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2017/6

専門外来の外でも支援を。チームで依存を断ち切る禁煙指導(前編)

「緩やかな自殺」とも言われているほど、喫煙は健康被害が大きなものです。禁煙治療は、医師・看護師だけでなく、薬剤師や歯科医師、予防分野を担う保健師などを含めた多職種で、各職の専門性を活かして協働で取り組みを進めていくことが重要です。禁煙指導の方法やナースが禁煙にかかわる意義などについて、日本禁煙学会 理事の久保田 聰美氏にお話をお聞きしました。

久保田 聰美

一般社団法人 日本禁煙学会 理事 / 高知県立大学 健康長寿センター 特別研究員 / 医療法人須崎会 高陵病院 教育顧問

ニコチン依存症 は「病気」。医学的な禁煙サポートが進む

Nursing-plaza.comの調査によると、現在喫煙中の方で1度以上禁煙したいと考えた方は75.8%に上っています。 タバコの健康被害はいまや多くの方に認知が広まり、「禁煙したい」と考える方も多いのですが、実際に禁煙に成功する確率は高くはありません。ニコチン依存症は「病気」であり、なかなかやめられるものではないのです。

2006年4月の診療報酬改定により、ニコチン依存症があり、かつ喫煙をやめたいという明確な意思のある方であれば、禁煙治療に健康保険等が適用できるようになりました。これを受けて、医師・看護師による禁煙治療が積極的に行われるようになりました。薬の服用や、禁煙プログラムを活用し、医学的かつ計画的に患者さんの禁煙をサポートすることができるようになったのです。 依存症の程度や本人の行動にもよりますが、治療はおおむね8~12週間かけて行われます。内科や循環器科で治療を行うこともありますが、近年、専門的な禁煙外来をおく病院も増えてきました。

 

禁煙支援はあらゆる病気の治療効率向上につながる

今や国民の8割はタバコを吸わなくなり、喫煙する方は少数派となりました。禁煙を強制するのではなく、お互いに生きやすい環境づくりを行うために、冷静に指導を進めていかなければなりません。

禁煙指導において、患者さんの身近な存在である看護職の役割は非常に大きいです。 本人に禁煙の意思があっても、周囲の人々との「付き合い」でついつい吸ってしまう、というパターンもあります。治療がスムーズに進み、ニコチン依存症を克服できたとしても、また別のもの、例えばアルコールやギャンブルに依存してしまうリスクもあります。単に禁煙治療を行うだけでなく、その患者さん個人と、患者さんを取り巻く社会に目を向けた治療が必要です。

禁煙をサポートできるのは、禁煙外来の看護職だけではありません。
ほかの科に所属する看護師や訪問看護師にも禁煙に関する知識をつけ、各科の治療の中で「禁煙支援」という形で活かしていただきたいと思います。

タバコの健康被害については、喫煙者・非喫煙者問わず認知度は高いのですが、具体的にどのような健康被害があるのか、また止めることで得られるメリットは何かをきちんと理解されている患者さんは意外と多くありません。
例えば、高血圧の方の場合、喫煙も原因のひとつになり得ます。治療の際、「タバコを止めることで、高血圧の薬を減らせるかもしれない」とタバコと抱えている病気の関連性をきちんと伝えることで、禁煙に踏み出してくれるかもしれません。健康被害を抑えるだけでなく、高血圧治療の効率向上も望めます。

また、禁煙指導は、対象者と指導者の関係性によって効果が上がるといわれています。つまり、禁煙専門の看護師による指導よりも、普段かかわりのある看護職の方が高い指導効果が得られると考えられるのです。だからこそ、禁煙外来以外の看護職にも、禁煙指導のスキルを学んでいただきたいのです。
依存性が強く薬物治療が必要な場合などは、専門性の高い禁煙外来での本格的な治療を行いますが、そこにつなぐ為にも一般の看護師が担うことができる役割は非常に大きいと感じています。

 

専門性の高いプログラムを一般化し、多くの医療従事者へ普及を

一般の外来診療や、健康診断などの場でも簡易的に行える禁煙支援として、「5A アプローチ(Ask、Advise、Assess、Assist、Arrange)」という手順があります。もともとアメリカで開発されたもので、世界中で利用されている、有効な手段です。

  • Ask【聞く】:喫煙者に喫煙の本数や頻度などを聞き、状況を把握する
  • Advise【アドバイスする】:喫煙者に禁煙の効果をアドバイスする
  • Assess【評価する】:喫煙者の禁煙への関心度をアセスメントする
  • Assist【アシスト・手伝う】:関心度に合わせて、禁煙を指導・支援する
  • rrange【整える】:フォローアップ、次回の診療・支援の準備

この標準プログラムをもとに、各禁煙関連学会では、日本向けに内容をアレンジしたものや、特定検診や健康指導向けのプログラムを開発したりしています。これらを学んだ看護職が増えていくことで、禁煙指導の効果は高まっていくと考えられます。

また、複数の関連学会が共同で2008年に「禁煙治療のための標準手順書」を作成しました。治療スケジュールや来院のタイミング、問診票の内容など、プロセスを中心としたものとなります。しかし、このプログラムにはコミュニケーションスキルや各職種の果たす役割などは明確に示されているものではなく、実用するには今一歩情報が必要です。

これらの専門プログラムは学べる場が少なく、一部の禁煙支援に積極的な看護職のみが学んでいるのが現状です。
私はこれらの禁煙支援の知識は、禁煙専門の医療従事者だけでなく、看護師はもちろん、医療事務などの病院のスタッフや、介護士など、多くの医療従事者が身につけるべきスキルだと思います。ICLS(Immediate Cardiac Life Support:蘇生トレーニングコース)やBLS(Basic Life Support:一次救命処置)などの蘇生スキルと同じように、医療にかかわるすべての方々に身につけてもらい、全体の底上げをしていきたいと考えています。
人々の健康を守る環境づくりの一環として、多くの看護職 や医療従事者に禁煙支援を伝えていかなくてはなりません。

そのためには、シンプルで誰もが学べるプログラムをゴールデンスタンダードとして体系付けることが必要です。各種禁煙関連団体が学会の壁も職種の壁も超えたつながりを持ち、あらゆる視点から患者さんの禁煙を支援できるようなプログラムを今後作っていけたらと思います。

後編はこちら

久保田 聰美

一般社団法人 日本禁煙学会 理事
高知県立大学 健康長寿センター 特別研究員
医療法人須崎会 高陵病院 教育顧問

【略歴】
1986年
高知女子大学家政学部看護学科卒
1986年
虎ノ門病院入職
2004年
近森病院入職
2007年
同院看護部長就任
2014年
高知県立大学看護学部 看護学研究科 特任准教授
2015年
株式会社ぺーす代表(訪問看護所長)
2016年
高陵病院教育顧問
2017年
高知県立大学健康長寿センター特別研究員

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