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2018/7

看護職の努力が報われる、新たな「労働環境」を提案

2017年の病院看護実態調査で、新卒看護師の給与額が前年度に比べて微増しているのに対し、勤続10年の中堅看護師の平均基本給与額は減額していることがわかりました。また、夜勤手当においても過去5年以上横ばいが続いています。看護職がモチベーションを維持しながら長く働き続けるための「努力に見合った適正な報酬」はどのようにして実現していくのでしょうか。同年6月に日本看護協会会長に就任した福井トシ子氏に、2018年度の重点事業として掲げられた「看護職の働き方改革の推進」についてうかがいました。

福井 トシ子

公益社団法人日本看護協会 会長

看護職の数を集めるより、「質」を高めていくことが優先

前編はこちら

日本が世界でも類を見ない少子高齢化に突入するなか、厚生労働省からは、新たに団塊ジュニア世代が65歳に達する、2035年を見据えた「保険医療2035提言書」が公表されました。パラダイムシフトとして挙げられたのは、「量から質へ」「分散から統合へ」。前者は、人材というソフト面において「量から質へ」転換していくことを示唆しています。そして後者は、高度急性期から慢性期までの医療機関をそれぞれの点として、そこから線や面へと「統合」していくハード面での転換を意味しています。

とりわけ「量から質へ」の転換は、早急に対応していかなければならない目下の課題です。現場で働く50代のベテラン看護師は、「看護の質」を握る貴重な存在です。就業している約170万人の看護職の約22%を占めているこの世代が、親世代の介護によって休職、退職を余儀なくされるようなことはなんとしても避けなければなりません。また、看護職は比較的早い段階から、子育て世代に対する勤務時間の整備が進められてきました。しかし、その一方で、夜勤従事者の慢性的不足が問題となっています。夜勤労働による負担軽減に努めると共に、リスクに見合った報酬体系の見直しが求められているのです。

 

努力に見合った報酬体系モデルの普及を目指す

日本看護協会では、「看護職の賃金体系モデル」を提案しています。夜勤従事者においては一回あたりの夜勤手当を増額し、夜勤労働への高い評価を反映させる報酬体系を提案しています。また、勤務時間の見直しでも、基本給を下げずに一カ月あたりの所定労働時間を減らす取り組みを推進しているところです。夜勤従事者においては、勤務終了から翌日の始業までのインターバルを保障する11時間のインターバル確保を、労働法制のなかで位置づけていくことも、同時進行で実現していかなければなりません。

また、夜勤従事者に限らず、看護職の賃金は、他の医療職に比べて上昇率が非常に緩やかで、昇進や昇格のチャンスが非常に少ないことがわかっています。看護職全体として、より努力が報われる報酬体系にしていかなければ、今後は「看護の質」を維持するのが難しくなるでしょう。しかし、診療報酬が主な財源である医療機関では、無い袖を振ることはできません。そこで日本看護協会では、その打開策として、新たな賃金体系モデルを打ち出しました。看護職を「専門職群(ジェネラリスト)」「管理・監督職群(マネジメント)」「高度専門職群(スペシャリスト)」の3つの複数型人事に分類し、それぞれの等級制度で賃金を充当していくというモデルです。

具体的には、ジェネラリストの等級制度であれば、看護師のキャリア開発ラダーや助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)などのラダーレベルによって、賃金を確定し、マネジメント層やスペシャリストは職位や職務によって賃金を割り振ります。つまり、これまでのように医療機関で働く看護職が勤続年数に応じて昇給していくのではなく、それぞれの役割に応じて評価されるようになるのです。これにより医療機関の負担は増やさずとも、個々の看護職にとって「努力に応じた報酬」が得られるようになります。

 

世界30ヵ国で「Nursing Now! キャンペーン」がスタート

看護職のワーク・ライフ・バランス(以下WLB)は、今、世界中で注目されています。「看護職が活躍できる社会の実現」を目指し、世界30ヵ国で、ナイチンゲール生誕200年(2020年)に向けた「Nursing Now! キャンペーン」が実施されているのです。これは英国王立産婦人科医協会(RCOG)のパトロンを務めるキャサリン妃が、今年2月に立ち上げたキャンペーンです。目的は、より多くの看護職が健康政策の意思決定に貢献し、世界の健康を向上すること。実際には、看護職のWLBを改善し、社会的地位の向上を促す内容となっています。

キャリアにおける選択肢は広がり、国内でも学士や修士を取得したり、教授や市区町村などで行政の長を務めたりする人も見られるようになりました。しかし、そうした一部の看護職によって社会的地位が向上したかというと、そうとは言いきれません。現場の看護職が患者さんからのハラスメントに苦しんでいる現状からすると、やはり社会における看護職の地位がまだまだ確立していない証拠でもあります。今後は、その道のスペシャリストとして活躍する以外にも、家庭を持ち、子供を産み育てながら働くという職業人生(ライフキャリア)がもっと評価されていいはずです。

国の医療費が今後ますます不足していくなか、予防医療を広めていく重要な責務は、看護職が担うことになるでしょう。そうした看護の役割を拡大し、社会的影響力を強めながら、「Nursing Now! キャンペーン」をきっかけに、日本看護協会として「看護職に先行投資することの社会的価値」を、もっと社会に働きかけていきたいと思います。

福井 トシ子

公益社団法人日本看護協会
会長

【略歴】
2005 年3 月 国際医療福祉大学大学院博士後期課程修了
東京女子医科大学病院、杏林大学医学部付属病院総合周産期母子医療センター師長、
同院看護部長などを経て、2017年6月から現職
【役職】
公益社団法人日本看護協会 会長
【資格】
看護師、助産師、保健師、診療情報管理士、経営情報学修士、保健医療学博士

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