今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第175回 2017/11

乳がん検診の意味を知り、適切に受診することの大切さを伝えて欲しい

乳がんは日本人女性の約11人に1人がなる、女性にもっとも多いがんです。30代後半から増加し始め、40代後半から50代で患者数がピークとなります。また、症状がほとんどなく、知らずしらずのうちにがんが成長しているケースも少なくありません。その反面、早期に適切な治療を受ければ約90%が治癒します。早期発見・治療に役立つ乳がん検診について、ピンクリボンブレストケアクリニック表参道 院長の島田菜穂子氏にお話をうかがいました。

ピンクリボンブレストケアクリニック表参道 院長
島田菜穂子 氏

ピンクリボンブレストケアクリニック表参道

アメリカでの留学経験がきっかけとなった日本でのピンクリボン運動

ピンクリボン運動の目的は「乳がん検診」を受けて「早期発見・治療」につなげ、「乳がんの死亡率を減らす」こと。さらには乳がん治療を快適に受けるためのサポート充実、治療後のスムーズな社会復帰なども重要で、運動のもう一つの目的は、乳がんにやさしい社会をつくることです。
 
ピンクリボン運動の発祥はアメリカの田舎町でした。小さなお子さんのいるお母さんが若くして乳がんで亡くなり、残された家族が同じ悲劇を繰り返してほしくないと、乳がんとはどんな病気なのか、どんな検査や治療が受けるのか、早期に発見できれば治る確率が高いことなどを説明したパンフレットやピンクリボンを自作して配った啓発活動が始まりと言われています。
乳がん患者が増えて身近な病気となったこと、当時のアメリカ大統領夫人や有名なハリウッド女優が「乳がんになったけれど早期発見・治療によって治癒した。検査はとても大事」と声をあげ始めたこともあり、1990年代から欧米で急速に活動が広がったのです。
 
私が1998年に当時、女性の8人に1人が乳がんという乳がん先進国だったアメリカに研修留学した頃は、ちょうどがん検診の重要性が認知され、乳がんになる方は増え続けている一方、乳がんで亡くなる方が減少するという結果が発表された頃でした。当時は医学的な水準という点では、検査の方法や治療方法は、日本は欧米各国に劣ることのない高いレベルを誇っていましたが、一方その当時の日本の乳がんの状況は発症する方も亡くなる方も増える一方の状態だったのです。同じ医療水準であったのにも関わらず、このような違いがあったのは、日本人女性の乳がん発見時の状態が欧米に比べやや進んだ段階であることが大きな原因でした。日本人女性の多くが何らかの症状が出てからやっと病院に受診して乳がんの診断を受けていたのに対して、一方アメリカでは、自分ではまったく自覚症状もない状態であっても定期的に検診を受けていて、非常に早期の段階での発見が多かったのです。早期に発見できれば当然乳がんで命を落とすことも少なくなるのです。
アメリカの女性たちの、乳がんについての意識の高さや知識の正確さにとても驚いたことをよく覚えています。

日本は乳がんの正しい情報を知らない患者さんが多かった

アメリカでの啓発活動を知ると同時に、当時の日本は、健康意識の高い女性でも「自分はがんにならない」「がんになったらどうせ死ぬのだからやりたいことやりつくしてから受診した」など、正しい知識がないために放置して、手の施しようのない状態になっている患者さんが多いことを私は悔しく思いました。
 
そこで2000年、日本に帰国するとすぐに、私は乳がん啓発の必要性への思いを専門医誌へ投稿し、集まった有志と「乳房健康研究会」というNPO法人を立ち上げ、日本でピンクリボン運動を広めることにしたのです。
オリジナルのピンクリボンバッジとパンフレットを制作し、講演や出版、協力者を募るための活動など、できることから始めました。2003年にウォーキングとマラソンのイベントを企画したところ、約3000人が集まりました。これは現在も毎年続いていて、2017年も3/26に日比谷公園で「ピンクリボンウオーク(c)2017」が開催されました。来年の2018年4月15日には、オリンピックの準備に盛り上がるお台場に会場を移し開催を予定しています。

乳がん検診の認知度が広まる一方、いまだに低い受診率

2000年に活動をスタートしてから、2年に1回、一般の方々の意識や行動がどう変わってきたかの効果判定のための調査を行っています。当初はとても低かった乳がん検診の認知度はかなり高まり、乳がん検診の重要性や検診についての知識だけであれば95%以上が「知っている」と答えていただけるようになりました。
 
ところが、実際の乳がん検診の受診率を調査するとその数字は40〜50%と約半数まで下がり、認知度と実際の行動にいまだに、大きなギャップがあるのです。
アンケートで受診行動に至らない理由をうかがったところ、「自分はがんにならない」「症状がないから検査を受けなくていい」と思っていたり、「どこで受診すればいいのかわからない」「検査が痛そうだから嫌だ」「お金や時間がかかる」といった理由がいまだあることがわかりました。

動機づけのために始まった「ピンクリボンアドバイザー」

アンケートでは、さらに乳がん検診を行動に移せた方に、そのきっかけも聞いています。すると、「検診を受けたら痛くなかった」「検査の時間はそれほどかからない」「どこで検査できるか」といった、身近な人から聞いた具体的な経験や情報が背中を押し、もう一歩の行動へつながったことが分かりました。
これを踏まえ、乳がんについて正しい知識を持ちその知識に自信をもって、誰かの背中を押す一言を言ってくれる人が増えれば、検診の受診率が上がるのではないかと考えました。
 
そこで乳がんについて正しい知識を学び、試験に合格した人を「ピンクリボンアドバイザー」として認定する制度を2013年にスタートしました。認定試験を受けるためのテキストを読めば、乳がんについて必要最低限の知識を得ることができます。
認定試験には「初級」「中級」「上級」とあり、男性も女性も年齢制限もなく誰でも受けられます。認定試験は毎年12月に実施されていて、全国十数ヵ所で試験が受けられます。初級の受験料は3,240円で公式テキストは1,836円です。乳がんについての知識をもっと得たい場合には、「中級」を続けて受講すれば、より深い知識を得るだけでなくアドバイスやサポートを行うときの具体的な方法を身につけることができます。
アドバイザーになると最新の乳がん検診の情報がアップデートされているサイトにアクセスでき、いつでも最新情報を得ることができます。医療関係者の方にも多数受験いただいています。自分のため、誰かのためにぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
 
後編では乳がん検診の現状と今後の課題についてお話しいただきます。

ピンクリボンブレストケアクリニック表参道 院長
島田菜穂子氏

【略歴】
1988年 筑波大学医学専門学群同大学卒業
1988年 筑波大学付属病院放射線科レジデント医員(研修医)
筑波記念病院およびつくばメディカルセンター放射線科勤務
1991年 東京逓信病院 放射線科勤務
1992年 放射線科乳腺外来を開設
1998年 日本放射線科専門医会海外留学フェローシップに選考され、
米国ワシントン大学メディカルセンターブレストヘルスセンター留学
1999年 東京逓信病院 放射線科勤務
2000年 乳癌啓発団体 乳房健康研究会発足 同副理事長 ピンクリボン運動、イベント出版活動展開、調査研究を通じて乳がん検診の環境整備のためのロビーイングを開始。乳がん啓発団体として日本初のNPO認証を受ける。
2003年 日本発の啓発型スポーツイベント乳がん啓発ランニングウオーキングイベント
“ミニウオークアンドランフォー ブレストケア”を企画開催
2001年 東京逓信病院 放射線科医長
2005年 南青山ブレストピアクリニック副院長
2006年 丸の内・女性のための統合ヘルスクリニック/イーク丸の内・副院長
2006年 東京ミッドタウンメディカルセンター 東京ミッドタウンクリニック 乳腺科 シニアディレクター
2008年 ピンクリボンブレストケアクリニック表参道 開設
インタービューTOPへ
ページの先頭へ戻る