インタビューアーカイブ

2017/10

自宅にいる患者さんのデータを遠隔モニタリング。心臓疾患における遠隔医療の今

2017年現在、遠隔医療はへき地に住む方や通院の難しい高齢者の方のためだけのものではありません。自宅にいながら異常があった場合は医師に即座に連絡がいく、遠隔モニタリングシステムの活用が進んでいます。ペースメーカーなどの心臓に関連する遠隔診療に詳しい、浅草ハートクリニック 院長の真中哲之氏にお話をうかがいました。

真中 哲之

浅草ハートクリニック 院長

患者データを24時間把握できる遠隔モニタリングシステム

浅草ハートクリニックを開業する以前のことです。東京女子医科大学病院に勤めていたころ、私は不整脈、特にペースメーカーを専門に治療を行っていました。当時は1,500人ほどの患者さんのデータを遠隔で診ていました。現在、当クリニックでは56人の方を遠隔医療で診ています。地元浅草の患者さんはもちろん、都内や周辺の県の患者さんにも当院の遠隔医療をご利用いただいています。

患者さんの胸に機器を埋め込み、心臓の停止を確認すると電気信号を送るのがペースメーカー、危険な脈が発生すると自動的に心臓へ電気ショックをかけて正しい脈に戻すのが植え込み型除細動器の大まかな仕組みです。
ペースメーカーを遠隔で管理する技術は、2008年ころから日本でも取り入れられています。それ以前は、このペースメーカーの機能の発動状況を調べるには、患者さんに病院に来ていただき、体内に埋め込まれた機器に機械をあてて情報を読み出さなくてはなりませんでした。

現在は、患者さんのベッドサイドに設置した機械を中継器として、医師に情報を転送することができます。患者さんに異常が発生した場合は、私の携帯電話あてに患者さんの機械のデータや心電図などがeメールで自動送付されます。普段外来で患者さんにいらしていただく時に読み取るような情報は、ほとんど遠隔でも得ることができ、何かトラブルが発生した場合はすぐに対処できるというわけです。

循環器の異常は患者さんご本人に自覚がない場合も多いため、心電図などのデータは極めて重要な手がかりです。私は常にデータを受け取る携帯電話を携帯し、夜中でも緊急対応しています。もちろん、眠っていて対応できないこともありますが、朝起きてすぐに対応することで、最悪の状態を防ぐ確率が高くなるでしょう。

 

機器の操作性とコスト面が遠隔医療の大きな課題

ペースメーカーを例に出しましたが、現在は心電図だけではなく、さまざまなデータを遠隔で確認することができます。患者さんの状態や機器にもよりますが、体重や血圧、血中の酸素濃度、体温、呼吸のデータなど……すべて電波で情報共有できる時代になっています。これまで病院でしか行えなかった 12誘導心電図を自宅で記録し送信できる機器「スマートハート」をはじめ、さまざまな機器を患者さんに貸し出し、データの受信を行っています。

こうした遠隔医療の機器はとても便利なものですが、ひとり暮らしの高齢者にとって使い方が難しいという課題点があります。埋め込み型のペースメーカーはともかく、前述の「スマートハート」は自身に装着したうえでスマホアプリと連動させる必要があるため、だれでも簡単に操作できるとは言えません。機械に詳しくない人でも簡単に情報を送ることができるよう、開発を進めていきたいところです。

また、コスト面も大きな課題です。
遠隔医療に関わるコストが高額なことがまず一つ。来年の診療報酬の改定で改善が期待されていますが、現在の診療報酬は依然として十分なものとは言えません。ボランティアと割りきるならまだしも、病院のコストとしてプラスにならないと、広く一般的に使用できるようにはならないのです。患者さんご自身に機器を購入していただき活用するケースであれば、コストに見合った対応が可能なのですが、初期投資が大きく患者さんの金銭的負担が大きいため、もう一段階発展が必要かと思います。

患者さん一人で使うのではなく、複数で共有して使う場面も想定できます。
例えば、老人保健施設などの高齢者がたくさんいる場所に設置したり、飛行機や新幹線などに設置して共有して使うなど、恒常的な使い方以外にも使える場はたくさんあるでしょう。

 

医師のほか、看護師や技師も遠隔で患者データを診る時代へ

遠隔でのモニタリングは、一度に1,000人もの患者さんを診ることが可能な一方、医師に大きな負担がかかります。現在アメリカでは、看護師さんや技師さんなど、コメディカルスタッフもデータを確認し、ケアを行っています。今後日本も同じように看護師さんが遠隔医療の面でも活躍できるように変わっていくでしょう。

 

緊急対応が必要な患者に役立つ遠隔管理システムをめざす

ペースメーカーを利用した遠隔モニタリングシステムは、ある程度完成形に近づいていると思います。ここからさらに他のバイタルサインを得たり、電子カルテと連動させて記録とデータの閲覧ができるようになればよいと思います。

私にとって次の課題は、在宅患者の約4分の1がかかっているといわれる心不全の方の管理です。重症の心不全患者では月に数回の通院が必要な方も少なくありません。具合が悪いのに毎週のように病院に通わなければならず、患者さんに大きな負担がかかっています。今後10年で爆発的な心不全患者の増加が予想される中、病院のベッド数不足は大きな問題になってきます。在宅で心不全の方や若い世代で心不全を患っている方をどう診ていくかは、私たち心臓疾患の医師にとって大きな課題なのです。

心不全や不整脈のデータをリアルタイムでモニタリングできるようになるなど、遠隔診療の技術がさらに発展することで、医療が救える命は大きく増えるでしょう。


後編では、生活習慣病などの比較的軽症な方を対象としたオンライン診療についてお話しいただきます。

真中 哲之

浅草ハートクリニック 院長

1995年
筑波大学医学専門学群卒業
1995年
東京女子医科大学循環器内科入局
1999年
榊原記念病院 循環器内科
2002年
ハーバード大学ブリガムアンドウイメンズ病院客員研究員
2005年
東京女子医科大学大学院卒業、医学博士号取得
2007年
東京女子医科大学循環器内科 心臓電気生理検査室長(不整脈治療カテーテル検査室長)
2015年
浅草ハートクリニック開院

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