今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第223回 2021/11

看護師・介護士が今行うべき予防的ヘルスケア 健康意識を高める情報発信にもチャレンジを

日々の仕事に追われ、生活リズムが乱れやすい看護師や介護士。しかし、食事や睡眠をおろそかにしていると、さまざまな病気を引き起こしかねません。「薬に頼らない健康法」についてYoutubeで発信している石黒成治氏も、自身の健康を二の次にした結果、体の不調に悩まされたそうです。看護師や介護士が行うべき予防的ヘルスケア、そして医療・介護従事者の情報発信について、石黒氏に語っていただきました。

取材日:2021年10月18日

 

消化器外科医
ヘルスコーチ
石黒 成治 氏

Dr Ishiguroの健康スクール

健康知識をアップデートし
時間をかけて生活スタイルの改善を

前編はこちら
生活スタイルを改善し、薬に頼らない体を作る これからの予防的ヘルスケア

私は現在、「薬に頼らない健康法」についてYoutubeなどで情報を発信しています。こうした活動を通して問題を感じるのは、多くの方々が予防医療に関する知識をほとんどもっていないことです。これは、一般の方に限ったことでありません。医師や看護師、介護士も、十分な知識をもっているとはいえず、古い健康知識をアップデートしないまま、現在に至っている方も見受けられます。
 
例えば一般の方の中には、今でも「コレステロール値が高い=健康状態が悪い」と思い込んでいる方がいます。しかし、ただコレステロール値を下げるだけでは意味がないことは、ずいぶん前から当たり前とされています。予防医療やヘルスケアに関する常識が変化しているのに、最新情報をキャッチできておらず、その結果「バランスよく食べましょう」「牛乳は健康に良いのでたくさん飲みましょう」という昭和の健康法をそのまま実践しているケースも見られます。確かに、日本は欧米に比べて肥満人口が少なく、健康的なイメージがあるかもしれません。しかし、日本人の体質を考えると、現在の太りすぎの人の割合は高すぎます。健康危機が訪れているにもかかわらず、まったく自覚がない人も多く、健康意識の低さを感じます。
 
また、健康情報に関しては、マーケティングの影響を強く受けています。「この食品を摂れば健康になる」といった知識に飛びつき、短期的な行動で安易に物事を解決しようとする近視眼的な傾向があります。コツコツ努力して成果を得ようという思いが日本人から失われつつあり、それが健康面にも表れているのではないかと懸念しています。多くの場合、食事や生活スタイルを変えても、3~6ヵ月経たなければ体に変化は起きません。「日頃から体のことを考えて生活しなければならない」「体を変えるには時間がかかる」という基本的な知識が欠けているのです。
 
さらに、加工食品、つまりコンビニの弁当や総菜ばかり食べ続けることによる健康上の不利益にも気づいていません。食事の大切さを大人がしっかり教え、食育を今一度考え直さなければならないと思っています。

生活リズムが乱れがちな医療従事者こそ
予防医療の重要性を認識してほしい

中でも看護師や介護士が、予防治療の知識を得ることはとても重要です。医療・介護従事者やフライトアテンダントのように睡眠リズムが乱れる職業は、糖尿病や乳がん、心臓病などのリスクが高いという研究データがあります。睡眠が乱れると腸内環境も乱れ、さまざまな病気を引き起こしかねません。人間には体内時計があり、眠るべき時間があります。しかし、看護師や介護士はその時間にも働かなければなりません。だからこそ、「自分は健康上のリスクが人より高いのだ」と自覚する必要があるのです。
 
コロナ禍を経て、人々の健康意識にはよい変化が生じたように感じます。特に、免疫について意識する人が増えたのではないでしょうか。感染症にかかりにくい体、仮にかかったとしても軽症で治る体を作るには、免疫が大きく関わってきます。免疫が働けば、炎症を起こして、体内に入り込んだウイルスや細菌を一気にやっつけることができます。しかし、肥満や糖尿病の方は、体の中に慢性の炎症がある状態です。常にブスブスと火種が燃えているため、体の他のところで異常が起きても、そこに免疫細胞を一気に集中させることができないのです。ですから、肥満や糖尿病の方は感染症の重症化リスクが高いとされています。コロナ禍では、こうした慢性の炎症を避ける生活を意識すること、免疫力を向上・維持することが重視されるようになりました。これを機に、皆さんにももう一度生活スタイルを見直していただきたいと思います。

失って気づく健康のありがたみ
まずは1日5分の深呼吸や瞑想でリフレッシュを

看護師・介護士の仕事は過酷で、ストレスもかかるため、「休みの日くらい気を抜いて好きなことをしたい」という気持ちも十分わかります。しかし、30~40代になると、若い頃のように健康を保つことも難しくなるはずです。だからこそ、若いうちから食事に気を付け、睡眠時間をしっかり取ってほしい。夜勤の時はコンビニで総菜を買うのではなく、自分で作った弁当を持参できるよう少しでも時間を作ってほしいと願っています。また、ジムに通うなど、どんな形でもいいので体を動かしてください。忙しい中でも時間を見つけ、自分の体を健康に保つための行動を優先度高く行いましょう。
 
ストレスを発散するための趣味を見つけることも大切です。もし、そういった趣味がない場合は、1日5分間ゆっくり呼吸を落ち着けてリラックスする時間を作ってください。深呼吸や瞑想を5分間行うだけで、交感神経の興奮が収まり、メンタルも落ち着きます。今言われてピンとこなくても、「あ、やってみようかな」と思うタイミングが必ず訪れるはずです。なにかの折に思い出し、深呼吸や瞑想を実践していただけたら、体調やメンタルヘルスによい影響を及ぼすのではないかと思います。

医療・介護従事者が情報発信する意義
看護師・介護士だからこそ伝えられるメッセージがある

医療従事者がYoutubeなどで情報発信することに対し、「なんの意味があるのか」と懐疑的なまなざしを向ける方もいます。しかし、医師は患者さんに薬を出すのが仕事ではなく、病院に来なくてもいい状態にするのが本来の役割です。病気の予防について啓もうし、予防医療に即した生活スタイルに変えてもらうことは、まさに医療従事者の使命ではないかと思います。
 
ですから私は、看護師や介護士の皆さんの情報発信にも賛成です。テーマはなんでもかまわないと思います。看護師であれば医療全般の話ができますし、もし「もともと太っていたけれど生活スタイルを変えて〇kg痩せた」という体験があるなら、それについて話すのもいいでしょう。人はストーリーが好きなので興味をもって聞いてもらえますし、肥満に悩む方の相談に乗ることもできます。
 
介護士であれば、リハビリの大変さについて説明し、「リハビリが必要にならないよう、生活スタイルを変えて病気を防ごう」と話すのもいいかもしれません。脳梗塞や脳出血などを引き起こす種は、30~40代の頃に生じます。その因子が大きくなり、大病を患うと寝たきりの生活になりかねません。30~40代で生活スタイルを変えれば、発症リスクを大幅に下げられるはず。そういったメッセージも伝えられるのではないでしょうか。

日々を何気なく過ごしていると、健康のありがたみはなかなか感じられません。失ってはじめて大切さに気づくのが、健康です。だからこそ「普段から健康を意識した生活を送ろう」というメッセージは伝わりにくく、「明日からでもいいや」となってしまいます。年齢を重ねると階段を駆け上がれなくなったり、ジャンプをしようと思ってもできなくなったりと、ふとした拍子に体力の衰えに気づくはずです。にもかかわらず、「今はまだそこまで困っていないから」とサインを無視し続けている人は多いのではないでしょうか。本来なら、自分の体は真っ先にケアしなければなりません。しかし、日本人は学校や家庭で健康意識を育む機会がなく、健康の大切さに気付く人と気付かない人に大きく分かれています。私がYoutubeを始めたのも、少しでも多くの方に予防医療について見識を深めてほしいから。なにかの拍子に目に留まり、「あ、健康を意識することって大事だな」と多くの方々に思ってもらえたら本望です。

石黒 成治氏
消化器外科医/ヘルスコーチ
 
1973年、愛知県名古屋市生まれ。1997年、名古屋大学医学部卒。国立がん研究センター中央病院で大腸癌外科治療のトレーニングを受ける。その後名古屋大学医学部附属病院、愛知県がんセンター中央病院、愛知医科大学病院に勤務する。2018年から予防医療を行うヘルスコーチとしての活動を開始。腸内環境の改善法、薬に頼らない健康法の普及を目的に、メールマガジン、YouTubeなどで知識、情報を分かりやすく発信している。Dr Ishiguro YouTubeチャンネル登録者数は17万3000人(2021年10月現在)。著書に『食べても太らず、免疫力がつく食事法』『医師がすすめる少食ライフ』(ともにクロスメディア・パブリッシング)がある。
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