病気の子どもたちの「遊びたい」気持ちを尊重し、守り支えるホスピタル・プレイ・スペシャリスト(以下、HPS)。今回ご紹介するのは、看護師として経験を積んだあとHPSの資格を取得し、日本では数少ないHPS専業で活動している色川真幸さん。まだまだ認知度が低いHPSですが、資格取得の経緯や魅力、小児医療への想いをお聞きしました。
資格のチカラ
2025/12
ホスピタル・プレイ・スペシャリストは、小児医療チームの一員として、闘病中の子どもたちを支える専門職です。「遊び」を通して治療の流れを伝え、子どもたちが心の準備ができるよう手助けをしたり、治療中に気持ちを落ち着かせるよう働きかけたりする役割を担っています。日常の遊びや治療内容の理解を助けるプレパレーション、処置中の精神的ケアを行うディストラクションを主に行い、医師や看護師と協力して小児患者への医療をサポートします。

資格取得年月:2020年5月
看護師/ホスピタル・プレイ・スペシャリスト
病気の子どもたちの「遊びたい」気持ちを尊重し、守り支えるホスピタル・プレイ・スペシャリスト(以下、HPS)。今回ご紹介するのは、看護師として経験を積んだあとHPSの資格を取得し、日本では数少ないHPS専業で活動している色川真幸さん。まだまだ認知度が低いHPSですが、資格取得の経緯や魅力、小児医療への想いをお聞きしました。
INDEX
HPS専業を選んだ理由
HPSの仕事内容
HPSのやりがい
看護師がHPS資格を取得する強み
色川さんの今後の目標
HPS資格の取得を考えている方へ
現在、色川さんは看護師ではなくHPSとして勤務されていますよね。HPS専業を選ばれた理由を教えてください。
「遊び」で子どもたちに寄り添う時間をしっかりと確保するためです。看護師をしていた頃、看護業務と子どもたちと遊ぶことの両立が難しいことに悩んでいたんですよね。あまり器用なタイプではなかったので、子どもたちと遊んでいたら看護業務が溜まってしまい残業になることも。うまく両立している先輩もいましたが、私自身は看護師をしながらのHPSの活動は向いていないと感じていました。とはいえ、HPS専業の人は日本に数名しかおらず、ほとんどの方が看護師や保育士の仕事との兼業です。就職先を見つけるのに苦労しましたが、当院に再びご縁をいただくことができました。
HPSの仕事内容は主にどのようなものでしょうか。
大きく分けると4つあります。1つ目が入院している子どもたちと日常的に遊ぶこと。2つ目が処置や検査前に心の準備をするためのプレパレーションの実施。3つ目が処置中の恐怖を乗り越えるのをお手伝いするディストラクションの実施。4つ目が次にまた同じ治療を行う時に恐怖感や抵抗感を感じないよう処置後に遊びながら治療の振り返りをすることです。
子どもたちと関わるうえで、工夫されていることはありますか。
プレパレーションでは、日常の遊びを通じて子どもたちの好きなものや不安に思うことなどの情報収集を心がけています。これは、一人ひとりの個性に合わせた対応をするためです。例えば、カードゲームが好きな子だったら、オリジナルのカードゲームを作って理解を促します。「この病気(敵)を倒すためにはこの治療(攻撃)をどれくらいしたらいいと思う?」と問いかけるなど、その子に合った方法で説明することで子どもたちも楽しみながら治療に向き合うことができます。
HPSだからこその悩みはありますか。
子どもたちと、看護師さんや先生方の間での立ち回りに悩むことがあります。HPSである以上、子どもたちの「遊びたい」という気持ちを尊重したいのですが、医療チームが優先的に対応しなければいけないことの重要性も理解しています。看護師さんたちに「あと30秒で終わるので待ってください」とお願いすることもあれば、子どもたちに「一回看護師さんのところに行こうか」と説得することも。優先度や重要性を加味しながら、上手く間を取り持つよう努めています。
▲ディストラクションではYouTubeも活用している。子どもたちの興味関心の高い動画を流し、治療への恐怖心などをやわらげている
色川さんがHPSとしてやりがいを感じるのはどのような時でしょうか。
HPSになってからは、子どもたちとの遊びを優先できるようになり、子どもたちの成長に看護師時代よりも気づけるようになりました。私たちが想像しているよりも、子どもたちの成長は早く、乗り越える力は大きいものです。大きくなる過程や子どもたちの気持ちをサポートできることにやりがいも感じます。あとは「次の入院はこの頃だからまた来るね!」と子どもの口から聞けた時も、入院に対して前向きな印象をもっていることがわかり喜びを感じます。
看護師がHPSの資格を取得する強みとはどのような点にあると思われますか。
看護師の経験があると処置や検査の内容を理解できるので、判断がしやすいのが一番の強みだと思います。例えば、治療の邪魔にならない場所を選んでディストラクションをしたり、点滴なども時間変更の交渉ができるものかを見極めることができます。また、私のように看護師として働いていた病棟でHPSとして働く場合、その病棟の雰囲気ややり方、大事にしていることを理解しているので、よりHPSの活動がしやすいと思います。
▲病棟保育士と一緒に色川さんが管理・運営しているプレイルーム
色川さんの今後の展望を教えてください。
私が分身できるといいなと思っていて(笑)。先生や看護師さんなど、私以外の方でもホスピタル・プレイを実施できるような仕組みづくりをしたいと思っています。その一環として、私が不在時に先生たちがディストラクション用のグッズを使いながら処置できるよう働きかけています。
また、プレパレーションの役割を補うものとして、当院オリジナルの絵本をつくりました。絵本には当院の病棟内の様子がそのまま描かれていて、入院から退院の流れがわかるようになっています。親御さんと一緒に読んでいただければ、私が説明せずとも入院後の過ごし方などのイメージができます。子どもによっては入院に対して不安や恐怖を感じる子もいると思いますが、入院しても家に帰れるというメッセージが伝われば安心できると思います。このようにHPSの精神や手法を広めて、病棟全体で「子どもに優しい医療」を底上げしていきたいと思っています。
最後に、HPSの取得を考えている方に向けてメッセージをお願いします。
まずはHPSについて深く知っていただきたいです。参考図書を読んだり、協会が行っているHPSの活動報告会に参加したりしてHPSの取り組みや大事にしていることを理解した上で、HPSとして働く自分の姿を具体的に思い描いてみてください。HPSに興味があるということは、子どもにとって遊びが大事だと思えている証拠ですし、すでに適性があると思います。HPSはまだまだ発展途上の資格なので、看護師と同様にこれから小児病棟だけでなくさまざまな場所で活躍の可能性があるはず。病と闘う子どもたちを支え、応援する役割の一つとしてぜひ考えていただけたらうれしいです。

撮影:戸井田 夏子

病棟のイベントや子どもたちの治療スケジュールによって、一日の流れが大きく異なるという色川さん。「8時半に勤務をスタートし、9時に看護師の申し送りに参加して処置の時間やプレイルームの利用状況などの確認をします。お昼には医師の症例カンファレンスに参加。それ以外の時間は、子どもたちの治療スケジュールに合わせて遊んだり、ディストラクションを行ったり、プレイルームの清掃をしたりと臨機応変に勤務しています!」
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