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2019/8

“医療従事者でさえ”知らない? 介護サービスの「鍵」をにぎるのはケアマネージャー

『介護はケアマネで9割決まる!』――。これは、Nursing-plaza.comの「こちら、ナース休憩室別館」でおなじみの著者、小林光恵さんの最新刊です。介護の仕事といえば、介護福祉士を想像する方も多いかもしれませんが、小林さんいわく、介護のキーマンとなるのはケアマネージャー(以下、ケアマネ)であり、とても重要な職業なのだそう。しかし、ケアマネの役割をしっかりと理解している人は、医療従事者も含め多くはないといいます。今回は、看護師である小林さんが多くのケアマネを取材する中で見えてきた、ケアマネという職業の現状についてお話しいただきました。

小林 光恵

作家・看護師

31年ぶりの看護師免許で飛び込んだ介護の現場
ケアマネの重要性に気づき出版を決意

私は、2017年の秋からつくばのデイサービスセンターで、看護師として週3回働いています。「介護の現場にふれたい、勉強したい」という気持ちに背中を押され、介護の現場に飛び込みました。取材として現場に入ることはあったものの、実際に業務をするのは、31年ぶり。施設利用者さんと関わると、直に感じる息づかいや皮膚感に、懐かしさもあってか妙に感動したことを覚えています。同時に、改めて介護保険や地域包括ケアシステム、介護現場ならではの環境など、介護について、知っているようで知らないことがとても多いことにも気がつきました。

小林光恵さんの最新刊『介護はケアマネで9割決まる!』(株式会社 扶桑社)

また、年齢がら、同級生や出版関係者など、周りに「親の介護」への漠然とした不安を抱えている方も着実に増えてきていました。介護の不安を少しでも解消するためには、介護保険サービスを中心とした知識を得ることが大切なのではないかと考え、それをテーマにした書籍を作りたいと考えたのです。その際に思い出したのが、2002年にドラマ化された小説『ナースマン』の執筆のためにたくさん取材させていただいた、男性看護師の言葉でした。彼は、訪問看護ステーションをはじめ、訪問介護ステーションや居宅介護支援事業所などを経営する、敏腕ナースマンです。

「自分が介護されることになったとき、よいケアマネに頼めるといいなあ。介護の質を決めるのはケアマネですからね」

この言葉を聞いたのは、3年前の2016年。当時の私にはよくわからなかったものの、実際に現場でケアマネと関わり、その仕事ぶりを見る中で「確かにそうかもしれない」と強く感じるようになりました。こうして、ケアマネをテーマにした、『介護はケアマネで9割決まる!』の出版が決定したのです。

 

要介護者の生活の“核”となる仕事
そもそも、ケアマネとは?

さて、皆さんは、ケアマネがどのような役割を担っているのかご存知ですか?
実際のところ、看護師でも、ケアマネの実態をしっかりと理解しているという方は、まだまだ多くはないのではないかと思います。かくいう私も、この本を制作するまでケアマネの実態をほとんど知らなかった者の一人です。まずは、ケアマネとはどのような職業で、どのような方がなることができるのかをご説明しましょう。

ケアマネとは、2000年に介護保険制度の施行と共に発足した職業です。介護保険制度において、担当した要介護者の状態や生活状況を把握し、ケアプランを作成するのが重要な業務内容の一つ。さらに、要介護者とその家族が関わる、医師や看護師、リハビリ関係者や介護関係者など、多職種全体の調整をはかる、コンダクターとしての役割も果たしています。つまり、ケアマネとは、要介護者の介護生活全体の「プランナー」なのです。介護生活の“核”といっても過言ではないでしょう。

また、ケアマネは「資格職」です。受験資格も特徴的で、医師や看護師、准看護師、介護福祉士や社会福祉士、保健師などの資格を有している者が5年以上(かつ9000日以上従事)の実務経験を有する者のみが対象となっています(東京都福祉保健財団ホームページより)。これが、ケアマネの「基礎資格」と呼ばれるもの。この基礎資格によって、ケアマネの強みは大きく異なります。例えば、基礎資格が看護師であれば、薬や栄養などにも理解が深く、要介護者が病気のときなどにその強みを活かしたケアプランを立てることができます。一方、基礎資格が介護福祉士であれば、介護者家族に介護の方法をアドバイスすることもできます。このように、自身のこれまでの経験を活かして、要介護者の介護生活をプランニングしていくことができるのが、ケアマネの仕事です。

 

発足当初から約5分の1まで減少
ケアマネを志す人が減少している原因

ケアマネは、要介護者とその家族の介護生活を全般的にサポートできる魅力的な仕事ですが、実は今、ケアマネの担い手の減少が大きな問題となっています。平成10年に行われた、第1回の試験で207,080人だった受験者は、平成30年には49,332 人(厚生労働省第21回介護支援専門員実務研修受講試験の実施状況についてより)まで減少しているのです。

この背景には、要介護者やその家族、他職種とも関わるケアマネの、過酷な仕事ぶりが影響しているでしょう。家族によって要望やこだわりもさまざまで、介護サービス事業の特色も多種多様です。正解がない仕事だからこそ、家族にあったよりよい介護プランを模索し提案していくというのは、大変な難しさを伴います。こうした案件を一人で何件も抱えなければならないのですが、私が取材したケアマネさんは、一人あたり20~35件の案件を抱えている方がほとんどでした。

また、何よりも大きな問題は、給与の低さでしょう。日本人は特に、薬や機械など目に見えるものにはお金を支払いますが、カウンセリングなどの相談や指導料にはお金を積極的に出さない感覚があります。ケアマネの仕事は、要介護者家族から相談を受け、医療・介護施設と調整を図り、介護プランを立てるというように、「見えない労働」の際たるもの。だからこそ、給与も上がりにくいのかもしれません。

さらに、今や介護福祉士の給与を手厚くしていこうという動きが活発化しており、ケアマネに日の目が当たりにくくなっているようです。しかし、徐々にケアマネの労働環境に対する声が届いているとも聞きます。だからこそ、今を契機として、もっともっとケアマネ自身にも声を上げてほしいです。また、こうした環境の中でも、要介護者や介護者家族のために尽力しているケアマネがたくさんいるということを、多くの方に知っていただきたいですね。


後編では、急速に高齢化が進むこれからの時代だからこそ求められる、ケアマネのスキルについてご紹介します。

小林 光恵

作家・看護師

茨城県生まれ、東京警察病院看護専門学校卒業。看護師として東京警察病院、茨城県赤十字血液センターに勤務。その後編集者を経て独立。現在は執筆を中心に活動している。
マンガ『おたんこナース』、日本テレビ系列『ナースマン』原案本の著者。著書に『死化粧(エンゼルメイク)最期の看取り』(宝島社文庫)、『ナースのおしゃべりカルテ』(幻冬舎文庫)、『12人の不安な患者たち』(集英社文庫)、『ナースのための決定版エンゼルケア』(学研メディカル秀潤社)、『こちら、ナース休憩室』(PHP研究所)等多数。

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