医師・看護師・管理栄養士・薬剤師などの多職種が協同し、患者さんの栄養をサポートする「NST (Nutrition Support Team)」。患者さんに一番近く、小さな変化を最も早く見つけることができる看護師は、栄養管理においても重要な役割を果たしている。しかし、その活躍には大きな壁もあるという。NST看護師の置かれた今の真実、そして明るい未来への可能性について、日本静脈経腸栄養学会(現・日本栄養治療学会)看護師部会部会長の矢吹浩子さんにお話をうかがいました。
2016/11
医師・看護師・管理栄養士・薬剤師などの多職種が協同し、患者さんの栄養をサポートする「NST (Nutrition Support Team)」。患者さんに一番近く、小さな変化を最も早く見つけることができる看護師は、栄養管理においても重要な役割を果たしている。しかし、その活躍には大きな壁もあるという。NST看護師の置かれた今の真実、そして明るい未来への可能性について、日本静脈経腸栄養学会(現・日本栄養治療学会)看護師部会部会長の矢吹浩子さんにお話をうかがいました。
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会(現・日本栄養治療学会) 看護師部会 部会長 / 医療法人 明和病院 看護部長
一般社団法人日本静脈経腸栄養学会(現・日本栄養治療学会)は、1970年に開催された「第1回完全静脈栄養研究会」より活動を開始し、1998年には研究会から学会へと発展的移行を果たしました。そして今日に至るまで、NST(Nutrition Support Team/栄養サポートチーム)活動の啓発をはじめとする栄養管理の推進・発展に力を入れて活動を続けてまいりました。会員は、医師・看護師・薬剤師・管理栄養士・栄養士などの多職種で構成されており、現在は2万名を超える会員数を有する世界最大級の栄養関連学会となりました。
私は1998年から当学会に参画し、現在は看護師部会の部会長を務めています。当部会では主に、看護師の栄養管理・栄養療法に関する研究、ならびに看護師の専門的知識・技術の向上に寄与することを目的に、栄養管理に携わる看護師の育成とサポートを行っています。
育成においては、学会が認定する「NST専門療法士」という資格制度を活かし、毎年多くのプロフェッショナルを輩出しています。しかしながら、看護師は基礎教育課程で栄養管理に関わる生化学や代謝栄養学をしっかり学んでいないため、資格取得はかなりの難関。そのため、管理栄養士や薬剤師などの他職種と比べると、看護師の合格率はとても低い現状があります。そのような厳しい状況の中でも、難関を突破した看護師の数は、2015年末の時点で2,372名となりました。資格取得を果たした多くの看護師が、全国の病院で患者さんの栄養サポートに奮闘しています。
栄養管理への注目が集まった一つのきっかけは、2006(平成18)年の診療報酬改定で新設された「栄養管理実施加算」でした。このとき、多職種が協同して入院患者の栄養管理計画を実施することが施設基準に設けられたことで、当時はNSTという言葉はあまり知られていませんでしたが、“チーム医療での活動”または“多職種で協働する”ことに対する考えが浸透し始めました。そして、次の大きなターニングポイントが2010年の「栄養サポートチーム加算(NST加算)」。多くの病院にNSTが置かれ、病院全体で栄養管理に取り組む流れが広まりました。
NSTの成功には、医師の積極的介入が不可欠と言われています。なぜならば、栄養管理における方針の決定には医師の判断が必要で、栄養剤の処方箋は医師にしか出せないからです。NST看護師にいくら栄養管理の知識があっても、医学的知識には限界があり、医師との協働が絶対に必要なのです。
ところが、以前からずっと聞こえてくるのは「医師の協力が得られない」という声。「患者さんの体重を増やしたい」「今の投与量では不足しているのでは?」と主治医に進言しても、処方箋をなかなか書いてくれなかったり、レコメンドしてもレスがないことがよくあると聞きます。そうこうするうちに患者さんはどんどん痩せていき、しまいには歩けなくなり寝たきりになっていくこともあります。NST看護師には、改善のための計画案をもっていながらも、実際に患者さんに施してあげることができないという大きなジレンマを抱えざるを得ない状況にある人がたくさんいます。
医師の協力を求める声がある一方で、病院の理解が得られないことに対する嘆きも耳にします。NST加算が始まった少し前に、現場で働くNST看護師に「NST専門療法士の資格を取ったことで、仕事にどんな変化がありましたか?」というアンケートをとったことがありました。非常に印象的だったのが「NSTのチームの一員ではない」という答え。栄養管理の担当者は輪番で全看護師が携わっていたため、いくら資格をとってもそれを活かせる環境ではなかったようなのです。「活動がおもしろくなった」「医師が相談してくれるようになった」というポジティブな意見ももちろんありましたが、それ以上に不満のほうが多かったことから、当時の実情がうかがえました。
またNST加算は、診療報酬の改定に大きく左右されることが、NSTの推進や継続にネックになりがちという現状もあります。特に今年の診療報酬改定では、症例数があまりないような中・小規模の病院ではNST加算より栄養指導料の追求のほうが効率的になったといえるところも少なくありません。看護師は、NST加算の要員になるために研修を受けて資格を取得したはずです。自分のキャリアアップにつなげるために頑張ったはずなのです。それにも関わらず、「今年はNST加算をやめます」となると、看護師のモチベーションは大きく下がることになってしまいまします。
病院や医師の理解不足、協力不足という課題は、NSTの発展とNST看護師の活躍の前に大きく立ちはだかる厚い壁。長年、私たちが抱えている大きな悩みでもあるのです。
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一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会(現・日本栄養治療学会) 看護師部会 部会長
医療法人明和病院 看護部長
【略歴】
慶応義塾大学医学部附属厚生女子学院卒業
慶応大学病院で勤務後、2009年まで兵庫医科大学病院
2009年
医療法人明和病院副看護部長
2012年
同院看護部長
日本静脈経腸栄養学会(現・日本栄養治療学会)理事、
日本静脈経腸栄養学会(現・日本栄養治療学会)看護師部会部会長
日本静脈経腸栄養学会(現・日本栄養治療学会)近畿支部会世話人
関西栄養管理技術研究会代表世話人
近畿輸液・栄養研究会世話人
<著書>
『胃ろう(PEG)ケアと栄養剤投与法』
『ココが知りたい栄養ケア』
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