超高齢社会を迎えた日本では、介護の問題を抱える家庭は少なくありません。団塊シニア世代が増えてきた看護職にとっても身近な話題。ある日突然降りかかってくる深刻な問題に、仕事を続けられず、離職という選択をするケースもあります。看護職が親の介護をすることになったとき、仕事と両立するためにはどうすればよいのか。また、現在どのような介護支援制度があるのかについて、日本看護協会・常任理事の熊谷雅美氏にお話をうかがいました。
2018/3
超高齢社会を迎えた日本では、介護の問題を抱える家庭は少なくありません。団塊シニア世代が増えてきた看護職にとっても身近な話題。ある日突然降りかかってくる深刻な問題に、仕事を続けられず、離職という選択をするケースもあります。看護職が親の介護をすることになったとき、仕事と両立するためにはどうすればよいのか。また、現在どのような介護支援制度があるのかについて、日本看護協会・常任理事の熊谷雅美氏にお話をうかがいました。
日本看護協会 常任理事 済生会横浜市東部病院 顧問(前 副院長兼看護部長)
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実は、私自身が父の看護と仕事を両立していたことがあります。当時は大変でした。父が自分で動ける間は、朝出勤する前に食事を作っておけばどうにかなっていたのですが、自力でトイレに行けなくなったとき、自宅での介護は難しくなりました。ケアマネージャーに相談して、預ける施設を探したのですが空きがありません。私の場合、近くに有料の施設がオープンすることになり、そこにお願いすることができたので幸運でした。家から歩いて数分だったので、仕事帰りに寄ることができましたし、土日はできるだけ自宅に連れて帰って一緒に過ごすことができましたから。
介護はお金はもちろん、時間も人手もかかります。私も預け先が決まるまで24時間寝ずに介護をして仕事していたこともあります。ただ、自分でできることには限界があります。私もいっときは仕事を辞めようかと思うくらい大変でした。介護はケアマネージャーさんと二人三脚です。いいケアマネージャーさんと出会えたことが大きな助けになりました。介護制度や専門家の助けを借りたから、どうにか乗り切れたのです。
「親のことだから自分が介護をしたい」という気持ちもわかりますが、自分一人ではとても手に負えるものではないかもしれません。訪問看護や訪問介護などの制度を利用し、いろいろな人に頼ること。割り切って専門家にゆだねることも考えることが大切です。そのためには、どのような介護支援を受けられるのか、どこに相談すればいいのかなど、介護についての情報が欠かせません。
ところが、看護職は介護支援制度について知らないことも多いです。私も自分の親に介護が必要になって、初めて知ったことがたくさんありました。そのとき思ったのは、「看護職は病気のことしか知らない」ということです。親の介護はいつ起きるかわかりません。ある程度の年齢になったら、介護についても勉強しておいたほうがいいと感じました。
平成28年度の「看護職のWLBインデックス調査」をまとめたデータによると、介護休業制度だけでなく、フレックス制度や始業就業時刻の繰り上げ・繰り下げ、所定労働時間の制限、介護サービス費用の助成、夜勤回数の軽減などの介護支援策を実施している施設はあります。ところが、職員に対する調査結果では制度があることを知っている割合がとても低く、突出していたのは具体的な介護支援策について「わからない」という回答で、どの項目も70%を超えていました。制度があったとしても、看護職自身が知らなければ利用できません。制度を周知して、看護職が利用しやすい環境にする必要があると感じました。
また、地方から都会に出て働いている看護職が、親の介護で地元に帰るケースもあります。この場合、引っ越し先で再就職すれば、介護をしながら仕事を続けることができます。各都道府県のナースセンターは、復職を希望する看護職に向けた支援を行っているのでぜひご利用ください。全国のナースセンターが連携しているため、引越し先で介護をしながら働ける施設を探してもらったり、休職の相談に乗ってもらうこともできます。看護管理者も部下から介護離職の相談があったときにはナースセンターの情報を伝えるようにしていただくとよいと思います。
ナースセンター
https://www.nurse-center.net/nccs/
介護との両立が必要になったとき、一人ひとりが介護支援制度について勉強することが大切です。これは個人でも大事なことですが、施設でも積極的に行って欲しいと思います。例えば、親の介護が必要になったとき、困ったときに相談できる窓口を設けるというやり方もあります。人事課が介護制度の情報をまとめておいたり、介護の経験者がアドバイスしたりすれば、情報の共有になり、社会制度の活用につながります。何より、相談できる窓口があるのは心強いものです。介護と仕事の両立には、自分から情報を求めようとする気持ちと、その気持ちを支えるための施設側の積極的な情報周知が不可欠なのです。
日本看護協会 常任理事
済生会横浜市東部病院 顧問(前 副院長兼看護部長)
【略歴】
済生会神奈川県病院での臨床経験後、看護基礎教育や衛生行政などを経験。
2003年 済生会神奈川県病院看護部長
2006年 済生会横浜市東部病院看護部長
2007年 同院副院長兼看護部長
2003年 横浜国立大学大学院教育研究科学校教育臨床修了(教育学修士)
2013年 東京医療保健大学大学院医療保健学研究科修了(看護マネジメント学修士)
2013年 認定看護管理者
2009年~ 厚生労働省 新人看護職員研修に関する検討会委員
2010年~ 厚生労働省 医道審議会委員
2016年~ 厚生労働省 新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会構成員
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