札幌市北西部の高度急性期を担う地域中核病院、手稲渓仁会病院。ドクターヘリや最新の医療機器を導入するなど、積極的な展開を進めていますが、これらはすべて患者目線のサービスを追求してきたからこそできたことでした。医療法人 渓仁会 手稲渓仁会病院 院長の成田 吉明氏に成功する病院経営についてお話を伺いました。
2018/1
札幌市北西部の高度急性期を担う地域中核病院、手稲渓仁会病院。ドクターヘリや最新の医療機器を導入するなど、積極的な展開を進めていますが、これらはすべて患者目線のサービスを追求してきたからこそできたことでした。医療法人 渓仁会 手稲渓仁会病院 院長の成田 吉明氏に成功する病院経営についてお話を伺いました。
医療法人 渓仁会 手稲渓仁会病院 院長
札幌市北西部に位置する手稲渓仁会病院は、1987年に開院した札幌二次医療圏に属する病院です。患者さんの多くは手稲区近郊を中心に来院されますが、開院以来一貫して急性期総合医療に従事してきたこともあり、石狩・後志地域など札幌市外からの患者さんも来院されています。また、道内で初、全国で9番目に導入したドクターヘリの基地病院でもあるため、広域にわたる道央全域からの患者さんの受け入れも行っています。開院時には500床だった病床数は、現在670床と拡大。職員数も約1,880名と年々増加しています。外来数は1日1,200人前後。月の新入院患者数は1,600人以上で、恐らく道内屈指の数ではないかと思います。また、地域医療支援病院、地域がん診療連携拠点病院、地域災害拠点病院などさまざまな指定を受け、2012年度からはDPC医療機関群Ⅱ群「高診療密度病院」としても評価認定されました。
開院以来の30年間で、病院規模は着実に拡大してまいりました。そうしたことから対外的には、「成功している病院」と見られているかもしれません。
地方のプライベート病院が今日のように大きく成長できたのは、初代院長が掲げた4つの理念のうちの一つ目、「患者主体の医療に徹する」を常に心掛けてきたからだと思います。患者さんにとって満足度の高い医療を提供すること、それに尽きると考えています。
例えば、これまで不可能だった手術が可能になったり、体に負担の少ない手術による早期の社会復帰の実現もその一つです。
当院では、2011年に鏡視下手術支援ロボット「da Vinci(ダヴィンチ)」を道内でいち早く導入し、保険適用になる前から前立腺全摘除術の実績を積み重ねてきました。2012年の保険適用以降は、前立腺全摘除術はすべてda Vinciで実施。症例数は2017年9月現在で、510例を超えています。開腹手術に比べて体への負担が少なく、がんの治癒率の向上にも貢献しています。
鏡視下手術支援ロボット「da Vinci(ダヴィンチ)」での手術の様子
2013年に保険適用になった、経カテーテル的大動脈弁留置術「TAVI」も、道内初の認可を受け、2017年9月現在で100例の手術を実施しました。高齢者、合併症のリスクのある方など、開胸手術を受けることができなかった方々も、これによって治療ができるようになりました。
最先端の医療機器を積極的に導入し活用することも、質の高い医療の提供を実現し、患者満足度を高めるうえで必要不可欠なことだと考えます。
ソフト面での取り組みにも力を入れてきました。中でも、「ERAS(Enhanced Recovery After Surgery)」は、北海道のみならず、全国でもかなり早い段階で取り組みを始めました。ERASとは、エビデンスに基づいたプロトコールによって周術期管理を行い、患者さんの術後の早期回復を目指す、ヨーロッパで考案されたプログラムです。当院でも医師を中心に、看護師、理学療法士、管理栄養士など各職種がチームとなり、術前から術後にわたって患者さんに関わっていきます。特に消化器系のがんを中心にすでに数百例を超す症例があり、学会などでの発表も積極的に行っています。
ERASの代表的なポイントは、絶飲期間が最小限で済むことです。術前ぎりぎりまで水やスープ食をとることができ、術後も早期に経口摂取を開始できます。この取り組みによって患者さんの回復が従来に比べてはっきりとした有意差をもって改善しているので、素晴らしいプログラムだと思います。
また、「患者サポートセンター」も患者さんに負担をかけない、よりよい医療サービスの提供に寄与しているものと実感しています。2016年10月に本格オープンした患者サポートセンターは、「患者さんを歩かせない」「患者さんに同じことを聞かない」「患者さんが迷わない」を実現する「ワンストップサービス」を特長としています。例えばこれまでは、患者さんが社会福祉制度の説明を受けたいときは医療ソーシャルワーカーのもとへ行き、手術前後の説明は看護師のもとへ行くというように、患者さんがあちこちへ移動する必要がありました。しかし、これでは患者さんにとって負担が大きい。そこで当院では、相談・説明の窓口を一元化しようと試みたのです。
患者サポートセンターには、カウンター8席と個室の相談室10室が備えられています。相談に来られた患者さんは、移動することなく同じ席に座ったままで、そこに担当者がそれぞれ説明に伺うことで、必要な情報提供を一ヵ所で受けられるという仕組みです。そのような形を理想形としてサービス向上を目指しています。なにより一元化されたことによって、入院前の患者さんへのヒアリングが重複しなくなることが大きなメリットです。以前は、食べ物や薬のアレルギーなど、患者さんにとっては「またその質問か……」と思うほど、各職種が同じ質問をしていました。大切な情報は何度聞いてもよいという考え方もあるかもしれません。しかし、患者さんへの負担はもとより、業務効率上あまり好ましい状態ではありませんし、反対に大事なことが抜け落ちる可能性もあります。何の情報をどの職種がチェックするのかなど業務の見直しを行い、総合的に患者サポートセンターで対応するようにしました。
広々とした患者サポートセンター
こうした取り組みは、当院が初めて行ったわけではありません。よい取り組みを行っている他病院へ、何ヵ所か見学に伺って始めた内容もあります。患者満足度の向上にはあらゆる方向からサービスを検討する必要があります。よいものを敏感に察知できる感性を磨き、常にアンテナを張り巡らせておくことも大切なのではないかと思います。
後編はこちら
医療法人 渓仁会 手稲渓仁会病院 院長
【略歴】
1960年北海道旭川市生まれ。1985年に北海道大学医学部を卒業と同時に第二外科に入局、1989年に北海道大学大学院を修了。帯広厚生病院、伊達赤十字病院、北海道大学病院を経て、1997年に手稲渓仁会病院に入職。外科主任医長、外科部長、副院長兼地域連携福祉センター長を歴任し、2015年4月より現職。
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