学生を巻き込んだ地域交流を起点に、ゼロだった実習受け入れも開始
川野
地域交流の取り組みでもう一つ注力しているのが、医学生たちに参加してもらうことです。徳島大学医学部の地域医療研究会と連携し、40~50人の学生たちにまつりのスタッフとして協力していただいた他、「地域サロン」と題した地域の高齢者の方々との意見交換会にも参加していただきました。
このサロンではグループに分かれて、医療のことだけでなく、海陽町の交通や教育、観光など地域に関するさまざまなテーマについて話し合い、最後に話し合ったことを発表。活発な意見が交わされ、学生の方々にとっても地域医療について理解を深めていただく絶好の機会になりました。
岡山
学生さんのアイデア力は、目から鱗でした。ある町民の方が「病院は敷居が高いのよね」と漏らすと、「じゃ、病院でカフェをつくったらどうですか」とパッと返すんです。それで学生さんたちが中心となって、試しにテントを張ってカフェをつくってみたら好評で。次回は栄養学部の学生さんも加わり、住民の方とおしゃべりできるコーナーもつくる予定です。こうしたアイデアがスピード感をもって実現していくことに職員一同、刺激をもらっています。当院の看護師は、外来の患者さんのもとにもさっと自ら駆け寄って声かけをしています。これらの取り組みを通してますます「外に出ていく」ことの意識が職員の間で高まってきていると思います。
川野
さらにこのご縁がきっかけとなり、これまでゼロだった医学生の実地研修を受け入れるようになり、他地域の大学からも希望をいただくようになりました。近年は専門医療を目指す学生が多いですが、研修を通して総合診療に興味をもつ方も増えているので、将来、地域医療に携わる人材が出てくることを期待しています。
岡山
徳島市内に住んでいる学生でも海陽町に来たことがないという人が多いので、まずはこの町での地域医療を体験してもらい、魅力を感じてもらえたらと思います。看護学生の実習生についても、これから受け入れ体制を整えていく予定です。
「2年間の取り組みを今後も続けていけるよう、みんなでアイデアを出し合っていきたい」と岡山さん(左)
横のつながりを生かし、地域包括ケアの向上を目指す
和田
当院では今、通院が難しい患者さんへの訪問リハビリにも力を入れています。ご家族が町内にいない高齢の患者さんは介護施設に入所する傾向が高いですが、地域包括ケアの充実のためには、在宅を中心とした医療福祉体制の整備がいっそう求められます。患者さんの選択肢を増やせるよう、基幹病院として一体型の医療福祉の提供を目指していきたいです。
川野
少子高齢化や医療人材の不足など、当院と同じような課題を抱えている地方の病院は全国にたくさんあります。これらの課題を乗り越えるためには、病院単体ではなく、病院や施設同士の意見交換、困った時には応援に行くという横のつながりがますます重要になるはずです。また、将来の医療を担う学生たちにどんどん参加してもらい、一緒に考える機会をつくることも大切です。今後もまつりなどの交流機会を発展させ、地域医療の充実に取り組んでいきたいと思います。
将来を見据えて学生との取り組みに意欲を見せる川野さん
撮影:遠藤麻美/写真一部:海陽町立海南病院ご提供