インタビューアーカイブ

2019/11

1,000人以上のボランティアが活動する 社会福祉法人「小茂根の郷」の地域連携とは

特別養護老人ホーム、在宅サービスセンター(デイサービス)、訪問看護ステーションをはじめとした8つの事業を運営する社会福祉法人「小茂根の郷」。地元・板橋区に根差した活動を行い、地域の方々に愛され続け、いまでは、1,000人以上のボランティアが、その活動を支えてくれるまでに成長しました。なぜこれほどまで多くの住民を巻き込むことができたのか、どんな仕掛けや工夫を施していったのか……? 施設長の杉田美佐子氏に、住民と入所者がイキイキと関わり合う“活発な地域連携”のポイントについてお話いただきます。

杉田 美佐子

社会福祉法人 小茂根の郷 理事 施設長

職員が「楽しいと思うことをやる」ことで
さまざまな活動が動き出した

前編はこちら

私が副施設長に着任した2004年頃、小茂根の郷には、まったくと言ってよいほどボランティアの方がいませんでした。地域とのつながりはほとんどなく、まったく情報が入ってこない、まさに“孤立状態”。これではいけないと思い、まずは在宅サービスセンターの職員に、「自分が楽しいと思うことを、どんどんやりなさいよ」と伝えました。

利益率の向上を目指して在宅サービスセンターを大型化したり、スタッフのリテラシーを上げるため介護保険や医療に関する研修を行ったり……。ちょうどさまざまな組織改革を行い、介護職スタッフの意識が変わりつつあるタイミングだったからでしょうか、「えっ、いいんですか? それなら……」という感じで、「利用者とランチに行く」という活動がスタートしました。そのうちに「100均に行ったことのない利用者の方が多い」「回転寿司に行ってみたいという方がいる!」と盛り上がり、どんどん新しい企画が立ち上がるように。利用者からも「あれをやってみたい、これをやってみたい」という声が上がるようになって、絵手紙やフラダンスなどのクラブ活動が次から次へと始まりました。なかには、利用者が講師を連れてくるケースも。外に出ることで地域の人たちの目に触れる機会が増え、少しずつ外部の方が参加してくださるようになり、これによって「地域連携の下地」のようなものが出来上がったと感じています。

 

近隣8町会の会長に「お願い行脚」を行い
これまでにない規模の納涼祭を実施!

そのあとに行ったのが、納涼祭の改革です。これまでの納涼祭は、ひとつの町会のごく一部の方とデイサービスの利用者が参加する、活気があるとは言いにくいイベントでした。そこで近隣8町会の会長のところにご挨拶に伺い、「参加してほしい」と丁寧にお願いして回ったのです。最初は「どんな人がいるかわからないから参加したくない」「そもそも小茂根の郷がなにをしているところなのかよくわからない」など否定的な意見が多かったのですが、なんとか説得し、8つすべての町会の方々にご参加いただけることになりました。

続いて、職員に対し、「全員、必ず参加するように」「町会やボランティアの方への感謝を忘れず、元気に、明るく、徹底して、挨拶をするように」という強い指示を出しました。さらに、大学で講師をしている友人のツテで学生ボランティアを集め、これまでの納涼祭とは比較にならない人数の参加者を集めたのです。

多くの人が集まり、いっぺんに動くというパワーはすごいもの。屋台や盆踊りに人が集まり、笑顔が弾け、お祭りにこれまでにない活気があふれました。準備や片付けもあっという間に終わり、余った時間で、打ち上げが始まって。そこで、利用者、職員、地域の人たちのコミュニケーションが生まれ、信頼感や一体感のようなものが芽生えたのです。各町会の方もとても喜んでくださり、挨拶励行の効果もあって、「こんなに楽しいイベントは初めて。なんて気持ちがいいんだろう!」と言ってくださいました。

そこから、地域との関係がガラッと変わり、こちらを向いてくれるようになりました。町会の会議に出席させてもらえるようになり、地域の情報を継続して得られる環境に。ユニークなご経歴や特技を持つ方がたくさんいらっしゃると知って、「小茂根の郷に、ボランティアでいらしてくださいませんか?」とお誘いするまでになったのです。

 

ボランティアを巻き込んだ活動が広がり
「毎日、必ず、ボランティアがくる」状態に!

最初にボランティアとしてお越しになったのは、カラオケが得意な方たちでした。びっくりしたのが、「カラオケを教えるためにいらしたボランティアの方が、いつの間にか入所者からカラオケを習っていたこと」。実は入所者のなかに、声楽を習っていた方や、もっと歌が上手な方がいらっしゃって。ボランティアの方が、「僕たちが習いたい」と言って、通ってくださるようになったのです。そのうちに、ギターを弾ける人、尺八が吹ける人、ハーモニカが得意な人がいることがわかり、「だったらバンドをやっちゃったら」とすすめて、「シルバーバンド」というトリオバンドが結成されることになりました。シルバーバンドが活動を始めると、「私もやりたい!」と、バイオリン演奏やかっぽれなどの演芸活動が始まり、「演芸がありなら、園芸もありだよね」と花を育てる活動が立ち上がり……。いまでは毎日、ボランティアの方を巻き込んだ、なんらかの活動が行われています。

他に、洗濯物たたみ、つくろいもの、ドライヤーかけ、お茶出し、車いすの清掃など、さまざまなボランティア活動が行われるようになりました。毎日、必ず、ボランティアの方が来てくださり、必ず人の目があるという環境なんですよね。地域とのつながりが密になり、顔見知りが増え、顔見知りだからこそ気にかけてくれるようになりました。「あの人の様子がちょっと変だよ」などという報告も増え、リスクの察知につながっていると感じています。

 

すべての地域住にとっての
居場所のような存在にしていきたい

小茂根の郷では、65歳以上のボランティアの方に、ポイントという形で報酬をお渡ししています。これは、特に定年後の男性から「給料をもらうほどではないが、役立っていることを自覚したい」などの声が上がったことで始めた仕組みです。この制度が開始されてから、地域にあまり馴染まない人や、普段はボランティアをしないような男性が、活発にボランティア活動に参加してくれるようになりました。

カフェで行っている「大人食堂(シルバーデー)」も人気です。大人食堂(シルバーデー)は、500円で定食が食べられる、高齢者の集うサロンのような社交イベント。現在、380人の方に登録していただいています。これをきっかけにカフェに人が集まるようになり、いまでは大人食堂(シルバーデー)の開催日でない日でも、カフェに誰かしらがいるような環境になりました。

私が小茂根の郷に勤務してから、早いもので14年、施設長として11年。地域の方とこれだけの関係が築けたのは「早い段階で、町会長などのキーパーソンを捕まえることができた」からだと思っています。また、「地域の人や利用者の得意を見つけ、巻き込むことを心掛けた」「地域と施設を結び付けるような動きを意識し、顔見知りを増やした」「コミュニケーションの場をつくり、地域と施設との間の誤解やズレを埋めていった」ところもポイントです。

なにより、「社会貢献のためにやらねばならない」というのではなく「楽しいからやる」という雰囲気をつくることが大切。今後は、学生や子ども、地域のママさんを巻き込んで、小茂根の郷を、地域みんなの“家”にしたいと考えています。

 

杉田 美佐子

社会福祉法人 小茂根の郷 理事 施設長

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