今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第204回 2020/04

「臨床看護マネジメント」のもう一歩先へ 看護管理者がもつべきマネジメントの視点とは

患者さんに最適なケアを提供するために、現状を把握し計画を立て実行していく「臨床看護マネジメント」は、全ての看護師に必要不可欠なスキルです。東京都済生会向島病院や京都大学医学部附属病院で看護部長を歴任し、現在は一般社団法人 日本臨床看護マネジメント学会の理事長である嶋森氏は、看護管理者には、さらにもう一歩進んだマネジメントの視点が必要だと語ります。嶋森氏がこれまでに看護部長として携わった経験談とともに、看護管理者がもつべき「臨床医療マネジメント」という考えについてお聞きしました。

一般社団法人 日本臨床看護マネジメント学会 理事長
岩手医科大学 看護学部長
嶋森 好子 氏

一般社団法人 日本臨床看護マネジメント学会
岩手医科大学

前編はこちら
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全ての看護師に必須なスキル「臨床看護マネジメント」とは
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検査技師や薬剤部との連携で
看護師の負担を減らし離職率低下を実現

臨床看護マネジメントとは、現状の人数や条件で患者さんに最高のケアを提供することをマネジメントしていくことです。前編でも述べた通り、これは経験年数に関わらず全ての看護師に必要なスキルですが、やはり、看護部長や副部長といった看護管理者になると、これに加えて、他スタッフの働き方もマネジメントしていかなければなりません。つまり、求められるマネジメントはさらに複雑なものになるのです。
 
30年以上前になりますが、私は東京都済生会向島病院で看護部長を務めていました。当時の病床数は114床。病院長からは「看護師が辞めてしまって補充ができず困っている。これ以上看護師が離職しないようにしてほしい」と依頼されての就任でした。
 
私が取り組んだことは主に3つ。ひとつ目は、朝の採血や外来の採血を臨床検査技師に担当してもらうこと。ふたつ目は、それまで看護師長が一日かけて行っていた一週間分の定時薬の分包を薬剤部に行ってもらい、患者毎に、1日分をセットして病棟に挙げてもらうこと。3つ目は、食事の配膳を栄養科と協働して行う事です。これらに取り組めたのは、114床という比較的小規模の病院であったことや、他職種が人員的にも恵まれていたこともありますが、常に、問題を意識し、解決のチャンスを逃さないようにしていたことが大きかったと思います。

現状と現場のニーズを読み取り
「看護師優先」ではないマネジメントを

採血の話でいえば、1970年に臨床検査技師法が改定され、検査技師でも検査のための採血が概ね20CCまで可能になっていたことを知っていたので、採血は検査技師がしてもよいと考えていました。そうした中、当時の検査技師長が優れた方で、「検体をできるだけ良い状態で採取し、早く検査に出すことで、検査の精度を上げたい」と考えていて、採血を行う事を提案してくれたのです。最終的には、新人看護師の採血指導は看護師ではなく、検査技師さんが行ってくれていました。
 
薬の分包は、病院が院外処方へ切り替えを行うことになり、薬剤師の人員削減が考えられていました。そこで、院外処方によって調剤する必要が無くなった分、薬の分包を担当してもらえないか提案したのです。そうすれば、薬剤部の仕事も増え、薬剤師を辞めさせる必要もなくなるのではないかと考えました。薬剤部長からも了承いただき、薬剤部に薬の分包をお願いすることができるようになりました。
 
食事の配膳は、当時の栄養科の科長が以前の職場の同僚であったことや、病院長が糖尿病の専門家で、通常よりも栄養士が多かったことから配膳を協働して行う事を持ちかけたところ、快く賛同してくれました。
 
結果として、看護師の離職率を減らすことができました。私は、「看護師を辞めさせないために、看護師の負担を減らす」ことを目的に、常に考え目を光らせていました。しかし、そもそも看護師の仕事だったものをお願いするわけですし、検査技師や薬剤部など、皆さんが忙しいのも事実です。そんな中でどのように分担すれば、ケアの質を保ちながら職員が公平に仕事を分担できるかと言う視点は決して忘れずにマネジメントを行ったことが、よかったのではないかと思います。

患者中心のケアを第一に考えた
「臨床医療のマネジメント」という視点

東京都済生会向島病院で看護部長を勤めていたとき、とても印象的だったことがあります。あるとき、検査技師さんが「ナースコールに出てもよいか」と尋ねてきました。理由を聞いてみると、朝、看護師が忙しそうにしている時、ナースコールが鳴っているのを横目に、その前を素通りするのがどうしても申し訳なく感じてしまうので、ナースコールに出て、自分ができることをしたいと言うことでした。そこで私は、検査技師さんにもナースコールに出てもらうことにしました。しばらく後に、ナースコールの呼出理由をまとめてもってきてくれました。すると、そのほとんどが「ティッシュが落ちたから拾ってほしい」というような、看護師でなくてもできることばかりでした。
 
ナースコールは看護師が出るものと考える人が多いと思いますが、決してそうではありません。ナースコールはあくまでも患者さんが誰かを呼ぶ道具であって、病院の職員なら、医師でも、薬剤師でも、検査技師でも誰でも対応してよいものではないでしょうか。もし患者さんが、胸が苦しくてナースコールを押していた場合、医師のほうが迅速に対応できるかもしれません。看護師がナースコールに出るのを待っているというのもおかしいのではないかという視点も、大切だと思います。
 
患者さんを24時間ケアする中で、誰にでもできるけれど誰がやるかは決まっていない仕事がたくさんあります。そのほとんどを担っているのが看護師だと思います。さらに言えば、看護師が自分の仕事だと思い込んでいるという部分もあるのかもしれません。臨床現場で働く全ての人が、“patient center care(患者中心のケア)”を考え、向島病院の検査技師のように、自ら役割を取りに行こうとすることが理想的なケアの在り方だと思います。「臨床看護マネジメント」のさらに上を行く、「臨床医療のマネジメント」という視点を、特に看護管理者の方々には、持っていてほしいと思います。

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私は、日本の看護師はとても優秀だと思っています。今回の新型コロナウィルスを例にあげれば、医療従事者間でコロナ感染が大爆発を起こしていないのは、状況に応じて適切に対応できているからだと思います。無意識ではなく、意識的にきちんと考えてマネジメントしているということを、世界にもっと発信していけたらよいと考えています。
 

嶋森 好子氏
 
一般社団法人 日本臨床看護マネジメント学会理事長
岩手医科大学 看護学部長
 
1968年川崎市立看護学院卒業。川崎市立川崎病院、東京都済生会向島病院等を経て、1999年日本看護協会常任理事。2002年より京都大学・医学部附属病院看護部長などを歴任。
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