今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第195回 2019/07

自然体で関わることで高い定着率を実現 障がい者が長く働ける環境づくりとは?

社会福祉法人アゼリヤ会は、「社会的に弱い立場の人の側に立った支援」を経営理念の根底に据え、さまざまな理由から生活のしづらさを抱える人たちを支援しています。厚生労働省の「障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業で働く障がい者の割合は、平成30年6月の時点で2.05%と0.08ポイント上昇。しかし、企業規模別では、企業の規模が小さくなるにつれて雇用率が下がる傾向が見られました。同法人では、約30年前から介護施設における障がい者雇用にごく自然な形で取り組み、高い定着率を実現しています。障がい者が長く働ける環境づくりのポイントは、どこにあるのでしょうか。同法人理事長の稲垣瑞恵氏にお話をうかがいました。

社会福祉法人アゼリヤ会
理事長
稲垣 瑞恵 氏

社会福祉法人アゼリヤ会

障がいを特別視しない ごく自然に接する姿勢が高い定着率のカギ

2000年に介護保険制度が施行されたことで、福祉の世界に市場原理が入ってきました。制度の普及に伴い、介護サービスの需要は広がり、提供するサービスの量や種類は大幅に増加。しかし、従来の福祉の対象となっていた方々は今も減ることなく、生活保護の受給者数は増加の一途を辿っています。
 
こうした時代の流れの中で、アゼリヤ会は、社会的に弱い人の立場に立って、その力になり、本来の社会福祉法人の役割を果たそうと奮闘してきました。八王子市の広大な敷地には、高齢者施設として特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、そして、救護施設という障がいを持つ方々のための施設があります。この救護施設の存在こそ、アゼリヤ会の理念を具現化した最たるものだと考えています。
 
救護施設とは、生活保護法に基づく保護施設の一つで、都内に10ヶ所しかありません。本会が運営する「救護施設 優仁ホーム」では、何かしらの障がいがあり、単身での日常生活が難しい約100名の方々が生活しています。一人ひとりの状況に合わせて自立に向けた支援を行う中で、職員が障がいを持つ方々と自然体で関わり、何ら特別視しないような風土ができあがってきました。
 
それを裏付けたのが、昭和63年、特別養護老人ホームの開所と同時に全盲の女性をマッサージ師として雇用したことです。結婚のため退職された後は、当時、八王子盲学校から実習生を受け入れていたことから、実習に来た視覚障がいを持つ男性をそのまま後継として雇用しました。その方は今も継続して働いています。このように、アゼリヤ会には30年以上にわたって、自然な流れで障がい者雇用に取り組んできた歴史があるのです。

私たちが障がい者雇用を改めて意識するようになったのは、平成4年、もともと救護施設に入所していた知的障がいを持つ男性を雇用したことがきっかけでした。その方が自立して地域で生活を始めるタイミングで、非常勤として雇用し、特別養護老人ホームの清掃をしていただくことにしたのです。この方は今69歳になりますが、マッサージ師の方と同様、今も変わらず元気に働いています。このように、障がいを持つ方が長く働き続けられることが、アゼリヤ会の特徴と言えるかもしれません。
 

仕事の息抜きとなる楽しい時間をつくることで、「自分の居場所」になる

障がいを持つ方が長く働き続けるためには、どんな環境をつくることが大事なのでしょうか。私の経験から、いくつかお話ししたいと思います。
 
障がいを持つ方のなかには、人と向き合ったり、人と一緒に仕事をすることが苦手で、一人で決まったことをやるのが性に合っている方もいます。清掃担当の方の場合、清掃の職員が二人体制だった時期は、やはりなかなかうまくいきませんでした。最初は仕事を覚えることも大変で、指導にあたっていた男性職員が、「何を教えてもやる気が感じられない」「同じことを何度言っても伝わらない」とよくこぼしていました。もしかしたら人の相性もあるのかもしれません。
 
障がいを持つ方は話すことが苦手な方も多くいます。その方も自分の思いを誰にも話そうとはしませんでした。そこで、当時現場で看護師として働いていた私は、彼にこまめに声かけをするようにしたのです。「医務室にお茶を飲みに来る?」から始まり、そのうち、お昼休みには毎日のように医務室に手作り弁当を持って来て、一緒に食事をとるようになりました。彼にとって、医務室が安心してひと息つける“心の休憩所”のような場所になったのだと思います。
今では、休憩時間に職員と一緒にお茶を飲むことも日課になっています。たとえ私たちが仕事に没頭していても、ちゃんと定時になるとお茶を飲みに来てくれるので、私たちも「休憩しなきゃ」と思うわけです。職員もいいひと息がつけるのでありがたいなと思っています。
そんな楽しい時間や場所ができたことで気持ちが落ち着いたのでしょう。体調が悪い時や怪我をした時は自ら訴えるようになったりと、何か困ったことがあると、少しずつ話してくれるようになりました。
 
最初は心を閉ざしていても、お互いに我慢強く時間をかけていけば、次第に心を開いてくれるものです。通院時に同行したり、生活するうえで困っていることがあれば、ご家族と連絡を取って相談したり。さまざまな形でサポートしてきたことで、精神的に落ち着き、地域で一人暮らしをしながら働き続けることができています。

担当制ではなく、職員全員で見守ることで、落ち着いて働ける環境に

感情の起伏が激しいことも、障がいを持つ方の特徴の一つ。例えば、清掃担当の方は、廊下にモップをかけている時に、思いがけないことが起こると受け入れられず、モップをポーンと投げてしまうことが何度かありました。この出来事を通して、彼には感情の波があることを職員たちが把握し、何かあると、「今日どうしたの?」「調子悪いのかな?」と職員同士が自然と声をかけ合い、フォローできる体制ができてきました。
 
あえて担当の職員を設けずに、職員みんなであたたかく見守る。そんな雰囲気が功を奏し、彼の方から気軽に話しかけられる職員が増えていったことで、さらに落ち着ける環境になっていったのだと思います。「69歳という年齢で、そろそろ体はきつくないですか?」と聞くと、「自分や家族の生活があるからまだまだ働きたい」とはっきり話してくれたこともありました。障がいを持つ方は、自分の思いを話せる人の存在が何より大事だと感じています。
 
また、かつては、雨の日は休みがちで出勤にもムラがありました。そこで、毎朝の朝礼に参加してもらったり、歓送迎会など職員が集まる場に声をかけたりと、職員みんなでやることに参加してもらうようにしました。それからは、どんなに大雪が降っても必死で通勤するようになりました。仕事以外の時間を障がいをもつ方と共有することも、彼らが落ち着いて働くための重要なポイントだと思います。
 
現場が緊迫した雰囲気の時にも、彼の存在があることでホッと安心できたり、彼が医務室に来てくれると、「今日は元気そうだね」「今日の調子はどう?」と彼の話題が中心になったり。今では職員同士のコミュニケーションを円滑にしてくれるムードメーカーのような存在になっています。

自然体の中でともに働くことで、「その人らしさ」を大事にする

障がいを持つ方々と関わることで、日々学ぶことはとても多いです。自分たちが“教えてあげている”なんて思ったら、とんでもない。今アゼリヤ会で雇用している障がいを持つ二名の方は、長く働き続けていますが、それは障がい者雇用という大それたものではなく、自然体の中で一緒に働くことができているからこそだと、常々感じています。
 
もちろん、ここに来るまでの道のりは決して平坦ではなく、大変なこともたくさんありました。試行錯誤して、迷い悩みながらも、あまり難しく考えない方がお互いに楽だなと、結局は自然体で関わるというところに戻ってきました。やはり自然体の中で受け入れてあげないと、その人がその人らしく仕事や生活ができないでしょうし、何より楽しくないと思うのです。
 
支援する自分たちが自分たちらしくいることで、障がいを持つ方も自然体でいることができます。福祉の現場は、尊厳、寄り添う、その人らしく、といった言葉を使うのが得意ですが、突き詰めると、支援する自分が自分らしくなければ、相手にもその人らしくいることを求められないと思うんです。本当にお互いがラクな状態が、一番いい関係性なのだと考えています。
 
後編では、障がいを持つ方を雇用するうえで生じた課題や、介護施設における障がい者雇用の意義についてお伝えします。

後編はこちら

稲垣 瑞恵氏

看護師資格取得後、国公立病院や一般病院で勤務する。
昭和63年4月に社会福祉法人アゼリヤ会入職。
平成21年6月~医務リハビリ科長
平成24年4月~施設長就任
平成26年4月~理事・施設長就任
平成29年6月~常務理事就任
平成31年4月~理事長就任、現在に至る
 
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