インタビューアーカイブ

2017/5

介護予防のサイクルを地域へ。支援サービスの有効活用をうながす「生活支援体制整備事業」(後編)

2015年の介護保険制度改正により、介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)と生活支援体制整備事業に各地の自治体が取り組んでいます。特に生活支援体制整備事業は、介護予防だけでなく、人々が地域でいきいきと暮らしていけるための環境をつくっていこうという施策です。事業の事例集の編纂を行った日本大学 文理学部の諏訪徹教授にお話をうかがいました。

諏訪 徹

日本大学 文理学部社会福祉学科 教授

地域に即した生活支援を住民自らが考える

前編はこちら

生活支援体制を各自治体で整えるため、国は協議体とコーディネーターを設置できる予算を用意しました。
協議体とは、日常生活圏域における課題を住民たちと専門機関が共有し、その解決のための行動計画を立てる会議であり、その地域に暮らす人々が自分の地域に必要なものを考え、実施するための場です。これまでの介護保険制度では、全国一律のサービスを中心に支援体制がつくられてきました。しかしこの新しい制度により、ある地域では「人々が集まるサロンが足りない」、別の地域では「見守り活動が必要だ」など、地域の課題に合わせた対策を地域が自主的に講じていくことが目指されるようになりました。 協議体のメンバーは主に、地域の町会・自治会員、民生委員、老人クラブの会員などの地域住民、社会福祉協議会や地域包括支援センター、その他生活支援サービス等を提供する事業者・施設など専門機関です。商店街等が参加する場合もあります。コーディネーターは協議体での話し合いを促進したり、挙げられた課題を解決するための行動を実際に起こしていく役目を果たします。

これらの生活支援体制作りは、早い地域では2015年から着手しましたが、全国的に協議体やコーディネーターの配置が進められたのは2016年度のことです。2017年からいよいよ活動が本格的になるかというところです。現段階ではまだ新しい活動が立ち上がった例は少ないですが、今年はさまざまな活動が各地で生まれてくることでしょう。

 

活動が多様化し、取りこぼしのない活動に期待

生活支援体制整備事業の中でも、サロン活動は特にすでに多くの自治体で取り組みがあります。高齢者が集まり、他者との関わることができ、さらに運動や健康状況を確認できる見守りの場としてサロンは非常に欠かすことのできない存在です。サロンづくりの取り組み自体は90年代から全国で進められてきたもので、すでに全国に5万を超えるといわれていますが、まだない地域もあります。生活支援体制整備事業で一層の普及が期待されます。

サロンで常に課題となるのは、足腰が弱ったり認知症が進んだりして、サロンに通うことができなくなった方々、サロンに参加したがらない方々の存在です。地域のボランティアや有償サービスを利用した、送迎などを行えないか、といった検討がされています。逆転の発想で来られなくなった方のお宅に伺い、そこでサロンを開催する「自宅開放型サロン」という実践もあります。

またある地域では、認知症の方でサロンなどに行くことができない人のために、認知症の方への対応を研修でしっかり学んだボランティアが2人ペアで訪問するといった実践もされています。ボランティアの研修と派遣は、社会福祉法人が行っています。法人が運営する認知症対応型デイサービスでスーパーバイザーをつけて2~3ヵ月の実習トレーニングを行い、認知症の方への対応ができるボランティアを育て、訪問活動につなげているのです。

このように、サロンひとつをとっても地域とのつながりを閉ざさないための取り組みが数多く考えられています。生活支援体制整備事業に各自治体が取り組むことで、取り組みの自由度が広がり、地域の資源を活用したさまざまな活動が生まれていくことを期待します。

 

誰かを支え、自身も支えられる互助の仕組みを地域につくる

住民主体の生活支援体制を整備するうえでもっとも大切なのは、いきなり高齢者を「支援」することから入らないことです。その手前で、高齢者だけでなく参加する住民の「役割づくり」を考えていくことが重要です。 地域に外出する場所があり、誰かに必要とされている状況をつくることが何より大切なのです。活動内容はサロンでも農作業でも、地域の状況を見て必要なものを選べばよいのです。

誰もがそれぞれ地域で役割・活動・居場所が得られるような地域づくりを行い、地域との関係性をつないでいく――それがこれらの活動の本質です。介護サービス上のデイサービスも、食事や運動機会ということと同時に、利用者は社会関係や日中の居場所を期待しています。それと似た効果が生活支援の活動では期待できます。介護予防が地域の中に保障されているしくみをつくっていくことも、生活支援体制制度の目的の一つです。これらの活動が刺激となり認知症予防につながったり、何か心配事があったときに相談しやすい環境が生まれたりするなど、参加する方にとっても大きなメリットがあります。

元気な状態の人が、他人を支えるつもりで始めた活動が、その人自身の元気の源となり、またそこで得られた社会関係でその人自身も支えてくれる。だから介護サービスよりも地域の場に居続けようとみんなで頑張る。それが理想的な形でしょう。介護のサービス費用の削減はそうした社会関係の結果として付随してくるものと考えて進めた方がよいでしょう。

 

次の課題は住民と介護サービス事業所・従事者との協働の促進

生活支援のための取り組みは、介護度が軽いうちは住民のみで対応できます。しかし、認知症が進んだり、介護度が重くなっていけば専門機関との連携・協働が必要になってきます。

現行制度の範囲で介護サービス事業所・施設が行える支援としては、サロン活動などにおけるスペースの提供が考えられます。施設の部屋を借り、サロンなどを開催するのです。
サロンの運営で課題となることの一つが場所の確保。介護施設が場所を提供してくれば住民は場所確保の努力から解放されます。また何かあったときの緊急対応がしやすいですし、身近な存在として相談のハードルも下がります。

ただ、残念ながら現状の制度では介護職員や社会福祉士を地域のサロン活動など生活支援活動の場に派遣することはできません。一般ボランティアとしての参加は可能ですが、報酬の出る形での支援はできないため、施設や事業所に負担のかかる形となってしまいます。これでは長く続けることは難しいでしょう。

今後、住民が作った場を専門職がサポートする活動にも費用がだせるような制度改正が必要だと感じています。こうした形でできるだけ地域の場にいられるようになれば、本当に必要な時・必要な部分にだけ介護保険が使われるようになるかもしれません。介護保険サービスと保険外サービスを併用できるような仕組みをつくり、より効率的かつ効果の高い生活支援の仕組みをつくっていくことが必要です。

 

次世代へと継承される活動を

地域活動はこれは高齢者向け、これは障害者向けといったように対象が明確に区分されているわけではありません。現在地域支援のボランティア活動の参加に最も積極的なのが70代ですが、その下の世代、つまり団塊の世代やもっと若い世代にもアプローチし、次の世代につなげていく必要があります。また、高齢者の社会参加の対象は高齢者を支える活動だけではありません。子育てをする人々や若者の地域活動支援活動などについても考え、地域のあらゆる人々がみなで考えていくような仕組みづくりを進めていかなければなりません。

これまで厚生労働省が定めた枠組みの中でしか展開できなかったものが、アイデア次第でいくらでもおもしろいものを実現することができるでしょう。地域共生型社会を推進し、地域包括ケアを振興するために、さまざまな色の事業が生まれていくことに期待をしています。

諏訪 徹

日本大学 文理学部社会福祉学科 教授

【略歴】
1988年
全国社会福祉協議会
2008年
厚生労働省社会・援護局社会福祉専門官
2013年 4月
日本大学文理学部社会福祉学科教授

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