病気の子どもたちの「遊びたい」気持ちを尊重し、守り支えるホスピタル・プレイ・スペシャリスト(以下、HPS)。今回ご紹介するのは、看護師として経験を積んだあとHPSの資格を取得し、日本では数少ないHPS専業で活動している色川真幸さん。まだまだ認知度が低いHPSですが、資格取得の経緯や魅力、小児医療への想いをお聞きしました。
資格のチカラ
2025/12
ホスピタル・プレイ・スペシャリストは、小児医療チームの一員として、闘病中の子どもたちを支える専門職です。「遊び」を通して治療の流れを伝え、子どもたちが心の準備ができるよう手助けをしたり、治療中に気持ちを落ち着かせるよう働きかけたりする役割を担っています。日常の遊びや治療内容の理解を助けるプレパレーション、処置中の精神的ケアを行うディストラクションを主に行い、医師や看護師と協力して小児患者への医療をサポートします。

資格取得年月:2020年5月
看護師/ホスピタル・プレイ・スペシャリスト
病気の子どもたちの「遊びたい」気持ちを尊重し、守り支えるホスピタル・プレイ・スペシャリスト(以下、HPS)。今回ご紹介するのは、看護師として経験を積んだあとHPSの資格を取得し、日本では数少ないHPS専業で活動している色川真幸さん。まだまだ認知度が低いHPSですが、資格取得の経緯や魅力、小児医療への想いをお聞きしました。
INDEX
HPSを取得しようと思った理由
HPS資格取得の流れ
印象に残っている学び
まずは、色川さんのご経歴を教えてください。
看護大学を卒業したあと、国立国際医療研究センター病院の小児科病棟に配属されました。看護師として4年間勤務したのち、小児専門病院に異動。その後、看護師を退職し、HPS養成講座を受けて資格を取得しました。HPSとして就職先を探していたところ、国立国際医療研究センター病院で一緒に勤務していたチャイルド・ライフ・スペシャリスト(以下、CLS)※1の方が退職することに。その後任として2021年の10月からHPSとして非常勤で再び当院に勤めることになり、現在に至ります。
もともと小児科を志望されていたのでしょうか。
そうですね。小学校1年生の時に少し長めに入院したことがあったのですが、看護師さんたちにとてもお世話になったことが印象に残っていて。「自分も看護師になって子どもたちを支えたい」と思うようになったんです。入職早々から希望の科に配属されることは決して多くないと思いますので、運がよかったと感じています。
HPSの資格を取得しようと思われた理由を教えてください。
当院で看護師として働いている時に、子どもたちの「楽しい」や「遊びたい」という気持ちが困難を乗り越える糧になっていると感じる機会がたくさんありました。例えば、抗がん剤の治療をしていた5歳の男の子が親御さんから仮面ライダーベルトをもらった時のことです。朝は薬の副作用でとても辛そうだったのに、ベルトをもらった途端にそれを巻いて一日中プレイルームや病棟内を走り回っていたんです。ベルトで遊びたい気持ちが苦しさを上回ったのでしょうね。こうした様子を目の当たりにし、「楽しい」で子どもたちの「乗り越える力」を引き出すような看護がしたいと考えるようになりました。また、遊びの場を提供して一緒に楽しみ、「遊び」で子どもたちに寄り添うCLSや保育士さんの活動に憧れも感じていたんです。そんな中で、お世話になった小児看護専門看護師の先輩がHPSを教えてくれたことを機に、資格取得を決意しました。
※1 チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)…医療環境において子どもやその家族に対して心理社会的支援を提供する専門職。Association of Child Life Professionals (ACLP)が、チャイルド・ライフ・スペシャリストの認定資格を与えており、日本の国家資格ではありません。現在、日本には、チャイルド・ライフ専門課程を有する教育機関およびインターンシップ実施施設がなく、CLS認定試験の受験資格を得るためには、北米の大学・大学院で学ぶ必要があります。

つづいて、HPSの資格を取得するまでの流れを教えてください。
HPSの資格取得は、小児看護の他、保育や小児福祉、特別支援教育など、何かしら子どもに関する領域での実践経験があることが前提条件となります。書類・作文・面接の選考を通過後、静岡県立大学短期大学部のみで実施されるHPS養成講座を受講することができます。約半年間の受講と実習を経て資格取得に至りますが、私の場合はコロナ禍で通常よりも講座の期間が延びてしまい、資格取得するまで約1年かかりました。
面接があるんですね!
そうなんです。面接では志望動機の他に、HPSの資格を取得後に何をしていきたいか、という具体的な内容の質問を受けました。面接対策として、静岡県立大学短期大学部の教授であり、HPS養成事業責任者で日本ホスピタル・プレイ協会理事長の松平千佳先生の本を読んだり、HPSの活動報告会に参加したりしました。
色川さんは看護師を退職されて資格取得に臨まれていますが、HPSは仕事と並行しながらの取得は難しいのでしょうか。
可能だと思います。ただ、講座は静岡での実施であることと、実習も平日に決められたスケジュールで実施されるのでその点は注意が必要ですね。私も当時は千葉県に住んでいたので、1、2週間ほど静岡のホテルに滞在していた時期もありました。私が受講したのは集中講座だったので、一定期間静岡に滞在する必要がありましたが、現在は土日中心で1年間開講する講座もあり、一部の講義はオンラインで実施されます。職場との相談は必要ですが、仕事と並行しての取得も以前よりはしやすいかもしれません。
▲資格取得の学びの中で活用した本や事例集
資格取得においてどんなところが大変でしたか?
馴染みのない静岡での生活は大変でしたね。ホテル生活だったことはもちろん、授業で出題される課題に必要なぬいぐるみなどの物品も現地で調達しなければならず、お店探しもひと苦労。ですが、一緒に講座を受けていた同期の方たちとはおもちゃ屋を巡ったり、おいしいご飯屋さんをおすすめし合ったりと、見知らぬ土地だからこそ結束できたと思います。保育士や心理士、ソーシャルワーカーなどさまざまな職種の人が集まっていたので、「コストゼロでおもちゃをつくるには」などアイデアを出し合う授業では、皆さん自分にはない視点をもっていてとても勉強になりました。HPSになった今でも情報交換や相談など、定期的に連絡を取り合っています。
受講した講義の中で印象に残っていることを教えてください。
講義は、座学で知識を詰め込むだけではなく、ホスピタル・プレイのマインドを教わった上で子どもたちにどう対応するのがよいかを考えるような実践的な内容が多かったです。自分の看護師経験を振り返る機会にもなりましたし、それまで漠然と抱いていた「子どもに優しい医療」がホスピタル・プレイそのものであるという確固としたイメージになりました。また、指導者の方が子どもと遊んでいるところを見せていただいたことがあって。講義で習った、「子どもは心を開いた人に対して自分ががんばったことをアピールする」という場面を実際に目にしました。子どもの心を開き、がんばりをキャッチアップするのもHPSの仕事の一つだと感じましたね。
▲課題のために静岡のおもちゃ屋さんで購入したぬいぐるみ。腕の部分を加工し、針を刺して赤い色水を引くこと(採血の再現)ができるようになっている
次のページ:日本でも数少ない「HPS専業」としての働き方とは?

病棟のイベントや子どもたちの治療スケジュールによって、一日の流れが大きく異なるという色川さん。「8時半に勤務をスタートし、9時に看護師の申し送りに参加して処置の時間やプレイルームの利用状況などの確認をします。お昼には医師の症例カンファレンスに参加。それ以外の時間は、子どもたちの治療スケジュールに合わせて遊んだり、ディストラクションを行ったり、プレイルームの清掃をしたりと臨機応変に勤務しています!」
SNSでシェアする