2016年3月、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)では、地域全体の医療安全の向上を目的として「藤田あんしんネットワーク」を設立しました。医療安全の観点から各医療機関をつなぐネットワークは、全国的にもほかに例がなく、地域医療のひとつのかたちとして今後の運用に注目が集まっています。同ネットワークの設立目的や今後の展開について、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)の杉岡 篤氏にお話をうかがいました。
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2016年3月、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)では、地域全体の医療安全の向上を目的として「藤田あんしんネットワーク」を設立しました。医療安全の観点から各医療機関をつなぐネットワークは、全国的にもほかに例がなく、地域医療のひとつのかたちとして今後の運用に注目が集まっています。同ネットワークの設立目的や今後の展開について、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)の杉岡 篤氏にお話をうかがいました。
藤田保健衛生大学 副学長 / 医学部 外科学(肝臓・脾臓)講座 主任教授 / 前医療の質・安産対策部長、前手術・中央材料部長
2016年3月に発足した「藤田あんしんネットワーク」は、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)と近隣の医療機関が連携して地域の医療安全に貢献する、会員型ネットワークです。大学がネットワークの主軸となり、医学研究の一環として運営しています。
大学病院の取り組みではなく、大学での研究・教育として医療安全をとらえることで、事故の原因究明と発生の防止に長期的に取り組むことができます。さらに2017年度には、医療安全の専門家を育成する大学院開設を予定しています。現在医療事故について本格的に学んだ医療従事者はとても少ないので、専門的に対応できる人材を増やせればと思います。
医学部医学研究科のため、対象は医師がメインとなりますが、看護師や技師などにも門戸を開き、多職種で医療安全について考える場にしたいと構想しています。大学院で学ぶと同時に、附属病院の医療の質・安全対策部で研修も行い、学問と現場経験の両方でスキルを身に着けていただく予定です。
藤田保健衛生大学病院(現・藤田医科大学病院)では、これまで院内の医療安全や感染管理の強化を進めてきました。私たちには蓄積してきた医療安全や院内感染の知識、医療の質の改善策などのさまざまなノウハウがあります。これらを基礎として、地域の医療機関と情報の共有ができれば、地域全体で医療安全の向上を図れると考えています。
まず、各病院・クリニックの参考となれるよう当院の医療安全を確立させ、モデルケースとして公開する準備を進めました。それがようやく、2016年3月に「藤田あんしんネットワーク」として形になったのです。ここまで来るのに約10年の月日がかかりました。
当ネットワークには、医療事故が発生した場合に24時間365日いつでも電話相談ができる仕組みが整っています。当院のノウハウをもとに、医療安全に関する相談をネットワーク会員から直接受けられる仕組みです。元医療安全部副部長の看護師が安全管理専門の担当として常駐しているため、現場を知り尽くしたベテランが対応できるのが強みです。時間外も病院の安全管理担当者が電話を受け、24時間対応できます。
医療安全に関する取り組みというと、2015年10月よりスタートした「医療事故調査制度」をイメージされると思います。制度が始まったとはいえ、各病院・クリニックからは「何をどう報告したらよいのかわからない」という声が多くあります。医療事故調査制度に関する電話相談も、当ネットワークで受け付けています。医療事故が発生した場合、状況把握と原因究明の報告が求められるため、その報告書の作成をサポートします。
事故の報告自体は1週間~30日ほどの間で報告すればよいので、事故発生後にすぐに書類をまとめる必要はないのですが、現場の保存やデータ管理など、初期の対応と初動調査が必要な部分も多くあります。こうしたデータは原因究明のために欠かせないものですが、保存できておらずのちの調査で非常に苦労するケースも多いのです。のちの現場の保存方法などの事故の初期対応から報告書の作成報告まで、丁寧にサポートします。
医療事故調査制度で報告義務があるのは「予期せぬ死亡・死産事故」のみです。当ネットワークはそうした重大事故だけではなく、報告義務のない事故に陥る前のヒヤリ・ハット段階や、軽微な事故(インシデント)の情報も吸い上げていきたいと考えています。こうした小さな“気付き”を収集することが、事故防止の研究につながるからです。
集積した事故データは、大学の研究機関で検証や原因究明を進めます。その結果はもちろん、研修会や報告会にて、外部の病院の方々へフィードバックします。元々藤田保健衛生大学病院(現・藤田医科大学病院)内では、年4回、医療安全や感染管理に関する研修会を内部で行っていたのですが、2016年度からは、近隣の医療機関の方々を招く計画です。はじめのうちは講演会や当院がこれまでに集めた事例紹介が中心となる予定ですが、回を重ねるうちに具体的な事例検討会や事故防止のための研修や、KYTトレーニング(危険予知訓練)などの学びの場づくりを計画しています。当院から一方的に知識を公開するだけではなく、各病院・クリニックと情報共有しながら、ともに医療安全について考え、取り組んでいきたいです。
藤田あんしんネットワークもうひとつの特徴は、会員の対象を当院から半径約20km程度の地域の病院・クリニックにしぼっていることです。全国的ではなく、豊明地区を中心とした地域に限定したのは、医療安全にとどまらず、患者データの共有やドクターカーの派遣など、地域連携全般の強化を視野に入れているためです。広範囲でデータを収集したほうが、事例数も集まり研究は進むかもしれませんが、それは私たちの目的とはややずれています。あくまで当院の手の届く範囲で、深い関係を築きながら厚い支援をしたい。当院で確立してきたあらゆる知識を、ぜひ地域の皆さんと共有して地域の患者さんへ貢献することが、私たちの願いです。将来的には、地域の患者さんのレントゲン画像や検査のデータをクラウド化し、各病院・クリニックで共有しながら医療を提供していくことも考えています。
ネットワークに参加いただく際には1施設につき、入会費3,000円~5,000円、年会費1,000円~3,000円(※)をいただくことにしています。お互い情報提供し合う関係となりますから、賛同いただける病院・クリニックにはできるだけ負担がかからないよう運営したいと考えています。すでに70以上の医療機関に賛同いただき、取り組みをはじめています。
※診療所、100床未満の病院、100床以上の病院で入会費、年会費が異なる。
後編はこちら
藤田保健衛生大学 (現・藤田医科大学)副学長
医学部 外科学(肝臓・脾臓)講座 主任教授
前医療の質・安産対策部長、前手術・中央材料部長
【略歴】
1982年4月
慶應義塾大学医学部外科学教室 入局
1992年6月
藤田保健衛生大学消化器外科第一科 助手
2011年2月
藤田保険衛生大学病院 副院長、医療の質・安全対策部長
2012年4月
藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)病院 手術・中央材料部長
2015年6月
藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学) 副学長
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