インタビューアーカイブ

2020/12

コロナ禍を経て変わる介護職の価値 withコロナ時代の介護福祉の在り方とは?

日本介護福祉士会副会長をはじめ、新潟県介護福祉士会会長、また、新潟県の特別養護老人ホーム「かんばらの里」、「こうめの里」の園長も務める宮崎則男氏。現場にも精力的に参画し、行政と現場の指針や考え方の一本化を目指して活動されています。宮崎氏曰く、新型コロナウイルス感染症による社会への影響は、介護職の働き方やイメージにさまざまな変化をもたらしているようです。withコロナ時代の介護福祉の姿についてお話しをお聞きしました。

宮崎 則男

公益社団法人 日本介護福祉士会 副会長

「コロナ禍だからこそ」の自分なりの楽しみを見つけ
セルフコントロールを大切に

前編はこちら

新型コロナウイルス感染症に対する基本的な感染対策はもちろん、コロナ禍に強く必要だと感じたのが、施設で働く職員のメンタル面のサポートです。全国の介護福祉施設でクラスターが発生していますが、職員一人ひとりが、仕事だけではなくプライベートでも徹底した感染予防に取り組まなければならないということを改めて実感しています。
介護福祉施設などで働く職員は、「感染症を持ちこまないようにしなければならない」というプレッシャーやストレスと、常に隣合わせなのです。さらに、「いつ誹謗中傷の的になるかわからない」という不安を感じている職員も多くいました。withコロナの時代、介護職は、仕事でもプライベートでも緊張感が抜けないという状態がずっと続いてしまうことになります。

そこで、新潟県介護福祉士会では、感染症対策研修に加えて、セルフコントロールを課題とした、ストレスマネジメントの研修を計画しています。研修を通して、この難局を乗り越えるために専門職としてスキルアップを図ることは職能団体の役割です。
ストレスはつきものの職種ですから、プライベートでしっかりとストレスを発散してほしい。こんな状況「だから」と諦めてしまうのではなく、こんな状況「だからこそ」取り組めるような、自分なりの楽しみ方やリラックス方法、ストレス発散方法などを、介護従事者の皆さんには新たに探してほしいと思います。

 

1日かけていた仕事が2時間で済むように
コロナのおかげで見つけた効率的な働き方

新型コロナウイルス感染症によって、大変なこと、苦労することが増えたことも事実ですが、決してマイナスなことばかりではないように思います。

例えば、私が園長を務める特養では、これまで介護福祉士とパート層でケアへの想いなどに多少の意識の差があるように感じることもありました。もちろん全員がそうというわけではありませんが、「主任や介護福祉士のように、階級が上の人たちがご利用者の命や生活を支えている」と考えている方が以前は多かったように思います。
しかし、今回の一件で、パート層や直接ご利用者をケアしない職員の中でも「自分たちも感染対策などをきちんと勉強して、安心なサービスを提供しなければいけない」ということに気づいてくれた人が多くいました。こうした意識の変化がうれしかったですね。ウイルスは人を選びませんから、職場が一体となって感染対策に取り組み、介護職として人の生活を支えることの意義を皆で考えなければならないと思います。

また、仕事内容そのものを見直すとてもよいきっかけにもなっていると感じます。私自身、これまで2時間の会議のために、3~4時間かけて東京に通っていました。しかし、新型コロナウイルス感染症によって、「会議のために東京に行く」という、これまで当たり前に行っていたことができなくなってしまった。そこで、いざオンラインで会議を行ってみると、特に大きな問題もないんですよね。むしろ、今まで約1日を費やしていた仕事が2時間で済むという喜びと驚きを感じずにはいられませんでした。同時に人と直接会って話をすることの大切さも実感しています。人は人の支えなしで生きていけない。根本的な事を教えてもらった気がします。

特にマネジメント層の方々には、今まで当たり前のように行ってきた仕事が、新型コロナウイルス感染症によって変化した方も多いのではないでしょうか。だからこそ、今が仕事の棚卸を行うとてもよいチャンスでもあると捉えていただきたいと思います。「見直したいと思っていた仕事」、「惰性のように取り組んでいたこと」に目を向ける機会になります。当たり前だったことをやめてみたり、疑ってみる。すると意外ともっと効率的に仕事ができる方法を見つけることができたり、不必要な業務にも気づくことができるかもしれません。

ちなみに、私は浮いた時間で気分転換に畑仕事をすることも。この時間が私にとって、とてもよいリフレッシュになっています。コロナを機に、よりストレスフルで効率的な働き方を見つけることができました。

 

介護職のイメージがコロナを機に変化
「命を預かる」仕事として世間に認識された

新型コロナウイルス感染症により介護職のイメージにも、変化が生じているように感じます。

2020年5月に、介護従事者を対象とした慰労金が支払われることが決定しました。(※1)例えば介護福祉士など直接ご利用者のケアに当たる人、清掃員や調理師など、介護福祉施設で働いている人には5万円が支払われます。この5万円に大きな意義があるなと感じています。介護といえば、介護福祉士やケアマネジャーなどがイメージされがちですが、「ご利用者のケア」はその職種だけで成立しているわけではありません。ご利用者の健康を考え、バランスよい食事を作ってくれる栄養士や調理師、施設を清潔に保ってくれる清掃員も介護の現場を支えてくれている人たちです。これまでも、介護従事者の処遇改善はされていますが、介護福祉士など、直接ケアに関わる人たち向けのものが多いのが実情です。今回の慰労金では、それ以外の人たちにもお金が支払われるようになり、社会的にも彼らが「介護従事者であること」が認められたことがわかりました。私たちはご利用者の安全・安心を守るためにチームで仕事をしているのだということを理解してもらえるきっかけになったと思います。

それから、2020年の流行語にもノミネートされた「エッセンシャル・ワーカー(essential worker)」。新型コロナウイルス感染拡大に伴い、日本でも4月に緊急事態宣言が発令されましたが、私たちの生活を維持していただくために、「現場で」働き続けなければいけないエッセンシャル・ワーカーが注目されました。
エッセンシャル・ワーカーとは、私たちが日常生活を維持していくために重要な役割を担っている職種を指し、医師や看護師などの医療従事者、バスやトラックの運転手といった「運輸・物流に携わる職種」などがありますが、ここには介護従事者も含まれています。

私が社会の介護職の捉え方に変化を感じたのは、介護職が「命を預かる仕事」としてクローズアップされたこと。これまで、介護職と聞くと、多くの人が「やさしい」とか「あたたかい」や、「大変そうな仕事」とイメージされることが多かったんですよね。そうではなく、人の生活や人生に責任をもつ仕事として発信されたことは、私にとってはとても大きい出来事でした。介護職の捉え方が少しずつ変わっていることを感じています。

教育でも、中学・高校の家庭科に介護が追加されました。やはり、大人になってから親の介護などで急に「介護」を意識すると、どうしても気持ちが追い付かない方が多いんですよね。中学生のころから福祉や介護について学んでもらうことで、より介護を身近に感じてもらえるのではないかと思います。今後、介護職の働き方の見方もどんどん変化してくのではないでしょうか。

※1…慰労金についてはこちらから

私は、「人を潤すものは自分も潤される」という言葉をよく使います。人にしたことは自分に結局返ってきます。ご利用者の方、地域の方に力を尽くせば、必ず自分の元にも返ってくる。そんな気持ちでこれからも働いていただけたらうれしいです。特に介護福祉士の皆さんにはケアの中心として、ストレスと上手く付き合いながら、がんばりすぎず、がんばってほしいと思います。

宮崎 則男

公益社団法人 日本介護福祉士会 副会長
公益社団法人 新潟介護福祉士会 会長
新潟県特別養護老人ホーム「かんばらの里」、「こうめの里」園長

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