インタビューアーカイブ

2016/6

より実情に即した介護へ。地域住民と協力して展開する地域密着型通所介護(後編)

高齢者が住み慣れた街で元気に暮らし続けるためには、地域の協力が欠かせません。介護施設が地域と方々と関わりをもち、ともに地域介護をつくりあげていくことが必要です。地域とつくる介護とは、いったいどのようなものなのか、東京都小規模多機能型居宅介護協議会 事務局長の来島みのり氏におうかがいしました。

来島みのり

東京都小規模多機能型居宅介護協議会 事務局長 / 社会福祉法人 マザアス 高齢者福祉総合施設 マザアス日野 副施設長 / 小規模多機能ホームさかえまち 管理者

地域介護を考える場としての協議会の役割

前編はこちら

各所のグループホームがよいケアを提供できるよう、東京都グループホーム連絡会として設立されたのが前身です。その後小規模多機能が制度化され、この連絡会に加わりました。
その後グループホーム連絡会とは別の活動を主とすることから、東京都小規模多機能型居宅介護協議会として再スタートしました。はじめは知り合い同士の小さな集まりでしたが、現在は都内の小規模多機能型居宅介護施設の約半数、90近くの施設に参加いただいています。

協議会では、介護業界について定期的な情報共有のほか、シンポジウムや定期報告会、各種研修などを開催しています。定期報告会では、各地域の特性に合わせた事業所の役割について考えたり、各施設の事例を紹介したりします。それぞれの地域により、事例の色は異なりますが、自分の施設では見えてこなかった課題解決の方法が見つかるなど、とても新鮮な報告を得られます。2015年度は、認知症の利用者さんの地域を交えた援助の方法や、地域参画の事例などを共有し、地域に貢献する介護施設の在り方を中心に、ケア向上のヒントを模索しました。

 

職員の自己評価と地域の皆様のご意見から見える新たな課題

2015年度に協議会で行った研修の中で特に好評だったのは、運営推進会議を活用した外部評価についての研修でした。従来は施設の外部評価を専門の評価機関に依頼していたのですが、2015年度の制度改正により地域住民の方々から評価いただくように変更となりました。施設側から一般の方に依頼をかけなくてはならず、誰にどのようにお願いすればいいのか、各施設の職員たちは困り果てていたのです。そこで、先行してモデル事業を行った福岡の介護施設の方に来ていただき、アドバイスをいただきながら、まずマザアス新宿で一般の方々による外部評価を実践し、その事例をまとめて協議会員へと共有したのです。困っている会員の皆さまの役に立つ研修や情報を提供していくのが、私たち協議会の役割です。

評価はまず、9枚のシートに沿って施設と職員に対する自己評価を職員同士で行います。その自己評価をもとに話し合うのですが、普段は見えないスタッフの考えがわかってとても興味深い結果が出ました。設問は、職員の主観を大切にするため、わざと曖昧な聞き方をしています。例えば、「身体拘束しているかどうか」という項目では、ほぼ全員の職員が「拘束していない」と評価しました。しかし、1人だけ「拘束している」とした職員がいました。それについて聞いてみると、彼は「利用者方が帰りたいと言っているのに帰してあげないのは拘束ではないでしょうか」と言うのです。身体拘束の三大原則に反していないから大丈夫、というわけではないのだ、ベテランスタッフには気付けない、ハッとさせられる視点の意見でした。これを発端に職員同士で課題を出し合い、考えを共有するいい機会となりました。

次に、職員の意見をまとめた資料を用い、地域の方々に評価をしていただきました。2015年度は地域の自治会長さんや民生委員、新宿区の職員、地域包支援センターの担当者のほか、利用者のご家族などに依頼しました。
注目したい意見としては、地域連携ができているかどうかの項目で、「努力は見られるが、まだまだ足りていない」との厳しい評価をいただきました。同時に「努力は認められる」「イベント参加などについては評価できる」など、ありがたいお言葉もいただきました。
また、「送迎車に傷があるのが気になる」など、私たちが思いもよらないところにも指摘頂いたりして、非常に新鮮でした。意見をいただくだけでなく、評価の場自体が地域密着型施設のあり方を地域住民の方々とともに考える場でもあり、地域との交流の面でも想像以上に有意義な結果となったと思います。

続いて、いただいたご意見について再度職員間で話し合いを行いました。そこで初めて自分たちになにが求められているのか、職員間で共有することができました。このフィードバックを元に、次年度の課題を挙げ、事業所計画を組み立てていきました。

2016年度、私がマザアス日野の小規模多機能ホームさかえまちに異動となり新たに設けたテーマのひとつが、施設内外との情報共有。これは2015年度に小規模多機能ホームさかえまちで行った運営推進会議を活用した外部評価の結果を受けたことにより見つけた課題です。評価を咀嚼する中で、思っていた以上に職員間や外部との情報交換や連携ができていないことが浮かび上がったのです。
すでに4月から課題解決のための取り組みをはじめており、職員の情報共有への意識が少しずつ改善できていると思います。

今年度は、大学の先生のほか、地域の家族会の方々もお呼びして評価を行う予定です。地域の多種多様な人が参加してくださるおかげで、私たち職員には見えなかった、さまざまな気づきが見つかります。

 

そうして見つけた課題をひとつクリアしていくことが、より良いケアにつながっていくのだと思います。当施設内だけでなく、地域との連携について考えていく力を、協議会を通して各施設とも共有していきたいと考えています。

来島みのり

東京都小規模多機能型居宅介護協議会 事務局長
社会福祉法人 マザアス 高齢者福祉総合施設 マザアス日野 副施設長
小規模多機能ホームさかえまち 管理者

【略歴】
2003年
特別養護老人ホームマザアス日野入職
2008年
小規模多機能ホームみなみだいら管理者
2011年
小規模多機能ホームさかえまち管理者
2011年
東京都小規模多機能型居宅介護協議会 事務局長
2013年
マザアス新宿 施設長
2016年
マザアス日野 副施設長 小規模多機能ホームさかえまち管理者

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