今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第221回 2021/09

必要なときに必要なことを必要なだけ学ぶ 自らの経験を通して知った看護継続教育の重要性

社会環境の変化や医療の高度化に対応するため、看護職者には自ら率先して学び続ける自己教育力が求められます。新潟県立看護大学教授の舟島なをみ氏は、看護職者の主体的な学習を支援するため、長年にわたって院内教育のプログラム開発を始めとする看護継続教育に関し研究してきました。臨床の看護師であった舟島氏が看護職者の教育に関心を抱いた理由、看護継続教育・生涯教育の重要性について、お話をうかがいました。

 

取材日:2021年8月12日

新潟県立看護大学教授
舟島なをみ 氏

新潟県立看護大学

小児外科で知った子どもたちの現実
「なんとかしたい」という思いが、学びの動機に

私は約20年にわたって、看護継続教育について研究しています。看護職者の教育に関心を抱いたきっかけは、順天堂大学医学部附属順天堂医院で看護師をしていた頃のある出来事でした。新人時代、私は小児外科系混合病棟に勤務していました。当時はまだ乳幼児の外科手術を行う病院が少なかったため、順天堂医院には世界中からさまざまな病気を持つ子どもたちが来院していました。手術が成功すると、ご家族ともども、とても喜び、幸せそうに退院なさいました。
 
しかし数年後、小児外科の外来で、ある少年と思いがけない再会を果たすことに。その少年は生まれつき肛門が形成されない「鎖肛(さこう)(直腸肛門奇形)」という先天性疾患で、新生児のときに順天堂医院で手術を受けました。看護師として新生児であったその少年を看護した経験を持つ私は、外来の予約表に彼の名前を見つけ、再会をとても楽しみにしていました。しかし、数年ぶりに会ったその少年は大きな問題を持っていました。手術によって排便できるようにはなりましたが、肛門に筋肉がないため、便が漏れ続け、小学生になってもおむつを手放せない状態だったのです。困った親御さんが、頻繁に「トイレに行きなさい」と指導したところ、少年は困ったことがあるたびに1時間も2時間もトイレにこもるようになってしまったそうです。私はその話を聞き、とても大きな衝撃を受けました。
 
小児外科の外来では、他にもさまざまな問題を持つ子どもたちに出会いました。例えば、二分脊椎症(※)のお子さんは、生後間もなく手術を行いますが、下肢の運動機能や排泄機能に障害が残ることも少なくありません。彼らは小学生になってもおむつを必要とし、学校生活を送る上でさまざまな問題に直面していました。
 
しかも、膀胱に尿が残ると膀胱炎や腎盂腎炎を引き起こすため、当時は排尿時には膀胱を手で押すよう指導するのが一般的でした。ですが、その方法を続けていると膀胱が変形し、そこに尿が溜まることでかえって膀胱炎を起こす事態に。膀胱炎を起こしては来院し、抗生物質で治療して……を繰り返していたのです。
 
こうした現実に直面し、私はこの状況を「なんとかならないものか」と考え、その疑問に答える書籍や文献を探しました。とはいえ、当時はネット検索もできない時代。そこで大学の図書館を訪れ、司書の方に相談したところ、私の疑問に関連するアメリカの文献を探してくださいました。その文献によると、アメリカでは子どもでも自己導尿を行っていることがわかり、目から鱗が落ちました。子どもが自分で導尿できるようになれば、親御さんの付き添いなしで外出でき、子ども自身ができることも増えるはずです。早速、当時の小児外科医に相談したところ、すぐに理解を示してくださり、「では、当院でもやってみよう」という話になりました。そして排尿障害に悩み、しかも親御さんがこの方法に取り組むことに積極的な小学生に自己導尿の方法を教えたところ、おむつから解放され、膀胱炎を起こさなくなり、生活も一変。その子の様子も、目に見えて変わっていったのです。約35年前の話です。
 
この看護の重要性を検証するために、私は35歳で聖路加看護大学大学院に入学しました。そこで行ったのは、排尿機能に障害を持つ学童期の子どもの自己導尿に関する研究でした。子ども自身が導尿している20名の小学生、親にやってもらっている20名の小学生を比較した結果、自分で導尿する子のほうが社会生活上の発達の程度が高く、親の養育態度も異なることを検証できたのです。患者さんの排泄の自立や合併症予防の支援は、看護師の役割です。
こうした経験を踏まえ、私は「看護師が自律的に活動しなければ患者さんの健康は守れない」と考えるようになりました。そして、看護師が自律的に活動するためには、必要な学習を必要な時に継続することの重要性を感じ、既に免許を持つ看護職者の学習や教育に関心を抱くようになったのです。
 
※神経管閉鎖障害を形成する先天性奇形

社会が大きく変動する今
看護師も状況に応じて主体的に学ぶ姿勢が必要

その後、大学教員になった私は、2003年から「看護継続教育支援システムの構築」について11年間研究を続けました。看護師時代から私は、医師と看護師の能力差、その背景にある教育の差を痛感していました。そもそも医師と看護師では、教育体制が違います。医師は6年間の教育を受けますが、私が病院で看護師として働いていた時代は、専門学校で3年間の教育を受けた看護師がほとんどでした。チーム医療を求められても、医師と看護師が対等に協働するのは難しいのではないでしょうか。
 
病院に勤務していた頃、私は特に意識が高い看護師ではありませんでした。でも、「医学的な治療が終わっているにもかかわらず、生活上大きな問題に直面する子どもたちの状況を何とかならないものか」という一心で文献を調べ、行動を起こしたところ、患者さんや病院、そして私自身に大きな変化が生じたのです。この経験から私が実感したのは、状況の変化に対応して必要なときに必要なことを必要なだけ納得がいくまで学習し続ける「自己教育力」の重要性でした。看護師は専門職であり、専門職と自律は不可分です。社会が大きく変動する今、看護師も状況に応じて主体的に学ばなければ、必要な看護はできません。だからこそ、必要なことを必要なだけ学び続ける力を身につけてほしい。そういう思いから、私は看護師の継続教育・生涯教育に力を入れてきたのです。
 
私が長年続けてきた「看護継続教育支援システムの構築」は、院内教育のプログラムに関する研究です。現在、多くの病院では、看護師を対象とした教育プログラムを提供しています。しかし、この研究に着手した当初、約20名の看護部長を対象にした面接調査を通し、何をどのように教えればいいのか、答えがないまま手探りで院内教育を行っていた病院が多いことを確認しました。私は、院内教育においても看護師の自己教育力を育てるプログラムが必要だと感じていました。「言われたことしかやりません」「教わらなかったのでやりません」とならないためにも、看護師の学習ニード、教育ニードに合わせたプログラムを提供し、主体的に学習し続ける力を身につけてほしいと考えたのです。
 
その後、2015年からは「医療事故防止のための看護職者包括型患者安全教育推進システムの開発」というテーマで研究を行っています。看護師は、医療事故から目を背けることはできません。看護師にとって医療を受ける人々の安全を守ることは重大な責務の一つです。もし、何らかの事故が起きてしまった場合、その被害を受けた方への影響は計り知れず、また、事故の当事者となった看護師にも、大きな心的外傷が残ります。患者の安全を守るためには環境を整備することは必須ですが、看護師が医療安全に必要な看護実践能力を向上させることも重要です。そこで、現在、病院の中でも特に事故が起こりやすい部署に就業する看護師が活用できる医療事故防止能力を測る自己評価尺度を開発しています。また、看護学実習指導に携わる臨床指導者や先生方に向け、学生の医療事故を防止するために必要な指導の質を測る自己評価尺度の開発も行っています。
 
こうして振り返ると、私の研究の多くの部分は看護継続教育・生涯教育に関わっています。その根底にあるのは、看護師の主体的な学習を支援したいという思いです。看護職者の多くは、きっと「人の役に立ちたい」と思ってこの仕事を始めたはず。私自身も未熟ながらも同様の思いで看護師を13年間続けてきたように思います。そして順天堂医院で子どもたちに出会い、司書や医師という頼りになる方々が力を貸してくれたことが、主体的な学習に結び付いたのです。同じように、看護職者が主体的に学びたいと思ったときのために、学びのノウハウやツールを提供したい。その一心で今も研究を続けています。

思い立ったときに学習できる環境を整備し
看護師の主体的な学びを促す

アメリカや中国などの諸外国には、看護師の免許更新制度があります。免許更新には、研修や学会に参加する必要がありますし、国によっては一定数の論文の発表を求められるというケースも。看護師を続けるには、継続的に学び続けなければなりません。
 
かたや日本には、看護師の免許更新制度はありません。専門看護師、認定看護師の資格を持つ看護師には免許更新制度がありますが、それ以外の看護職者は職業の継続に向けた学習を義務化されていません。
 
どの病院も多大なエネルギーを投入し各病院固有の院内教育プログラムを開発しています。看護師は日々の業務が忙しく、学習したいと思ってもなかなかその時間を捻出できません。今後の課題は、学習したいときに学習できる環境を整えること。また、今では多くの病院でコンピュータを使って文献を検索できるようになりましたが、まだそういった環境が整備されていない病院もあります。看護師が困ったことに直面したときに、文献を調べたり、詳しい研究者に問い合わせたりできるシステムがあれば、看護師の学習もはかどるでしょう。病院側には、ぜひオンライン環境を整えていただきたいと願っています。
 
 
後編では、院内プロジェクトによって看護部が大きく成長した事例、看護管理者が学習を続ける意義について語っていただきました。

舟島なをみ氏
新潟県立看護大学教授
 
1973年、順天堂高等看護学校卒業後、1986年まで順天堂大学医学部附属順天堂医院に勤務。1988年、聖路加看護大学大学院修士課程修了。聖母女子短期大学講師、埼玉医科大学短期大学助教授、千葉大学助教授、1997年博士(看護学)の取得、1999年千葉大学教授に就任。現在は新潟県立看護大学で教授を務める。著書に『院内教育プログラムの立案・実施・評価』『看護実践·教育のための測定用具ファイル』など。
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