インタビューアーカイブ

2019/12

適切なトリアージで、“持続可能な医療システム”の構築に貢献する

「3人に1人が高齢者」――。そんな超高齢化社会の到来が迫ってきています。超高齢化社会に対応する医療を提供するには、在宅医療を受けていない患者に対するアプローチが重要(前編参照)と述べました。後編では、病院前トリアージの重要性について、救急往診サービス「ファストドクター」の代表であり医師でもある菊池亮氏に伺いました。

菊池 亮

ファストドクター株式会社 代表取締役 / 医師

高齢患者の救急受診を支援する
夜間休日に特化した救急往診支援サービスを開始

前編で、これからの医療を考える際、避けて通れないのが『高齢者』であり、救急車で搬送された高齢者の約80%が在宅医療を受けていない患者さんであったことや、これらの患者さんに対する救急受診の支援が重要であることについてお伝えしました。

こうした背景を踏まえ、私たちファストドクターは、2016年に、「在宅医療を受けていない患者さんの救急受診を支援するための、夜間休日に特化した、医師による医療相談・救急往診支援サービス」を始めました。約300名の非常勤医による往診体制を構築し、東京23区・大阪市内をはじめとする都市部の患者さんを対象に、往診確定から最短30分で現場に到着、初療を行うサービスを提供しています。拠点となる診療所は、いずれも日中に外来診療を行っている一般診療所で、ファストドクターの理念に共感いただいた一般診療所を初期救急医療機関として再活用しています。

 

適切なトリアージと迅速な処置が
受療行動の適正化につながっていく

ファストドクターでは、2019年11月現在、1日で10~20名の医師が待機し問い合わせに対応する体制を整えています。患者さんからの医療相談があると対応可能な医療機関の電話窓口に取り次がれる仕組みになっており、そこで、コールトリアージによる緊急度判定を実施。コールトリアージは、消防庁の「コールトリアージマニュアル」を一部改変したものを用いて行っています。患者さんを、赤(救急車要請)、橙(1時間以内の受診)、黄(6時間以内の受診)、緑(翌日の受診)、白(経過観察)の5段階に分類、最終的には各医療機関の医師が判断を行い、全医療相談の3割程度が、橙・黄の往診対象になっています。
コールトリアージでは、アンダートリアージに注意をし、患者さんの身体に危険が及ばないように、常に細心の配慮をしています。

多くの非常勤医の先生、一般診療所の先生と協力し合いながら実際にサービスを提供してみて、病院前トリアージの重要性について実感しています。夜間休日の救急患者さんのほとんどは軽症患者さんであることから、医療相談で解決できる案件も決して少なくありません。実際、本当に往診が必要になるのは全医療相談中20〜30%に過ぎず、専門家が適切な受療行動を判断し、示してあげることの大切さを感じています。

 

無理なく、継続的に、
質の高い医療が提供できるような社会に

今後の課題は、いかにしてコールトリアージの正確性を高めるかと、通院困難の定義を行うか。特に通院困難の定義は難しいと感じています。私は、患者さんのADLと同居人の有無が重要であると考えていますが、他にも自家用車の有無、同居人の年齢、世帯構造など考慮しなければならない点が多く、引き続き、検討していきたいと思っています。

また、高齢者の方々の救急受診を支援するにあたって、どのようにして救急サービスの存在を知っていただくかについても考えなければなりません。高齢者の方々は、テレビや新聞などの限られたメディアから情報を得ることが大半なのではないかと思います。新しいメディアに接触することが少なく、ゆえに新しいサービスは認知されにくい傾向があります。#7119の高齢者による利用率は18%という報告があり、今後認知が広まることが期待されます。また、ファストドクターも高齢者による利用はまだまだ少なく、さらに草の根の活動を続けていきたいと考えています。

あわせて、診療所向けの救急外来支援サービスの展開も見据えています。現在、東京23区内で翌朝6時まで患者さんを受け入れている初期救急医療機関は、わずか1施設しかありません。結果として高次救急病院に負担が集中しています。こうした社会課題を解決するため、診療所が夜間救急外来を開院・運営することを支援するサービスを行っていきます。

救急往診だけでなく、救急外来においても一般診療所をサポートし、「時間外救急のプラットフォーム」へ。ソリューションを活用しながら、無理なく、継続的に、質の高い医療が提供できるような社会をつくる、その一助になれれば幸いです。

 

菊池 亮

ファストドクター株式会社 代表取締役
医師

2010年 帝京大学医学部医学科卒業。初期研修終了後、同整形外科学講座、その後に同救急医学講座に入局。
2016年にファストドクター株式会社を創業し、代表取締役に就任。

SNSでシェアする