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2017/12

介護実習の成功のカギは日本人介護職側の外国人のフォロー体制づくりにあり

外国人技能実習制度に介護職種の項目が加わったことにより、外国人介護職を受け入れる介護施設が増えていくだろうと予測できます。日本人職員と外国人職員とが良い関係を築き、地域によりよい介護を提供していくためにはどうすればよいのでしょうか。東京都介護福祉士会で国際協力委員会長を務める永嶋昌樹氏にお聞きしました。

永嶋昌樹

公益社団法人 東京都介護福祉士会 理事/国際協力委員長/日本社会事業大学 助教

山積みの課題

前編はこちら

外国人技能実習生を日本の介護施設で受け入れるにあたり、課題は山積みです。
そもそも、日本人の介護職で外国人と日常的に触れ合った経験のある方は少ないと思われます。言語でのコミュニケーションはもちろん、宗教や食文化の違い、考え方の違いに戸惑うことは大いに予想できます。

技能実習生を受け入れる施設は、技能実習責任者のほかに、介護技術を指導する技能実習指導員と日本での暮らしをサポートする生活指導員をそれぞれ最低1名ずつ配置します。特に鍵となるのが暮らしの悩みや相談を受ける生活指導員です。生活指導員は外国人が生活をするうえでの困りごとに細かく気づき、本人とともに解決することが主な役割です。施設では相談援助職やソーシャルワーカーが兼任するケースが多いのではないかと思います。
しかし当然、これらの職員も日常的に外国人に接したことがある人は多くありません。日本で働くうえで外国人が何に困るのかを、想像できないというのは大きな課題です。

 

生活指導員は対人ストレスや日常の相談を受けるキーパーソン

実務を指導する実習指導員については、日本介護福祉士会が厚生労働省の委託を受け養成講習を行っています。
一方、生活指導員は、他の職種の技能実習の生活指導員と同じ講習しか行われていません。私はこれでは不十分だと思っています。生活指導であればどの職種でも同じ講習でもよいのでは?と思われる方もいるかもしれませんが、介護には他の業種と大きく異なる部分があります。

日本で技能実習が行われているのは、主に漁業や農業、鉄鋼業、食品加工などであり、対人サービスの職種は実は介護のみです。職員だけではなく、利用者、利用者家族とのコミュニケーションが必要とされる介護職には、サービス業に特有のストレスが生じます。現行の生活指導員の講習では、そのような対人ストレスに起因するトラブル等の内容が薄く、今後はより適切な講習の実施が課題となります。

また、日本で暮らすうえで重要になってくる「ご近所づきあい」も介護の職種では単なる生活圏以上の意味を持ちます。施設は地域で暮らしている人々が利用しますから、介護施設の利用者さんがご近所に住んでいることは想像に難くないでしょう。地元の利用者さんと、もしトラブルが発生し、うまく解決できなかったとしたら……その地域で暮らしたり、地域のために介護を提供することが嫌になってしまうかもしれません。

生活指導員には、こうした生活の上でのトラブル等の相談を技能実習生から受け、一緒に解決していくという重要な役割があります。施設の同僚との人間関係を把握しつつ、地域の中で外国人が暮らしていけるよう支援します。地域の中で住民として受け入れられ、常に近隣と良好な関係を保ちながら暮らしていけるようなサポートが必要です。

 

「日本語ができない」ことをどうサポートしていけるのか

実務の面での課題と言えば、「日本語ができないこと」を挙げる方は少なくないでしょう。
ここで気を付けたいのは、言語は介護において大切なコミュニケーション方法のひとつではありますが、「日本語が話せるかどうか」は介護の本質ではないことです。日本語ができないからと言って、介護の技術が未熟なわけではありません。これを日本人の職員のみなさんにきちんと理解してほしいと思っています。

技能実習制度での事例ではありませんが、「日本語ができない」と言って、入浴介助や掃除などしか担当させてもらえなかったり、記録業務ができないから常勤として雇用してもらえないなどというケースが過去にありました。業務を制限することは、介護技能の移転を目的とする技能実習制度の趣旨に反します。制度では、業務の分化や制限を禁止していますが、施設レベルでは制限してしまうところもでてくるかも知れません。それは避けるべき事案です。介護の全体像を学ぶことができなくなりますし、仕事のモチベーションも上がらないという精神的なデメリットもあります。日本語ができないことによる不当な扱いは、外国人介護職の可能性を制限してしまうことになりかねません。

介護の技能実習生が実際に現場で働くのは3月以降となる見込みですが、他職種の技能実習では実習生の失踪が年々増加しており、問題視されています。介護の職種でも同じようなことが起こるかもしれません。そうならないために、日本人の生活指導員や実習指導員は技能実習生本人とコミュニケーションをとり、施設の中の人間関係を整えていく必要があるでしょう。単に技術を教えるだけでなく、こうしたサポートも重要な役割です。滞在期間5年の満了まで、技能実習生が仕事を続けられるかは、指導員たちのかかわり方によって変わってくるのではないかと私は考えます。

 

「うちの施設の介護」ではなく「いつでもどこでも誰にでも提供できる介護」を伝える

技能を移転するにあたり、大きな課題となるのが「基本的な介護技術を伝達できるか」です。
以前に、介護施設へ実習に行った学生から、「施設の職員に、“学校で教えていることと現場の介護の方法は異なる”と言われた」と報告がありました。学校で教えるとおりに現場でできないことも当然あるとは思います。しかし、どこの施設でも一定のレベル以上の介護サービスが提供されなくてはなりません。どこの施設であっても、基本的な技術は共通するはずで、本来は学んだものと異なるなどということがあってはなりません。もちろん、利用者さん個人に合わせて応用している技術は存在しますが、それはあくまで応用であることを伝えないと、適切な介護技術を伝えることができません。技能実習制度の目的は技能の移転ですから、どこでも誰に対しても行える「基本的な介護技術」を伝えられないと、その目的が果たされなくなってしまうのです。
技能実習生に限らず、外国人介護職と同僚として働く方々には、基本と応用をきちんと分けて伝えることを意識してほしいと思います。

 

外国人介護職は地域共生社会のきっかけとなり得るか

残念ながら、いまだに介護職として外国人を受け入れることを嫌がる人、偏見を持つ人がいます。しかし、介護の人材不足で困っている日本が、まだそうでない東南アジア諸国に労働力を分けてもらうという流れは今後確実にできてきます。一方で、日本で学んでもらった介護技術は、将来的に東南アジア諸国で高齢化が進んだ際に活きてくる。介護職種の技能実習は、相互国際協力の一つの形なのです。

前半で外国人介護職が施設にいることがグローバル化だ、と言いましたが、これを施設だけでなく地域に広げることができれば、より多様で豊かな地域共生社会の創造につながるのではないかと私は考えます。
昔からあった地域のつながりを復活させるのではなく、現代社会に即した新たな地域社会を作り出していくという考え方として、外国人の存在は施設を地域に拓き、地域とより強く結びつくためのよい刺激になると思います。外国人介護職のいる社会で、さまざまな文化が融合し合い、人々が共生していく未来に期待したいですね。

永嶋 昌樹

公益社団法人 東京都介護福祉士会 理事
国際協力委員長
日本社会事業大学 助教

【略歴】
筑波大学大学院修士課程教育研究科修了。社会福祉法人中野区福祉サービス事業団 在宅介護支援センター相談員、社会福祉法人読売光と愛の事業団 特別養護老人ホーム介護課長等を経て、2016年日本社会事業大学 助教に就任

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