今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第226回 2022/02

あなたの周りにもヤングケアラーは必ずいる 孤独を抱える彼らのために、医療・介護従事者ができること

家族の介護を担う18歳未満の子供たち「ヤングケアラー」の中には、悩みを抱えていたり、孤独を感じたりしている人も多くいます。こうした悩めるヤングケアラーに対し、医療従事者はどのようにして手を差し伸べればいいのでしょうか。ヤングケアラーの支援活動を行う濱島淑惠氏に、看護師や介護士が果たすべき役割について話をうかがいました。

 

取材日:2022年1月13日

大阪歯科大学医療保健学部教授
「ふうせんの会」共同代表
濱島 淑惠 氏

ふうせんの会

前編はこちら
家族を介護する18歳未満の子供たち ヤングケアラーの知られざる実態

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“気づく”“見つける”から始まるヤングケアラー支援
彼らが孤立しないよう、見守りや声かけを

ヤングケアラーは、孤立しやすい存在です。身近に頼れる大人がいなければ、利用できる介護・福祉サービスを探して手続きすることもできません。その家族だけが社会から孤立した状態になり、近所の方が気付かない限り、福祉とつながることもできないのです。
 
そのため、ヤングケアラーの支援は、まず“気づく”“見つける”というところから始まります。そのうえで、あまり状況が悪化していなければ見守りや声かけを行います。生活が立ち行かない、学校に行けない、孤独を抱えているといった場合には、福祉サービスを紹介したり、学校に通えるようにするための支援窓口につないだり、交流の場を紹介したりすることも必要です。
 
中でも医療機関はヤングケアラーに気づくという重要な役割を担っていると思います。にもかかわらず、学校や福祉関係職に比べると、医療従事者はまだヤングケアラーに関する認知が不十分だと感じます。例えばイギリスでは、入院していた家族が退院する際、その後のケア体制についてヒアリングし、患者さんの子供や孫がケアに関わりそうな時は支援団体につなげています。日本においても、こうした支援ができるのではないでしょうか。
 
また、病院の付き添いをするヤングケアラーはたくさんいます。看護師が「この子はいつも付き添っているな」「この子ばかりお見舞いに来ているな」と気づくチャンスは必ずあるはず。その際、「ちゃんと眠れている?」「学校には通えている?」「相談できる人はいる?」などと具体的に聞いてもらえると、本人も答えやすく、気にかけてもらえているという安心感ももてます。そこから支援サービスにつなげることもできます。

ヤングケアラーは「資源」ではない
ケアを任せるなら、周囲の支えが必要

しかし実際には、医療・介護従事者が子供たちをキーパーソンと位置づけて、ケア役割を担わせているケースが多々あります。例えば、ヤングケアラーが患者さんの付き添いやお見舞いに来ると、「お母さんの薬が変わったので気をつけてね」「おばあちゃんは今こういう状態なのでご家族に伝えておいてね」と重要な連絡事項を子供に伝えることがあるでしょう。大切な伝言や書類を託されれば、その子は「絶対に間違えてはいけない」とプレッシャーを感じます。さらに、家族の中に頼れる大人がいなければ、自分で書類を書くしかありません。こうした役割を担うのがつらかったという声もよく聞きます。医療・介護従事者は、彼らにケア役割を押し付けているという自覚を持つことが必要です。そして、どうしてもその子にお願いしなければならない時は、ただ「お願いして終わり」ではなく、ケアの相談に乗ったり、書類の書き方をサポートしたりといった配慮もすべきでしょう。「子供に任せて終わり」ではなく「任せるなら支える」。それが、ヤングケアラーに対して医療従事者がとるべき姿勢ではないかと思います。
 
さらにショッキングなケースでは、精神疾患の母親に付き添って病院に行った際、「ケアがつらい。もうやめたい」と医療従事者に訴えたにもかかわらず、「そんなことを言ってはだめ。家族でしょう」と諭されたという子も。「家族だからやっぱりケアしなければならないんだ」と、非常につらい思いをしたそうです。また、精神疾患の母親をケアするうちに、子供まで情緒不安定になるケースも非常に多く見られます。そのため母親と同じ精神科に通い始めたら、その子も患者さんであるにもかかわらず、母親の状態を尋ねられたり、「お母さんにこう接してほしい」と頼まれたりしたという方も。自分も調子が悪いのに、いつまでもケアの役割を期待されてしまうのは、とても苦しいことだと思います。医療・介護従事者は、「あの家はお子さんがしっかりしているから安心」と考えるのかもしれません。しかし、そこには間違いなく負担を負っているヤングケアラーがいます。そのことに目を向けていただきたいと思います。
 
他方で、医療・福祉従事者に救われたというヤングケアラーもたくさんいます。例えば、家族の病気についてほとんど知らされていなければ、「お母さんが突然ぶつぶつ言うようになった」「『死んでしまえ』などの暴言を吐くようになった」「大好きなおじいちゃんが認知症になり、孫である私の顔もわからなくなってしまった」などの異変に遭遇しても戸惑うばかりでしょう。「子供だから説明しても理解するのは難しいだろう」という配慮もあるのでしょうが、何も説明されなければ不安ばかりが大きくなってしまいます。
 
こうした時に、医療・介護従事者が患者さんの病状を丁寧に教えてあげると、ケアする子供も気持ちが楽になります。たとえ母親にひどい言葉をぶつけられたとしても、「それは病気だからだよ。一時的なことだよ」と教えてあげれば、お子さんの心も落ち着くでしょう。「ぷるすあるは」というNPO法人では、うつ病、統合失調症、アルコール依存症などの親を持つ子供に、精神疾患をわかりやすく解説してくれる絵本を出版しています。

NPO法人ぷるすあるは
「家族のこころの病気を子どもに伝える絵本」(ゆまに書房)


親がうつ病になったとき、統合失調症になったとき、アルコール依存症になったときの、子どもの気持ちの理解とかかわりをテーマにした、日本で初めての絵本。全4巻。

こうした本を使って、親をケアする子供に病状を説明するのもいいでしょう。
 
ケアを担うことは、けして悪いことではなく尊いこと。ケアによって得られる幸せや喜びも、非常に大きいものです。それでも、人によっては困ったこと、つらいことも多々あります。ケアがもたらす喜びとつらさは共存しうるものとして、ケアの価値と負荷、双方のバランスを取れているか見守ることが周囲の大人の役目だと思います。

患者さんの周りには、必ずヤングケアラーがいる
医療従事者は、彼らの一番の理解者になり得る存在

近年、新型コロナウイルス感染症の拡大により、ヤングケアラーの置かれた状況は変わりつつあります。例えば、精神疾患の母親が今まで以上にナーバスになり、子供の外出を一切禁じるようになったケース、今までは何とか持ちこたえていたけれど、コロナ禍でガクンと精神状態が悪化して子供のケア役割が増えたというケースなどを耳にしています。
 
また、介護施設が利用できなくなったり、祖父母が「コロナが怖いので行きたくない」と言い出したりすることも多く、自宅での老人介護も増えています。「大学も休校したので、介護だけの生活を送っている」という話も聞きます。科学的根拠をもって数値化することはできませんが、コロナ禍がヤングケアラーの人数、負荷を増やしている可能性はあると見ています。
 
ヤングケアラー支援は総力戦です。学校は学校の、福祉は福祉の、医療は医療の役割を果たして、それぞれが情報共有しながら連携し、ネットワークとして機能していく体制が理想的です。そのためには、大前提としてヤングケアラーに対する理解が広がることが重要です。今なおヤングケアラーの存在を知らない方も多く、「かわいそうな子」だと思い込んでいる方、深刻なケースでなければヤングケアラーだと認識しない方もいます。正しい理解が広がれば、彼らの味方も増えるはず。学校、職場、地域などさまざまな場所で、自分の置かれた状況をわかってもらえれば、彼らも心強いのではないかと思います。
 
そのための第一歩として、医療・介護従事者の方にはヤングケアラーについて理解していただきたいと願っています。「自分が担当する患者さんの家族には、ヤングケアラーはいない」と思っている方も多いかもしれませんが、視点を180度変えて「必ずいる」と思ってください。
 
実は、医療現場は学校以上にヤングケアラーに出会う確率が高い場です。病院に来るのは、ケアが必要な患者さんです。その周りに若者や小さい子供がいたら、かなりの確率でケア役割を担っています。特に母子家庭で母親の調子が悪い場合、まず間違いなく子供がケアしているはずです。私が出会った中には、「自分がケアをしたのは3ヶ月だけ。大したことはない」と話すヤングケアラーもいましたが、入試シーズンにぶつかり、大変な苦労をしていました。ケアが子供に与える影響は、期間が長いかどうか、ケアが高度かどうかでは測れません。だからこそ、医療従事者は患者さんとその主介護者だけを見るのではなく、そこに子供が関わっていないかしっかり見ていただきたいと思います。
 
「この子は違うだろう」ではなく、「この子もそうかもしれない」という視点を持ち、彼らの生活を想像してほしい。そのうえで声かけやアドバイスをしていただければ、ヤングケアラーにとって大きな救いになります。医療職だからこそできることは、たくさんあります。ぜひヤングケアラーの一番の理解者になっていただけたらうれしいです。

濱島淑惠氏
大阪歯科大学医療保健学部教授
「ふうせんの会」共同代表
 
1993年、日本女子大学人間社会学部社会福祉学科卒業、99年、同大大学院人間社会研究科博士課程後期満期退学。2017年、金沢大学で博士(学術)を取得。専門は高齢社会における介護、家族、ワークライフバランスなど。20年にはヤングケアラーたちの集い「ふうせんの会」を有志とともに立ち上げた。2021年度の神戸市こども・若者ケアラー支援アドバイザー、大阪市ヤングケアラーPTメンバーを務めている。主な著書に『子ども介護者 ヤングケアラーの現実と社会の壁』『家族介護者の生活保障-実態分析と政策的アプローチ』。
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