今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第182回 2018/06

社会福祉法人が目指す、福祉の枠を超えた人材雇用と地域への貢献

社会福祉法人伸こう福祉会では、「たくさんの“よきもの”を人生の先輩たち、後輩たち、そして地域に捧ぐ」という基本理念を掲げています。“よきもの”とは、創業当時は施設などのいわゆる「箱物」でしたが、現在では「サービス」や「商品」、スタッフが持つ「特技」など、決まった“何か”を指すわけではなく、時代と共に変化もしていきます。特別養護老人ホーム(特養)の経営は、全国的に赤字経営が全体の3割を占めています。3つの特養を経営しながら、安定した黒字経営を続ける同法人の理事長 足立聖子氏に、人材確保の取り組み、見据えている次なる“よきもの”について、詳しくお話しをうかがいました。

社会福祉法人伸こう福祉会 理事長
足立 聖子 氏

社会福祉法人伸こう福祉会

組織を支える「外国人」と「高年齢者」

団塊世代が後期高齢者となる2025年、介護人材はおよそ37.7万人不足することが予想されています。福祉施設の経営においては、ご利用者に選ばれることはもとより、「介護職員に選んでもらえる施設」になることが欠かせない条件となっています。
 私たちは、人材不足がここまで深刻化する前から「人」を大切にしてきました。40年前の前進である株式会社の創業当時から外国人や高年齢者の方々に一緒に働いてもらっており、それにより組織の中核を担うベテランが育ってきました。
 
外国人の方と一緒に働き始めたのは、当法人の創業者である私の母です。母は教会を通じ、当時の藤沢市がベトナムからの難民を受け入れていること、そして彼らが仕事を探していることを知り、経営していた老人ホームで彼らに働いてもらうことにしました。彼らは組織のなかに自分たちの居場所を見出そうと、懸命に働いてくれました。一人がうまく馴染むと、その人が知人など新しい人を連れてきてくれます。また、元々友人ではなくても、同じ言語を話す人が働いていることで安心して、働き始める方もいます。そうしたつながりから、私たちの法人には外国籍のスタッフが多く働いています。
 
高年齢者雇用を取り入れたきっかけは、「60代でもまだまだ働きたい!」と、スタッフから要望があったためです。要介護者の多い特別養護老人ホーム(特養)の新設は、必ずしも地域の皆さんに歓迎されるわけではありません。私たちは地域に住む主婦の方々に「無資格・未経験でも構いません。空いている時間を利用してパートとして働きませんか?」と広く呼びかけ、働きながら施設について知っていただき、皆さんの不安を少しでも払拭できればと考えていました。採用時点で彼女たちは50代。一般的に定年を迎える年齢とされる60代になっても、元気で働く意欲に溢れていました。私たちは、彼女たちの声に応える形で、2013年に定年を70歳に引き上げ、さらに希望すれば80歳まで働ける体制を整えてきたのです。
 
このように、採用時の門戸を広く設けてきたことが、結果として、組織を下支えするベテランスタッフの層を厚くすることにつながりました。当法人の離職率が業界並みでも事業を拡大することができてきたのは、こうした「人」に恵まれている背景があるからです。
 
さらに、現在では、スタッフに少しでもよりよい環境で働いてもらおうと、ライフステージに合ったよりよい環境を提供することにもこだわっています。たとえば、子どもができたスタッフには、日曜日が定休日のデイサービスへの異動を促したり、夜勤ができないスタッフには、ケアマネージャーの資格を取得してもらい日勤で働いてもらったり、ときには介護施設以外の保育や障害者施設への業種間異動を行うこともあります。行き詰まっているスタッフにとっては、異動によって目線が変わり、「辞める」という以外の選択肢を生むことも少なくありません。

「内向きの目線」が「外向き」になった転機は「ミュージカル公演」

しかし、民間企業とはちがって多額の税金が投入されている社会福祉法人では、組織内の人事ばかりに目を向けているわけにはいきません。やはり広く社会に貢献する視点が欠かせませんよね。
私たちも最初から地域への貢献を見据えて組織を運営していたわけではありませんが、2012年に始めた「三カ年計画」を機に、それまでの「自分たちの施設のご利用者さえ良ければいい」という意識が、ガラリと変わりました。
 
「三カ年計画」とは、「つなぐ」をテーマに地域と福祉をつなぐ「ミュージカル公演」、海外と日本の福祉をつなぐ「国際福祉サミット」、福祉とビジネスをつなぐ「講演会」を3年連続で開催する事業です。なかでも、初年度のミュージカル公演は、法人としてだけでなく私個人としても、それまでの内向きの考えを改めるきっかけになりました。法人のスタッフ以外のご利用者や園児、地域の人たちなどの外部の人たちとの関わりのなかで、目の前にいる観客だけでなく、「その先の地域に向けて自分たちが何をしていくか」という意識を強く持つようになったからです。社会の側から見た、自分たちの役割に気づかされたのが大きかったですね。スタッフの間でも、「地域」という言葉が頻繁に使われるようになりました。

韓国に学ぶ「敬われるべき高齢者の姿」

こうした学びは、2年目の「国際福祉サミット」でも多々ありました。サミットでは、世界の福祉の現状を知ることができたからです。
福祉に携わる人でも、北欧の福祉は知っていてもそれ以外の国の介護はほとんど知らないのではないでしょうか。サミットでは、隣国の台湾や韓国、インドなどの福祉の専門家をお招きし、自国の介護の現状をプレゼンしてもらいました。私たちの取り組みに賛同してくれた各国の関係者により、サミットはその後、日本だけでなくオーストラリアでも開催され、2019年には韓国での開催も予定しています。
 
私は、韓国の福祉には、日本の介護職が学ぶべき本質があると感じています。韓国の高齢者は元気で、女性はいつもきれいにお化粧をしています。「儒教の思想」が根付いているためだと思われますが、韓国では若い人たちのなかにも、「高齢者とは常に敬われるべき存在」という考えが当たり前にあります。そのため、たとえ認知症になっても食べ物を食べこぼす姿は人前に晒しません。他のご利用者とは食事の時間をずらしたり、部屋食にしたりする工夫がとられているのです。
 
日本で実践すると批判の対象にもなりかねませんが、私は、韓国のこうした高齢者のあり方から、逆に、「要介護者だから仕方がない」という、日本の高齢者に対する、諦めのようなものを垣間見たような気がしています。
日本の介護技術は世界一です。しかし、技術以前の本質的な部分では、まだまだ海外から学ぶべきものがたくさんあるのではないでしょうか。日本の福祉や介護という枠のなかだけに集約されていては、気づけない視点も多々あるように思います。
 
後編では、「三カ年計画」で得た視点の変化から見えてきた、日本の介護の課題、そして伸こう福祉会として考えるこれからの“よきもの”についてお伝えいたします。

足立聖子氏
社会福祉法人 伸こう福祉会理事長
 
創業者の片山ます江氏を母に持ち、小中学生のころは夏休みに老人ホームの手伝いをしていた。30歳を前に勤めていた会社を辞め、母の事業をもう一度手伝うことを決意。特別養護老人ホームなどの施設長を務めたのち、理事長に就任。2014年には、独特のビジネスモデルで持続的成長を続ける会社に贈られる「グレートカンパニー大賞」を社会福祉法人として初受賞。高品質な施設空間やサービスレベル、革新的な活動は業界のモデル法人とされている。
 
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