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2026/3

【プロの視点 #04 大島敏子さん】「患者の代弁者」である看護師が適正に評価される仕組みをつくる

【プロの視点 #04 大島敏子さん】「患者の代弁者」である看護師が適正に評価される仕組みをつくる

患者さんに寄り添い、専門性を発揮しながら支える看護の仕事。その道を極めたプロフェッショナルたちが考える「看護のプロの姿」とは? 今回は、神戸大学医学部附属病院をはじめ、複数の病院で看護部長を務めてきた大島敏子さんさんにインタビュー。看護の本質を追求し続けてきた大島さんの挑戦ついてお話いただきました。

看護の本質は患者の代弁者になること

私は6人兄弟の末っ子として生まれました。キリスト教系の高校で奉仕の心を学んだ影響もあり、看護師を目指すように。看護学校の恩師から教わったのは「学校での学びは入口にすぎない。看護師は生涯学び続けなければできない仕事」だということ。この言葉が、その後の看護師人生の指針になりました。

看護師として働き始め、心に芽生えたのは「看護とは何か」という問いでした。形の見えない看護を、どのように形づくっていくべきか。そのことを常に考えるようになったのです。私がたどりついた看護の本質は、「患者の代弁者になること」。患者さんが感じていることを理解し、望みを実現する。そのためにも、看護師はベッドサイドで患者さんにしっかり寄り添う必要があります。ですが、本来の仕事に集中できない局面も多くありました。そこで、師長になってからは院内改革にも力を入れることに。当時、外科系病棟では抗生物質の包装を開封する作業がありました。3人の看護師が毎日30分かけており、貴重な時間が奪われていたのです。用度課にかけ合ったもののどうにもならず、医師に「この薬はもう使いたくありません」と直談判。すると製薬会社のMRが対応してくれ、包装から取り出された状態で納品されるようになりました。看護師のベッドサイドケアの時間を増やすことができたのです。

また、看護とは「プロの患者」を育てることでもあると考えています。プロの患者とは、自分の病気を理解し、どうすれば回復し、どんなときに悪化するのかをわかったうえで行動できる人のこと。そこで例えば、外食に偏りがちな糖尿病患者さんには、血糖値が急上昇しないよう、「焼肉を食べるときはレタスでお肉を巻いてみてください」とアドバイスする等、一人ひとりの生活に適した支援を行いました。患者さん自身が体調を整える方法を身につけ、病院にかからずに暮らせるようになる。それこそが、究極の看護だと思います。

看護の視点で健全な病院経営に貢献

師長時代、職員課長から「看護の仕事は100円稼ぐのに125円かかる」と言われたことがあります。その理由を検討したところ、診療報酬制度等の看護を取り巻く構造に、根本的な問題があると感じたのです。そこで夜間大学の経済学部に入学し、医療や看護現場を経済の視点から学ぶことに。この経験から、看護師は、人員配置基準が定められ、個人の努力だけでは給与が上がらない仕組みになっていることを改めて実感しました。「看護師は社会保障制度の中で働いている」という意識が芽生え、看護職が適正に評価される制度設計について考えるようになりました。

その一環として、横須賀北部共済病院時代には、病院の経営改善にも乗り出しました。「この地域で生き切るための病棟」をコンセプトに、看護師主導で高齢者病棟を立ち上げたのです。医師の回診は1日2時間、「主治医」ではなく、患者さんをひとりの看護師が継続して受け持つ「主治看護師」制度を導入したところ、病床稼働率が103%まで上昇しました。その結果、25年間赤字続きだった病院が、翌年から3年間黒字化したのです。看護職者は病院経営に貢献できると実感した取り組みでした。

看護部長兼副院長として入職した神戸大学医学部附属病院では、病床稼働率を上げるための改革を行いました。同院にはICUとHCUがあり、病院全体の稼働率がHCUを取得する基準に達していませんでした。そこで、HCUを切り替え、在院日数が1日のICUを拡大するよう病院長に提案し、大幅な増収を実現しました。平均在院日数や病床稼働率の計算方法を師長たちに共有し、病棟ごとに目標を設定してもらい、年間計画でつなげた成果でした。結果的にHCUの稼働率を80%台まで引き上げたのです。
看護師は、院内のあらゆる病棟に配置されています。つまり、看護部は院内情報の宝庫です。看護師がとらえた患者さんの声をを経営に役立てれば、きっと地域から信頼される病院になるはずです。看護部長を副院長に登用し、看護部の意見を反映した病院づくりを行うことは、健全な病院経営にもつながるのではないでしょうか。

YouTubeの活動を通して看護師の「自律」支援と育成を

2024年には、「看護師をもっと応援したい」という思いから、YouTuberデビューを果たしました。私のチャンネル「としこの部屋」では、ユニークな取り組みをしている看護師を毎月紹介しています。手術中の深部静脈血栓症を防ぐための包帯巻き具を手作りして特許を取った看護師長、野球好きの若者を看護補助者として育てながら看護学校に進学させている看護部長等。これからも看護の現場でキラリと光る宝物を探していきますので、皆さんもユニークな取り組みや明るい職場の情報をぜひお寄せください。

▲YouTube番組 「としこの部屋」

また、これまでのキャリアを生かし、看護師自らがしたいことを選択して実現する「フリージア・ナースの会」を立ち上げました。看護師長や看護部長等、教育者として経験を重ねてきた55歳以上の看護職が、アグレッシブに学び合いながら楽しく活動しています。
キャリアを重ねるにつれて意識するようになったのは「自律」です。自律とは、自らの価値観に基づいて意思決定し、行動すること。そして自分がなぜこの仕事を選び、何のために働くのかを語れることです。これからも皆さんと学び合いながら、後進の看護師に資する仕組みをつくっていきたいと考えています。

◎編集後記◎
YouTube配信のときと変わらず、明るく朗らかな笑顔でお話しくださった大島さん。笑いと驚きにあふれた取材は、時間があっという間に感じられるほど濃密なひとときでした。看護師長・部長時代のエピソードの数々から強く伝わってきたのは、周囲を丁寧に見つめる観察眼の鋭さと、気づきをすぐに行動へと移す力。変化を生み出す人は、この「見る力」と「動く力」が違うのだと実感させられました。そして何より印象的だったのは、「看護」という仕事への揺るぎない誇り。いくつになっても自分の仕事に誇りを持ち続けることの尊さに、改めて気づかされる時間でもありました。大島さん、ありがとうございました!

文:野本 由起/撮影:戸井田 夏子

YouTube「としこの部屋」公式チャンネルはこちら
https://www.youtube.com/@としこの部屋

大島敏子さん
フリージア・ナースの会 会長
NPO法人 看護職キャリアサポート
横浜市立高等看護学院、関東学院大学経済学部卒業。横須賀北部共済病院で、看護部長として10年間にわたって看護管理に従事。
2005年から6年間、神戸大学医学部附属病院看護部長兼副病院長を務める。
2014年、NPO法人看護職キャリアサポート顧問となり、翌年、55歳以上の看護職の社会貢献を目指すフリージア・ナースの会会長に就任。
2015年~2018年広島市立病院機構看護総合アドバイザー、2019年~2022年日本看護連盟会長を歴任。
現在は日本看護協会の認定看護管理者研修講師、講演会やアドバイザー等、看護職の社会的評価を高めるために日本全国を駆け回る日々。
2024年にYouTubeチャンネル「としこの部屋」を開設。

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