今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第223回 2021/11

生活スタイルを改善し、薬に頼らない体を作る これからの予防的ヘルスケア

病気にかかってから治すのではなく、病気になりにくい体を作る予防医療。消化器外科医・ヘルスコーチの石黒成治氏は、この分野に着目し、「薬に頼らない健康法」についてYoutubeで実践的な情報を発信しています。チャンネル登録者数17万人を誇る石黒氏が考える、予防的ヘルスケアの重要性について話をうかがいました。

取材日:2021年10月18日

消化器外科医
ヘルスコーチ
石黒 成治 氏

Dr Ishiguroの健康スクール

激務でぼろぼろだった体が、
食事を変えただけで回復した

私は2018年まで大学病院に勤務し、消化器外科医として手術や救急医療を行っていました。当時は朝から晩まで手術をこなし、土日も休みなし。1週間のうち、わずか6時間しか自宅で過ごせないこともあったほどです。そんな「医者の不養生」を地でいくような生活でしたから、45歳を超える頃には体力も限界に。常に体がだるくて何をしてもすっきりせず、手術を終えると精魂尽きて倒れ込んでしまうありさまでした。気づけば体重も増え、階段を少し上がっただけでも息が切れる始末。なんとかして体力をつけよう思いましたが、そもそも医師は病気の治療法には詳しくても、健康に関する知識がありません。病気にならないためにはどうすればいいか、どうすれば体力を回復できるのかわからず、エナジードリンクやサプリメントを飲んだり、スタミナがつきそうなものを食べたりすることしかできませんでした。
 
そんな中、何気なく手に取ったのが食事に関する健康法の本でした。その本にしたがって調理に使う油を変えたり、食事量を減らしたりしたところ、2週間もしないうちに体調がよくなったのです。4ヶ月も経つと88kgあった体重が14kg減り、74kgに。そこから筋トレを始めて、引き締まった体を手に入れました。

予防医療を実践し、
ヘルスケア情報をSNSで発信

こうした経験から、私は自身の体調をさらに改善するために、予防医療や機能性医学(※1)の勉強を始めました。アメリカでは薬の服用を避けたがる人が多く、予防医療への関心が高い傾向があります。機能性医学の研究も約15年前から行われ、すでに円熟期を迎えていました。現在はサプリメント市場が拡大し、商業主義が加速していますが、予防医療は日本の先を行っています。とはいえ、アメリカの機能性医学は、当然ながらアメリカ人を対象にしたものです。人種も食生活も違う日本人がアメリカの知識を鵜呑みにしたところで、同じ効果が得られるとは限りません。そこで、日本人に適した予防医療はどのようなものか、研究を重ね、自ら実践してきました。
 
まず最初に試したのは、油を変えること、そして糖質を制限することです。一般的な糖質制限では肉や魚などのたんぱく質はいくら食べてもいいという考え方ですが、私の場合はたんぱく質の摂りすぎも避けました。健康状態に影響を与えるのは、食事、運動、睡眠、そしてストレスです。どの領域にどれくらい取り組むべきか、人によってベストミックスがありますが、私の場合は食事だけで十分に体調が変わりました。こうした知識をFacebookやInstagramで発信したところフォロワーから質問をいただくようになり、ヘルスコーチを始めることに。今ではYoutubeでも情報を発信しています。
 
※1
発症メカニズムが複雑である慢性疾患に対して、対症療法に終始するのではなく、発症原因に着目しながら、その予防と根本治療を目指す、個体差を考慮した医学。

医師の責務は、薬に頼らず
病院を必要としない人を増やすこと

「薬に頼らない健康法」について情報発信を始めたのは、開業医時代にジレンマを感じていたことがきっかけです。私は大学病院やがんセンター勤務を経て、開業医を3年間経験しました。病院には高血圧、糖尿病、高脂血症など、さまざまな生活習慣病の患者さんが来院していました。しかし、高血圧の患者さんが薬を飲み続けても、血圧の上昇を抑えるだけで体質までは変わりません。何も治りませんし、問題を先送りにしているだけともいえます。薬をもらうために病院に通い続けてくれる患者さんは、病院経営上は確かにありがたい患者さんかもしれません。しかし、私はもともと外科医なので、病をきちんと治すことにやりがいを感じます。いつまで経っても病気が治らない患者さんを目の当たりにして、自分は医師としての責務を果たせているのだろうかとジレンマを抱えていました。
 
本来、医師の役割は、患者さんが薬を飲まなくてもいい健康状態にすることです。確かに血圧が高すぎる場合は薬で抑えなければなりませんが、「この薬を一生飲み続けるつもりですか?」と最初に問いかけることも必要ではないでしょうか。投薬治療を始めるなら、「今は、血圧を下げるために短期的に薬を飲みましょう。でも、半年以内に薬が要らなくなるように、もしくは薬を半分に減らせるように、生活スタイルを変えていきましょう」というメッセージを伝え、生活スタイルについても適切に指導すべきだと思います。
 
生活スタイルが変われば、生活習慣病にも影響が生じます。簡単にいえば、太った人が痩せるだけで、血圧や血糖値、コレステロールが下がるのです。しかし、医師には生活改善を指導できるほどの知識も経験もありません。私が情報発信を始めた背景には、こうした現状もあります。

論文と自身の体験に基づき
信頼性の高いヘルスケア情報を発信

発信する内容は、論文に基づくものですが、その情報には必ず私自身の解釈を加えています。私はもともと大学病院勤務なので、論文を読んだり書いたりすることも仕事の一環でした。論文から信頼できる情報を得て、気になるトピックについてはさらに他の論文にもあたって深掘りしていきます。
 
ただし、健康をテーマにした論文はマーケティング色が強いもの、例えば「この薬を売りたい」「このトレーニンググッズを売りたい」という思惑が透けて見える論文も少なくありません。中でも薬品に関する論文は、多くの場合、製薬会社の意向が働いています。その一方で、食品やアロマは価格が安いため企業が利益を得にくく、商業的な論文は少ない傾向があります。そういったものの中から信頼に値する情報を集め、さらに食品やサプリであれば自分で購入して試しています。このように、どんなテーマであっても自分で体験したうえで発信するのが、私のモットーです。「〇〇がいいらしい」という不確定な情報については語らず、どうしても語る必要がある場合は「いいらしいけれど私は体験していません」と言うようにしています。
 
健康知識を広める場は、Youtubeに限りません。現在はオンラインスクールでも講師を務め、講義を行うだけでなく、ファスティングや運動、瞑想などを受講生の皆さんと一緒に実践しています。スクールには、更年期を迎えた女性が数多く在籍しています。「こうした体の不調は、これからもずっと続くのだろうか」と漠然とした不安を抱き、生活スタイルを変えるためにみなさん受講します。その中には、看護師も多数います。看護職であっても、予防医療やヘルスケアについて学ぶ機会が少なかったためでしょう。私も、看護師・介護士が予防医療を学ぶことに大きな意義があると感じています。
 
後編では、看護師・介護士が予防治療を学ぶ必要性について語っていただくとともに、健康知識をどのようにして発信していくべきか、石黒氏の見解をうかがいます。

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後編はこちら
看護師・介護士が今行うべき予防的ヘルスケア
健康意識を高める情報発信にもチャレンジを

 

石黒 成治氏
消化器外科医/ヘルスコーチ
 
1973年、愛知県名古屋市生まれ。1997年、名古屋大学医学部卒。国立がん研究センター中央病院で大腸癌外科治療のトレーニングを受ける。その後名古屋大学医学部附属病院、愛知県がんセンター中央病院、愛知医科大学病院に勤務する。2018年から予防医療を行うヘルスコーチとしての活動を開始。腸内環境の改善法、薬に頼らない健康法の普及を目的に、メールマガジン、YouTubeなどで知識、情報を分かりやすく発信している。Dr Ishiguro YouTubeチャンネル登録者数は17万3000人(2021年10月現在)。著書に『食べても太らず、免疫力がつく食事法』『医師がすすめる少食ライフ』(ともにクロスメディア・パブリッシング)がある。
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