インタビューアーカイブ

2022/3

「看護業務の効率化先進事例アワード」最優秀賞受賞 医師、看護師間のタスクシフトによる業務効率化を実現

看護業務の効率化先進事例の収集・周知を目的に、日本看護協会では2019年より「看護業務の効率化先進事例アワード」を開催しています。2021年に最優秀賞を受賞したのが、東京都立小児総合医療センターの小児集中治療室看護部です。医師と看護師の業務改善や、看護の質の向上などにつなげた取り組みの経緯について、活動を中心的に進めた3名の看護師にお聞きしました。

左:小松 由己 氏

看護師長

中:新井 朋子 氏

副看護師長 クリティカルケア認定看護師  特定行為研修修了者

左:猪瀬 秀一 氏

看護師長

年間約900人の患者を受け入れる小児集中治療室

小松

東京都立小児総合医療センターは、「すべての子ども達が笑顔になれるよう、最善の医療を行う」ことを使命とし、2010年に開設されました。東京都こども救命センターの指定施設として、年間、救急外来(ER)で約4万人、小児集中治療室(以下、PICU)では700~900人の患者を受け入れており、東京都の小児医療の拠点でもあります。院内には、子ども向けのオブジェや絵、おもちゃを設置しており、子どもが安心して治療に専念できるような環境を整えています。

東京都立小児総合医療センター

私たち看護部は、センターの使命に則り、目指す看護として3つの理念を掲げています。1つ目は「私たちは、未来を担う子どもたちの個性を尊重し、成長と発達を育む専門性の高い看護を提供します」、2つ目は「私たちは、医療チームや家族と協力し、子どもたちに安全・安楽な看護を提供します」、3つ目は「私たちは、柔軟な発想と創造力を発揮し、看護の資質向上に努めます」です。子どもに誠実に向き合い、心あたたかいケアの提供を心掛けています。

 

薬剤科へのタスクシフトがきっかけに

新井

最優秀賞をいただいたPICU看護部の取り組み内容は2つです。1つ目は、「PICUスタッフによる診療補助業務のタスクシフト」。2つ目が、「特定行為研修修了者による特定行為実践」です(画像1)。1つ目の取り組みでは、①動脈ラインポートからの採血 ②中心静脈/動脈ライン圧ライン交換 ③気管内チューブ固定テープ交換の3つを医師から看護師へタスクシフトを行いました。
医師と看護師間の連携強化、および相互の業務効率化を実現し、患者さんへタイムリーなケアを提供することを目的に、2020年から本格的に取り組みをスタートしました。

[画像1]PICU看護部で行った2つの取り組み

小松

今回の取り組みの先駆けとなったのは、2013年から行っていた薬剤科と看護部間のタスクシフトです。PICUは、一般病棟と比べ投与する薬の種類が多く、多いときには約20種類もの持続点滴を作ります。1日がかりで薬剤を調整し、多数の処置も行う中で、ベッドサイドケアといった「看護師としてのケア」がまったくできていない現状に大きな課題を感じていたのです。
そこで、まずは患者3名分、かつ午前中のみの持続点滴作成業務を薬剤科へタスクシフトする取り組みを開始しました。そこから数年かけて徐々に患者数や対応時間を拡大し、2017年には、日曜日以外の全患者の持続点滴作成業務のタスクシフトが完了。その結果、平日で約1.5人分の看護師の業務削減に成功したのです。

新井

当時は、全国的にPICUの設立が進んでおり、当センターの先生方が続々と各地のPICUに配属されていきました。ただでさえ多忙な中で医師の数は減っていき、早朝から夜間まで懸命に働く先生方を見て、「私たち看護師も何か手伝えないか」と感じていたのです。医師の業務量の多さは、看護師が医師の処置や指示を待つ時間も延ばしており、双方のため、何より患者さんのためにも「薬剤科へのタスクシフトで空いた時間に、医師のタスクシフトを実践しよう」という話が持ち上がりました。

 

患者の安全性と利益、スタッフの業務効率化を軸に検討

新井

今回の取り組みが動き出すきっかけとなったのは、私が2019年に特定行為研修を受講したことです。研修修了後の2020年3月には、指導医と共に手順書の見直しを行い、特定行為実践のために準備を進めていました。その中で、先生方と話し合いを重ねるうちに、現段階で取り組むべきポイントが見えてきたのです。そもそも特定行為の研修修了者が私一人しかおらず、実際のタスクシフトには至らないということ。また、医師が最も手をかりたいのは診療の補助業務であること。さらにいえば、小児の特定行為は成人と比べてレベルが高く難しいため、診療補助業務ができるようにならないと、特定行為を進めるのは難しいこと。だからこそ、他のスタッフには私が研修で得た知識や技術を伝えつつ、診療の補助業務に取り組んでもらうことが、安全・安心に進められる方法なのでは……と。こうした点を踏まえ、まずは診療の補助業務のタスクシフトを実施し、並行して特定行為の実践とスタッフの指導に取り組むことになりました。2020年6月にはプロジェクトチームを立ち上げ、2つの取り組みを本格的に実施するための準備を重ねていったのです。

猪瀬

プロジェクトチームは、新井さんと私、主任や現場のスタッフを含めて7~8名で構成しました。新井さんとは、医師の働き方改革という点でも自分たち看護師にできることはないかとよく相談をしていたので、「やらない選択肢はない」という気持ちで参加しました。

新井

診療の補助業務内容の選定については、特に3つの基準を重視しました。1つ目は患者さんの安全性の担保、2つ目はより質の高いケアを提供できる、つまり患者さんの利益につながること、3つ目は医師と看護師の業務効率化が実現できることです。これらを踏まえ、現在実践可能な業務として ①動脈ラインポートからの採血 ②中心静脈/動脈ライン圧ライン交換 ③気管内チューブ固定テープ交換のタスクシフトが決定。7月には、②中心静脈/動脈ライン圧ライン交換 ③気管内チューブ固定テープ交換の実践がスタートしました。
特定行為は、先んじて6月から「気管チューブの位置調整」を実践し、7月には呼吸器関連4行為を医師指導のもと行いました。

後編では、実際の指導方法や工夫したポイント、また、医師と看護師双方の業務時間の削減など、取り組みによる成果についておうかがいします。

東京都立小児総合医療センター

[住 所]
〒183-8561東京都府中市武蔵台2-8-29
JR中央線・武蔵野線西国分寺駅から徒歩15分。
[規 模]
敷地面積180,257㎡(多摩メディカルキャンパス内)
建物面積9,016㎡
[開 設] 2010年3月
[病床数] 561床(一般347床 結核12床 精神202)

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