インタビューアーカイブ

2017/12

介護技術を学びに日本へ。「技能実習制度」による外国人介護職の新たな働き方

2017年11月から、外国人技能実習制度の対象職種に介護職種が追加されました。すでに外国人が介護職として働く施設は多いですが、2018年春には、同制度により技能実習生が入国してきますので、外国人介護職がより身近なものになっていくと考えられます。技能実習制度により来日する外国人介護職について、東京都介護福祉士会で国際協力委員長を務める永嶋昌樹氏に詳しくうかがいました。

永嶋昌樹

公益社団法人 東京都介護福祉士会 理事/国際協力委員長/日本社会事業大学 助教

日本の介護技術を海外へ。外国人技能実習に介護の分野も追加へ

2017年11月、日本で実習を行うことにより外国人に日本の技能を移転するという名目で、外国人技能実習制度の対象職種に、介護職種が追加されました。2018年春の技能実習生の入国に向け、各地の介護施設や関連団体では準備が進められています。

技能実習制度とは、国際貢献のため、ベトナムやフィリピンなど、主にアジア圏の外国人実習生に日本の技能を伝える、厚生労働省・法務省が所管する制度です。OJT(On the Job Training:実務を通して業務を学ぶ職業訓練のこと)を通して技能を移転することを目的とし、農業や建設、食品製造など、さまざまな分野での実習が行われています。これに2017年11月、介護の職種が加わり、実習生を国内の介護施設で受け入れることとなりました。外国人介護職として働く中でさまざまな介護技術を身につけてもらい、自国に日本の介護技術を持ち帰ってもらうことがこの制度の目的です。

政府としては技能の移転を目的としていますが、現場の介護施設では外国人介護職の労働力に期待している部分も多くあります。制度の目的と現場の認識の乖離を、どのようにすり合わせていくのかが今後の課題でしょう。

 

外国人介護職が日本で働くための2つの制度

日本人と結婚したことにより、「日本人の配偶者等」などの正規の在留資格を得ている人、大学への留学生など、外国出身や外国籍の人が、現在、各地の介護施設で働いています。すでに同僚に外国人がいるという介護職の方も少なくないのではないでしょうか。

中でも注目したいのが、日本と外国との協定に基づいた来日。先述の外国人技能実習制度もその一つで、ほかにEPA(経済連携協定)による受け入れが挙げられます。

これら2種の制度は似て非なる制度ですが、現場では混同される方も少なくないでしょう。
簡単に言うと、技能実習は「外国人介護職が母国で介護職として働くために日本で学ぶ」ことを目的としている一方で、EPAは「外国人が介護福祉士資格を取得して日本で働く」ことができるようになる(=資格を取る)ことを目指しています。

対象国も東南アジアが多く、介護現場の方々にとっては違いが分かりにくいのですが、それぞれの目的が異なることを理解しないと、伝える内容や人間関係の作り方などに問題が生じかねません。例えばEPAで来日した人には国家資格の勉強のサポートが必要ですが、技能実習の方にはその必要はありません。
今後、各施設の経営層、リーダー、あるいは職能団体・業界などが、来日した外国人介護職になにを学んでもらいたいのか、なにを伝えたいのかをもっと明確に打ち出す必要があるかと思います。

 

外国人の視点が介護の視野を広げる

都内のとある施設では、インドネシアからEPA(経済連携協定)介護福祉士候補者を迎え入れました。その外国人の方は、日本の介護福祉士の国家資格を取得して現在も同施設で働いておられます。その施設の責任者から「よく学ぶ外国人が施設で働いていることにより、日本人職員が刺激され、施設全体の職員の意識が向上した」というお話しを伺いました。本人の能力はもちろんのこと、周囲に与えるよい影響が大きかったというのです。

もちろん、その外国人ご本人の資質に左右されることもありますから、外国人が入職したからと言って、必ずしも施設に良い影響を与えるとは言えません。しかしながら、外国人の視点や考え方に触れることにより、少なからず日本人職員の視野も広くなると期待できます。施設の中でグローバル化が進み、日本人の中だけでは生まれなかったアイデアや工夫が生まれる可能性が大いにあるのです。

 

日本の介護技能の移転に高まる期待。アジア諸国の介護事情

アジア諸国でも高齢化が進んでおり、介護職の必要性が増してきています。海外でも、急速に高齢化が進んでおり、今後介護需要が増すと考えられています。自国の高齢者を支えたい、と介護を学びに訪日する留学生も増えていることからも、アジア圏の介護ニーズが高まっていることがわかります。そうした国々に対し、これまで日本が培ってきた介護の知見を広めていくことが必要になってきたと私は感じています。

訪問介護の技能も移転できれば、将来的に役に立つと思われます。
特に東南アジアでは、介護施設のインフラがまだ十分に整備されていないため、介護技術を習得した外国人が帰国しても、介護を提供する場がないという事態に陥る可能性が高いです。しかし、施設インフラが整っていなくても、訪問介護のスキルがあれば、各ご家庭を回っての介護の提供は可能です。ただし、東南アジアでは、いまだに家族が世話をするという考えが主流ですので、まだまだすぐに訪問介護の需要があるとは思えません。
現在の技能実習制度やEPA介護福祉士の制度では、施設介護が中心であり訪問介護の事例はほとんど見られません。技能実習制度では、訪問介護は対象になっていません。しかし、これから地域包括ケアが進んでいくにつれて、外国人介護職による訪問介護の例も増えていくのではないでしょうか。介護人材が不足しているのは施設だけではありません。いろいろな課題がありますし、技能の移転という前提がありますが、今後は訪問系の介護サービスにも外国人介護職は確実に必要となってきます。


後編では外国人介護職が日本で働くうえでの課題点や、それをサポートする日本人職員の動き方などについてご紹介します。

永嶋 昌樹

公益社団法人 東京都介護福祉士会 理事
国際協力委員長
日本社会事業大学 助教

【略歴】
筑波大学大学院修士課程教育研究科修了。社会福祉法人中野区福祉サービス事業団 在宅介護支援センター相談員、社会福祉法人読売光と愛の事業団 特別養護老人ホーム介護課長等を経て、2016年日本社会事業大学 助教に就任

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