インタビューアーカイブ

2017/8

地域に生き、地域を看るコミュニティナースの働き方

新しい地域看護のあり方「コミュニティナース」の活動が動き始めています。コミュニティナースとは、地域に溶け込み、老若男女問わず”看る”ナースの新しい活動です。「治療・看護」保健師とは少し領域の異なる活動をしています。地域に溶け込むコミュニティナース、その働き方は多様です。香本なぎささんに、すでにコミュニティナースとして活躍している方々の活動についてお聞きしました。

香本 なぎさ

Community Nurse Company (株) 事務局 / コミュニティナースプロジェクト 第1期 修了生

地域看護の新しいカタチ、コミュニティナース

コミュニティナースとは、看護の専門性を活かしながら、地域の現場で様々な看護活動をする人材です。病棟看護師との最大の違いは、健康なときも身近に居ることです。介護保険や医療保険の適応外でも、必要と思われる疾病の予防や早期発見、そして何より、地域住民と一緒に“毎日の楽しい”と“心と身体の健康と安心”をつくる医療人材です。特定の拠点があるとは限らず、地域に溶け込み、住民とコミュニケーションを図り関係づくりを進めながら活動しています。行政保健に従事される方にとっても、届きにくい地域住民の日常生活のなかに飛び込む、いわゆる痒いところに手が届く動きをするのも特徴です。

既存の医療機関や行政・NPO などと連携しつつ、見守りや健康相談、世代間交流などの生活支援を制度に縛られることなく行っていきます。

 

医療の枠にとどまらず、地域のなかに溶け込む

では、具体的なコミュニティナースの活動をご紹介しましょう。

地域において、住民としっかり関係構築をした上で

・地域に必要な機能をつくる

…地域でのサロン活動(健康講座、在宅医療の周知、健康相談、介護相談など)、見守り活動、他施設の医療人材を招いての健康教室、暮らしの保健室 等を道の駅や産直市、カフェなどあらゆる場で展開しています

・ヒト―コトを繋ぎ まち を元気にする

…地域医療勉強会、イベントの定期開催、仲間を集めるツアーなどにより、施設•職種•地域を越えて育み合う体制づくりを推進

・医療や看護の担い手を増やす

…高校や中学校へのキャリア教育参画、学生の地域活動参加を促すことで、活動の魅力化だけでなく、次世代と繋がり新たな担い手確保に貢献

このように、医療保健福祉にかかわるものから、いわゆる地域振興やまちおこしと言われるものまで、コミュニティナースの活動は多岐にわたります。こうした活動を通じて、普段健康に関心が無い方や医療職に関 わる機会の無い住民さんとも関係構築を進め、地域住民の「暮らしの場」へ出向き住民とともにクリエイティブな看護活動を展開していきます。

 

主体はあくまで住民。住民の考える地域医療の実現のサポートを担う

コミュニティナースの活動は「関係づくり」と「まちの人々の健康ニーズや大切にしていること、あらゆる地域資源をひろうこと」を重要なポイントと考え、看護の専門性を活かしながら“どのような看護活動が求めら れているのか?”を地域住民や他分野の人材と一緒に考え進めていきます。

私たちコミュニティナースが地域住民と最初に接する際、よく「あなたたちは何をしてくれるの?」と聞かれ ることがあります。しかし、私たちが目指すのは「◯◯指導」などの一方通行のケア提供ではなく、住民との“地域コミュニティケアに通ずる恊働”です。必ず、住民と「この地域で目指すもの」を共有し、それを丁寧に伝え合いながら、住民の「やってみよう!」を引き出し“住民自ら困難を乗り越えて行こうとする力を引き出す雰囲気づくり”を仕掛けていきます。

私たちは、日常的に住民の「暮らしの場」へ出向くことで、些細な変化に気付くことができるため、疾病の予防や早期発見につながり、必要があれば医療機関や関係諸機関への橋渡しも担うことができます。

 

行政保健だけでは届きにくい領域で活躍するコミュニティナースの地域看護

ここまでの説明で、コミュニティナースは行政保健師と役割が重複するのではないかと思う方もいらっしゃるでしょう。しかし、実際は行政保健師とこまめに情報交換を行い連携し、その地域のなかで行政保健だけでは 届きにくい住民の日常生活のなかに飛び込み、既存の医療機関や行政・NPO などと連携しつつ、より健康で幸福な人が増えていくように活動しています。

現行制度では、一人の行政保健師が担当地域の住民すべてと関わることは難しい状況になってきている自治体もあります。過重の事業運営に伴う事務作業や困難ケースの増加、削られる行政予算や保健師の採用などに苦悩を抱えている保健師の方もいらっしゃいます。

そのような状況において、病気になる前の日常生活のなかで住民に出会うことができ、また既存の医療人材と住民をつなぐ役割を担うのがコミュニティナースです。

 

地域看護のおもしろさがダイレクトに感じられる職業

医療や介護の専門職の根拠となるのは法律や制度であり、そのためどうしても活動範囲や対象者も限定されてきます。例えば、訪問看護師が出会うことができる地域住民は、ほとんどが介護保険や医療保険サービス利用者とその家族に限られます。一方、コミュニティナースは制度にとらわれずに動くことができるため、健康なときから地域住民とかかわることができるという多様で自由な働き方が可能です。

私自身、大学病院での勤務を離れ、行政保健師や訪問看護師として働くうちに、地域の人々のために何ができるかを考える地域看護のおもしろさに気付くことができました。

地域や住民一人ひとりの生活や周囲の環境、また人により求められることは異なります。私が看護師として働 くうえで最も大切にしていることですが、目の前の人が「何を望んでいるのか(どうありたい、とか今後どうしていきたいなど)」、お一人おひとりの“気持ち”を大切にしながら、その人に必要なケアを提供できるよう心掛けています。その姿勢で、疾病予防や健康増進の段階から住民さんと一緒に何ができるか考えていく。私が求めていた看護はここにあると感じました。

しかし、日本におけるコミュニティナースの活動はまだ黎明期です。地域にとって、必要とされる医療人材であるということを成果・実績として残し、地域住民や地域の関係諸機関の方々はじめ、多くのひとに存在や活動を知っていただく段階です。

後編はこちら

香本 なぎさ

Community Nurse Company (株) 事務局
コミュニティナースプロジェクト 第1期 修了生

【略歴】
2010年
東京女子医科大学病院勤務
2013年
千葉県習志野市役所 行政保健師
2015年 ケアプロ株式会社 在宅医療事業部 訪問看護師
2016年
ナビタスクリニック新宿 クリニック看護師
世田谷区 認知症初期集中支援チーム事業 に参画
コミュニティナース育成プロジェクト 第1期 修了
2017年
Community Nurse Company(株) 事務局

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