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2024/4

小林光恵さんの おやすみコラム #018「グリーフケアだった」

小林光恵さんの おやすみコラム #018「グリーフケアだった」

小雨降る午後、たまに利用する中古品ショップGのレジ前に、私は立っていました。
買おうとしているのは、数日前にGで買い取ってもらった亡き母の春物のワンピースとカーディガン。目下、実家の片づけ中で、捨てずに持ち帰った洋服の一部をGに持ち込んだのです。
その日私は、雨なのにウォーキングを思い立ち、何故か普段は通らないルートへ。通りがかったGの店前で、ショーウィンドウに飾られていた母の服が目に入りました。出先で母に思いがけずに遭遇したみたいで、ドキリとし、足が止まりました。

売り物なのだからそこにあるのは当然だし、どなたかに着ていただける可能性が高くなるわけでうれしい事態じゃないか、と思いながらも私の足は店内へ。そして店員さん――買い取ってもらったときと同じ若い男性店員――にあの服を買いたいと告げたのです。Gで買うのは初めてでした。

トルソーから母の服を外している彼の姿を眺めながら祈りました。どうか、私がその服を売った人物だと気づかないで。もし気づいたとしても、いつも通りに無口でぞんざいな態度で接してほしい、と。何かを問われたり、やさしくされたりしたら、その場でわっと泣きだしてしまいそうな気がしたから。それは恥ずかしいから。

はたして店員さんは、希望通りの接し方でした。ただ、母の服を畳むことだけは実に丁寧に大切そうに行ってくれて、それがうれしくて店を出てから目頭が熱くなりました。考えてみれば、商品を売るときはにはどんなときも丁寧に扱うのかもしれないけど。

著者/小林 光恵さん
元看護師。著述業。つくば市在住。
エンゼルメイク研究会代表、ケアリング美容研究会共同代表。

看護師、編集者を経て、1991年より本格的に執筆業を中心に活動。『おたんこナース』『ナースマン』など。2024年出版を目標に、ナイチンゲールの子孫が主人公の小説を鋭意執筆中。

<多数のメディアで連載中!>
●小説 『令和のナースマン』
(月刊ナーシングキャンバス 株式会社Gakken)
●エッセイとイラスト 「アンチヘブリンガン」
(月刊ナーシング 株式会社Gakken)
●コラム 小林光恵の「ほのぼのティータイム」
(Aナーシング 日経メディカル)
●コラム 「ついついやってしまいがちなエンゼルケア」
(Will Friends 日本看護学校協議会共済会)
●ドクターズコラム
(健達ねっと メディカル・ケア・サービス)
など

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