち、介護福祉士の専門性を担保するために、日本介護福祉士会が生涯研修を推進していることを初めて知ったのです。当時の私は、本業も落ち着いてきて時間に余裕ができたタイミングでしたし、「私も勉強してみようかな」と思い始めました。そんな軽い気持ちで、群馬県介護福祉士会で開催している生涯研修のひとつであるファーストステップ研修を受けたのが最初のきっかけです。すべての講義が刺激的で、 その頃日本介護福祉士会のホームページで認定介護福祉士資格を知りました。「介護について発信する人になりたい」という夢を叶えるためにも、認定介護福祉士へのキャリアアップを目指そうと思いました。
認定介護福祉士になるには、600時間もの認定介護福祉士養成研修を受講する必要があります。実務との両立は、大変だったのでは?
私は施設の代表なので、ある程度スタッフに仕事を任せることができます。そのため、時間の融通は利きました。とはいえ、私が暮らす群馬では研修を受けられず、近隣の長野もすでに定員オーバー。そのため、研修のために月に2、3回群馬から静岡に通うことになりましたし、途中でコロナ禍になり、本来は3年で修了するはずが4年かかることに。JR東日本の「大人の休日倶楽部」に入って交通費を節約したり、電車の中では電子書籍の端末で参考書を読んだりしながら、お金と時間をやりくりしました。

認定介護養成研修で、特におもしろかったのはどんな内容でしたか?
研修の内容はもちろんですが、根拠を示すためにデータを引用したり、それを分析して考察したりといった学術研究の手法に興味を抱きました。私は高校卒業後すぐに医療の業界に飛び込んだため、大学教授から直接教えを受けられるのもとてもうれしかったです。学ぶ楽しさを知ったため、私が経営する施設の職員についても「研修を受けたい」という希望があれば、どんどんバックアップするようになりました。
現場実践を1冊にまとめ、次世代へのバトンに
修了時に作成した現場実践を、卒業文集のように他の受講生の現場実践とあわせて1冊にまとめることになりました。この活動に賛同してくれた卒業生で現場実践を編集・校閲したのですが、手を入れるとみるみる完成度が上がっていくのが楽しかったですね。せっかくなので、認定介護福祉士を目指す次世代の方々に参考にしてもらおうと思い、『明日へつなげる一歩』というタイトルで書籍化し、発売することにしました。
同じ研修を受けた皆さんは、どんな立場の方が多かったのでしょうか。
私のような経営者は少なく、現場で活躍している方がほとんどでした。チームリーダーを目指す方、すでにリーダーを務めている方が多かったですね。勤務時間を使って研修に来る方もいれば、有休を使う方、休みの日に通う方もいました。

「考え、つなげ、発信する」をモットーに、前進あるのみ!
レポート作成に苦労しました。介護の現場では、長い文章を書く機会がほとんどありませんから、文章で物事を伝えることに苦手意識があったのです。自分が言いたいことをただ並べるのではなく、根拠を示し、プロセスを踏んで文章を組み立てるのが難しく、論文の書き方などの本をたくさん読みました。
私は、何でも楽しんでしまう性格なんです(笑)。レポートに関しても、最初は「2000文字も書けない!」と思いましたが、書いているうちに楽しくなっていきました。逆に、「これはダメだ」と思ったら、10分もたたずに切り捨ててしまいます。我慢してストレスを溜めることもないので、息抜きをする必要もありませんでした。
前向きな姿勢が素敵ですね。座右の銘や信条はありますか?
私自身の言葉ですが、「考え、つなげ、発信する」を信条にしています。この言葉に向けて、行動を起こすのみ。逆に言えば、前に進むことしかできないのが私の弱点かもしれません(笑)。
「認定」の肩書を生かし、発信力を高めて前線に立つ
現在のお仕事で、認定介護福祉士の資格をどのように生かしていますか?
認定介護福祉士は、まだ約100名しかいません。だからこそ発信力が高く、この肩書を生かして前線に立つことができます。私も2022年9月に開催された「いきがい・助け合いサミットin 東京」で、認定介護福祉士として分科会に登壇させていただきました。
今後は、養成校を卒業したばかりの初々しい介護福祉士と、実践を重ねてきた30代、40代の橋渡し役も務めていきたいです。世代によって学んできたことも違えば、介護過程や介護実践の根拠に対する考え方も違います。そのギャップを埋めて、若い介護福祉士にとってより働きやすい環境をつくり、人財育成に力を入れていきたいです。
現場で働く介護福祉士が認定介護福祉士になることで、どんなメリットがあるのでしょうか。
実を言えば、まだその点が確立されていないんです。まだ知名度も低いため、まずは認定介護福祉士について広く知ってもらうことが重要だと考えています。とはいえ、地域包括ケアの推進、利用者のQOL向上など、認定介護福祉士がもたらす効果は確かにあります。ですから、地域における介護力の向上、他職種との連携など、幅広く活躍してもらえたらと思います。

各分野に特化した認定資格をつくり、本物のプロを育てたい
田中さんが、この資格を利用して挑戦したいことはありますか?
3つあります。ひとつは地域包括ケアにおいて、医療と同じ土俵に立てるよう介護職員の立場をもっと引き上げることです。例えばサービス担当者会議に出席しても、医師や看護師の意見で話が進むことが多く、なかなか発言の機会がありません。それではもったいないですよね。介護職者の知見を生かし、積極的に発信できるよう力添えできればと思っています。
ふたつめは、認定介護福祉士の社会的地位を確立することです。先ほどもお話ししたように、認定介護福祉士の資格を取得しても、今のところは大きなメリットがありません。私たちが認定資格を取ってから何を培ったのか、学会などでも発表していきたいと思います。
3つめは、3年後をめどに認定介護福祉士を束ねる組織をつくり、講師の派遣や教育システムの開発などを行うことです。認定介護福祉士が全国で活躍できる場をつくるとともに、将来的には認定看護師のように分野ごとに特化した認定資格をつくり、本物のプロフェッショナルを育成したいですね。
認定介護福祉士の資格取得を検討している方に向けて、メッセージをお願いします。
認定介護福祉士はもちろん、介護福祉士という資格も一般的にはあまり知られていません。介護福祉士の地位が認められないと給料も上がりませんし、環境整備もできません。そのため、今なお介護職は「3K」と言われてしまいます。でも、私たちの意識を変えれば、見せ方も変わるはず。そのための手段として、認定介護福祉士の資格を活用できるのではないでしょうか。自分自身のスキルアップはもちろん、この資格を取ることで介護福祉士全体の地位向上につなげていただければと思います。
