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2017/3

薬を効果的に使ってもらうために。医薬品情報管理室の院内外での取り組み

院内で医薬品を適正に利用するため、医薬品情報の収集・管理・発信を担う医薬品情報管理室。新薬情報の提供や、医療従事者や患者さんの薬に関する疑問に答え、安全で効果の高い医薬品の利用を導いています。情報管理の重要性について、国立がん研究センター東病院 医薬品情報管理室の松井礼子氏にお話を伺いました。

松井礼子

国立がん研究センター東病院 薬剤部

あらゆる医薬品情報を集約する医薬品情報管理室

医薬品情報管理室の役割は、医薬品に関する問い合わせの対応と、院内で使用する医薬品に関する情報を集め、院内外へ発信することです。規模の差はあれ、どの病院にも設置が必要とされています。
当院の医薬品情報管理室には、私を含め3人の薬剤師が所属し、安全で適切に医薬品を使用するために、日々情報の収集と発信を行っています。

 

1. 新薬や変更のあった薬に関する情報の告知

厚生労働省や医薬品メーカー、医薬品医療機器総合機構(PDMA)などが発表した医薬品の最新情報や変更点などをまとめ、院内の医療従事者に告知することです。例えば、薬に対する注意喚起、添付文書に変更が生じたものについて、情報をまとめ、月に一度院内の薬剤部Webサイト上で情報誌として公開します。

2. 院内で使用する医薬品について、トピックス的まとめた資料を薬剤部Webサイトに掲載

医薬品情報を総合的にまとめた資料やトピックス的にまとめた資料化は各病院が独自に行う取り組みで、取り上げる内容は各病院がそれぞれ選んで掲載しています。当院はがん専門医院ですから、総合病院ではあまり使用されない抗がん剤などの薬の情報を豊富にそろえています。記載する情報も、がん治療にどのような効果があるのかなど、がんに特化しています。

 

医薬品情報管理室は薬で困ったときの駆け込み場所

3. 院内で医薬品に関しての疑問が発生した際、質問を受けて回答する

医師、看護師、薬剤師、その他院内の各職種から質問を受けます。
医薬品情報管理室に届く質問の頻度は1日あたり4~5件。院内の電話で質問を受け、都度調べて回答します。
看護師からの質問で多いのは、点滴の配合変化や、簡易懸濁可能かなど、患者さんに投与する時の疑問が主。医師からは、薬物治療に対して最適な用法・用量・剤形であるか、また薬の効果や副作用の可能性など、適正使用に関する質問が多いです。薬の飲み合わせや、注射フィルターの使用の可否など、よくある質問に関しては、薬剤部Webサイト上に回答をまとめてありますので、それを参照していただくことでスムーズなケアが望めます。

院内の疑問の問い合わせには、主に添付文書やインタビューフォーム、医薬品メーカーをはじめ、国内外の書籍、病院で契約している海外の医薬品データベースなどから収集して解決します。海外の情報にもアンテナを張り、情報を得ることはとても大切です。
特に新しい抗がん剤の場合、情報が少ないため院内での疑問が増えるのですが、国内での臨床試験のデータが少ないまま早期販売を開始するケースが多いため、一般的に公開されている情報が少なく、医療従事者が情報を集めるのは困難です。その際は、医薬品情報管理室に問い合わせていただくことで、海外での使用事例や効果の立証などの情報を集め、治療に活かせるようにしています。

 

精度の高い情報を導くために、患者さんの詳しい情報が必要

同じ薬の情報でも、その情報を欲しているのがケアに利用する看護師か治療に利用する医師かで、必要な情報は大きく変わってきます。質問者がどのような情報を欲しがっていらっしゃるのかを吟味し、それに対する質問を探しあてて答えていくことが、医薬品情報管理室には求められています。この作業は意外に難しく、薬剤師として臨床やチーム医療の中で多職種と触れ合い、各職種がどんな働きをし、どのような情報を得たいと思うのか、現場の感覚を身に着けたうえでようやく判断できるようになります。

より正確な情報を導くために、質問いただく際には、薬を使う状況や患者さんの状態などを詳しくお知らせいただけるとスムーズです。例えば、「A薬とB薬を同時に点滴してもよいか」という質問ですと、「使ってもよい」「配合変化が起きるのでNG」など0か1かの回答になってしまいます。しかし、「A薬をメインで流し、Bを側管から流したい」などと使用目的や患者さんの情報があれば、合わせて使ってはいけない薬だったとしても、「短時間の投与であれば問題ない」「B薬を投与する期間だけA薬の投与を止めれば大丈夫」などと対処法を回答できる場合もあります。細かい情報を提示いただくことで、それに応じて的確に返答することができるのです。
もちろん、私たち医薬品情報管理室からも必要な情報をお聞きしますが、看護師さんの側からも情報を提供してもらえると、さらにケアの選択肢を増やすことができるでしょう。

医師や看護師の皆さんには、薬に関して何か疑問があれば、病棟常駐の薬剤師や医薬品情報管理室へ気軽に問い合わせてもらいたいと思います。疑問があるまま投薬して、患者さんに万が一のことがあってからでは遅いのです。データベース上のよくある質問を活用し、それでも足りなければ医薬品情報管理室にお聞きください。そのための情報を私たちは所有しています。

後編はこちら

松井礼子

国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院
薬剤部 医薬品情報管理室
薬剤師

【略歴】
1997年
北海道薬科大学薬学部卒業
1997年
国立札幌病院(現・北海道がんセンター)薬剤師
2006年
国立がん研究センター東病院 薬剤師

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