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2017/11

乳がん検査はリスクに合わせて計画的に受けることが大切

厚生労働省は自治体で行う乳がん検診のガイドラインを40歳以上、2年に1回の受診としています。しかし、20〜30代でも乳がんを発症するケースもあり、リスクの高さには個人差があります。リスクが高い場合は乳がん検診以外に自分で検査を受けることも必要です。また、「がん検診ががんを増やす」といった誤解も少なくありません。がん検診の意味、受けるタイミングなどについて、ピンクリボンブレストケアクリニック表参道 院長の島田菜穂子氏にお話を伺いました。

島田 菜穂子

ピンクリボンブレストケアクリニック表参道 院長

乳がんのリスクを知り、リスクに合わせて検査を受ける

前編はこちら

乳がんは遺伝的にリスクが高い人がいます。遺伝子検査で調べることもできますが、それはハードルが高くためらう人も多いでしょう。

自分の乳がんのリスクを判断する目安になるのが、母親や祖母、叔母、姉妹など身近な親族に乳がんを発症している人がいるかどうかです。母方父方にかかわらず、もし、第2度近親者に2名以上の乳がん発症があった場合や近親者の乳がん発症の年齢が閉経前であった場合、両側の乳がんになっている場合、男性乳癌の近親者がいる場合などは、乳がん遺伝子の異常の可能性が高いと言われ、乳がん発症のリスクが高くなります。
日本人女性が乳がんになりやすい年代は40〜50代ですが、遺伝的素因がある場合は通常より若い年代で乳がんが発症することがわかっており、したがって40歳からの2年に1回の乳がん検診では不十分です。一般的にはガイドラインに沿った検診で十分な場合も方も多いのですが、厳密にはこのように家族歴やさまざまなリスク因子により、個々それぞれで乳がん検診の適切な開始年齢や方法が異なるのも事実です。

特に遺伝的素因を抱えている場合、アメリカでは、近親者が乳がんを発症した年齢マイナス10歳から検診を始めるように指導が行われています。自治体からの検診のご案内を受け身で待っているのでは、開始時期が遅い場合もあるのです。

 

ホルモン治療を受ける前に乳がんの検査が必須

もう一つ、婦人科系の治療で女性ホルモン治療を受ける時は、事前に乳がん検査を受けた方がよいことを覚えておいてください。
女性ホルモン剤は女性の病気治療でとても役に立つ薬です。避妊や生理不順、子宮内膜症の治療で服用するピルのほか、不妊治療や更年期障害の治療でも女性ホルモン剤はよく利用されます。

ただ、女性ホルモン剤を服用する量が多く、期間が長くなると、服用していない人よりも乳がんのリスクが高くなります。
だからといって、治療に女性ホルモン剤を使うべきではないということではありません。お薬はそのメリットとデメリットを十分理解し、適切に使うことで効果を発揮します。
女性ホルモンは80%程度の乳がんの成長を促すため、乳がんの人が知らずに女性ホルモン治療を受けてると、乳がんに対しては栄養を与えてしまうことになってしまいます。

ついつい目の前の治療の目的に集中するあまりに、女性ホルモン剤の服用前に患者様に乳がん検診をすすめることが省略されて治療が開始されているケースも少なくはありません。治療を行う医師はもちろんのこと、患者様のより身近に治療をサポートする看護師の方はぜひ、女性ホルモンの使用開始前に乳がん検診をすすめる一言を忘れないようにお願いします。せっかく大変な治療を超えて子どもに恵まれたのに、知らないうちに乳がんも育ててしまっていたのでは……悲しすぎます。

 

乳がん検診についての誤解。がん検診ががんを増やすことはない

怪しいネット情報か都市伝説なのか、x線を用いた乳房の検査、マンモグラフィで検査を受けると乳がんが発生する危険が増えると信じている人がいますが、これはまったくの誤解です。マンモグラフィで使用される放射線は非常に微量で、飛行機で東京からニューヨークに行く間に自然に浴びる宇宙線という放射線の被曝線量と同じです。
たびたび仕事で飛行機に乗る仕事の方でさえ、そのために乳がんのリスクが上がることはまったくありません。それだけ健康に影響のない微量な被曝線量でマンモグラフィは撮影できるのです。
むしろ定期的なマンモグラフィにより、より早期に乳がんが発見できることによる乳がん死亡率低下の効果は科学的に証明されておりその根拠に基づいています。


乳房をX線撮影する装置、マンモグラフィー

現在、日本で行われているマンモグラフィによる乳がん検診ガイドラインが制定され国民ががんで死亡する数を減らすための国の使命としてスタートしました。
そんな中、少し前に、アメリカで40代からのマンモグラフィ検査を推奨しないという勧告が出て、日本でもメディアやネット上で40代の乳がん検診の必要性が話題になりました。
ただし、そもそも、アメリカでは乳がんの罹患は閉経とともに増える、すなわち日本より高齢者に多いという状況です。もともと40代での発症がアメリカでは少ないのです。

したがってアメリカで40代の検診を行うと病気でもない人に再検査の心配や負担をかける頻度が多くなるという検診によるデメリットが大きいことが注目されて、その報道がなされたのでした。アメリカに比べはるかに若い年代が乳がんにかかる日本ではその情報をうのみにして40代の検診を省くことになったら、最も多くの方が乳がんになる年代に検診が完全になくなってしまうのです。したがって当時マスコミをにぎわせたマンモグラフィ悪者説は払拭され、日本のガイドラインは現在のエビデンスの中で、日本女性を守るための努力を続けています。

また、妊娠しているからがん検診は受けられないと思い、妊娠・出産が続いて数年受けていないというケースがあります。マンモグラフィは妊娠・授乳中に受けることはできませんが、超音波検査は受けられます。
こうした誤解がバリアになり、乳がん検診や治療を受けることをためらうことがないよう、医療従事者がもっと正しい知識を広げていく必要があります。

 

40代はマンモグラフィだけでは不十分な場合もある

実は、40代の乳がん検査ではマンモグラフィだけでは不十分なケースがあります。閉経前の女性は乳腺が発達している「高濃度乳房」が多く、マンモグラフィの画像ではがんが見えにくいケースが多いのです。

この場合、超音波検査を組み合わせると発見しやすくなります。超音波検査は現在の対策型乳がん検診のガイドラインには組み込まれていないので、受ける場合は多くは自己負担になります。
近親者に乳がんを発症した人がいたり、ホルモン治療を受けていたり、乳がんのリスクが高い場合は両方を組み合わせて受けたほうが安心です。
また、リスクが低い場合も最初の乳がん検診を受けた時に、自分が高濃度乳房かどうかを教えてもらいましょう。もし高濃度乳房なら超音波検査を組み合わせたり、最近開発された3Dマンモグラフィを受けるなどの工夫が必要です。

日本の乳がん検診受診率は先進国のなかでは飛び抜けて低く、先進国の平均は80%程度に対し40〜50%です。調査によると、検診受診をすすめる役割を担うべき、医師看護師など医療従事者の乳がん受診率も、とても低い状況です。患者さんに正しい知識を伝え行動を促すには、まず自分が受診して経験することが大切です。
検診を受けても病気が発見できなかったでは無駄なことになります。
正しい方法や水準で検査診断ができるためのトレーニングや試験制度がすでに乳がん検診の分野では他の分野に先駆けて日本乳癌検診精度管理中央機構により1999年からスタートしています。せっかく検診を受けるのであれば安全で安心な検診を選んでほしいものです。この試験に合格した医師や検査技師がいて、検査機器がそろった認定施設はNPO乳房健康研究会のサイトの(あなたの町の乳がん検診情報)でも公開されており、全国の認定施設がチェックできます。自分自身が検診に行くときはもちろん、誰かに検診を勧めるときはぜひ安心な検診施設の選び方を教えてあげてください。

 

島田 菜穂子

ピンクリボンブレストケアクリニック表参道
院長

【略歴】
1988年
筑波大学医学専門学群同大学卒業
1988年
筑波大学付属病院放射線科レジデント医員(研修医)
筑波記念病院およびつくばメディカルセンター放射線科勤務
1991年
東京逓信病院 放射線科勤務
1992年
放射線科乳腺外来を開設
1998年
日本放射線科専門医会海外留学フェローシップに選考され、
米国ワシントン大学メディカルセンターブレストヘルスセンター留学
1999年
東京逓信病院 放射線科勤務
2000年
乳癌啓発団体 乳房健康研究会発足 同副理事長 ピンクリボン運動、イベント出版活動展開、調査研究を通じて乳がん検診の環境整備のためのロビーイングを開始。乳がん啓発団体として日本初のNPO認証を受ける。
2003年
日本発の啓発型スポーツイベント乳がん啓発ランニングウオーキングイベント“ミニウオークアンドランフォー ブレストケア”を企画開催
2001年
東京逓信病院 放射線科医長
2005年
南青山ブレストピアクリニック副院長
2006年
丸の内・女性のための統合ヘルスクリニック/イーク丸の内・副院長
2006年
東京ミッドタウンメディカルセンター 東京ミッドタウンクリニック 乳腺科  シニアディレクター
2008年
ピンクリボン ブレストケアクリニック表参道 開設

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