医療需要の激増する栃木県の中で、比較的医療資源が豊富だと言われている県南医療圏。ここに位置する自治医科大学附属病院では、該当医療圏だけでなく、周辺地区からの患者の流入が予想され、今その受け入れ体制づくりを進めることこそが経営のカギとなっています。自治医科大学附属病院 病院長の佐田 尚宏氏に医療提供の体制づくりについてお話をうかがいました。
2018/2
医療需要の激増する栃木県の中で、比較的医療資源が豊富だと言われている県南医療圏。ここに位置する自治医科大学附属病院では、該当医療圏だけでなく、周辺地区からの患者の流入が予想され、今その受け入れ体制づくりを進めることこそが経営のカギとなっています。自治医科大学附属病院 病院長の佐田 尚宏氏に医療提供の体制づくりについてお話をうかがいました。
自治医科大学附属病院 病院長
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高度急性期に力を入れる一方で、一次救急や看取りを含めた地元の在宅医療など、栃木県全体の地域医療に貢献することも、当院の使命の一つと考えます。
自治医科大学附属病院 外観
今、医療がこれだけ高度化し、患者数が増えている状況下で、もはや一つの病院で完結する医療はありえません。
「病病連携」「病診連携」が不可欠な時代になりました。2016年3月に公表された栃木県の地域医療構想でも、今後の医療提供体制の整備には「医療機能の分化」と「連携」が強調されています。
こうしたことを背景に、当院でも地域医療をサポートする取り組みを進めています。まず一つ目は、「手術連携病院」です。これは、主に栃木県内を中心とした関連病院と手術連携を組み、自治医科大学関連病院群を組織して、それぞれの連携病院へ当院の医師をはじめとする各職種のスタッフを派遣するという試みです。
当院には現在、約900名の医師が在籍していますが、そのうち220名ほどは外部に派遣しています。派遣先もさまざまで、約160名は栃木県内ですが、残りの約60名は茨城県やその他周辺の地域の医療機関へ行っています。
この取り組みは、スタッフを派遣することで単に「人手不足が解消する」という話ではありません。〝医療の質の均一化〞という狙いがあります。病院同士が密に連携をとることで、提供できる医療の量が増え、連携病院でも大学病院レベルの医療を提供することができます。また、大学病院では胆石やヘルニアなどの、いわゆるCommon disease(コモンディジーズ)と呼ばれる疾患の手術は対応が難しいため、そうした患者さんは連携病院にお願いすることもできます。我々も責任をもって送り出せますし、患者さんも安心して治療を受けていただけるはずです。
そしてもう一つ、2015年8月に設置された地域臨床教育センターも、地域医療の充実を推進する施設として位置づけています。当センターは、自治医科大学および大学拠点病院(自治医科大学と連携した地域中核病院)相互の連携協力のもと、医学生、レジデント、若手医師の能力を養う場となり、広く臨床経験を積む場として活用されています。現在、地域臨床教育センターを置いている病院は、県内外に5つ。そうした施設間の垣根が低くなり、人の往来が多くなれば、さまざまな情報共有が行われ、連携の強化、ひいては地域医療の充実にもつながります。こうした取り組みを一つひとつ実現していくことが、地域医療の課題解決につながる一手になると思っています。
医療の提供体制を整えるために重要なことがもう一つあります。それは、職員が生き生きと働いていることです。昨今は、医師の働き方改革が話題になっていますが、当院でも職員の〝働き方〞に注目しています。従来の病院は、忙しくなると人海戦術でなんとか対応してきましたが、これだけ高度化・複雑化した現在の医療に対して、これまでの働き方では到底太刀打ちできません。どのような形を目指すかは、また別の議論が必要になりますが、将来を見据えると今のままでよいはずがありません。
例えば、今から2年前に当院では、救命救急の当直体制においてかなりドラスティックな変更を行いました。当院の救命救急センターは、設立当初からセンタースタッフだけでなく、病院全体で救急患者を診療する体制にしているという特徴があります。そのため以前は、各診療科に当直が勤務しており、毎日40名のスタッフが夜間対応を行っていました。しかし、実際に呼ばれる頻度は少なく、翌日も通常通り勤務することが多かったため、病院全体が疲れてしまうような体制でした。これでは、病院としては非効率です。
先ほどドラスティックな変更と申し上げたのは、「センター当直制度」を導入したことです。当直は、指導医クラス4〜5名と、レジデントクラスの約10名だけが、外来のファーストタッチを専属で担当し、翌日は基本的に休みにしました。病院全体でサポートすることは変わりませんが、職員の疲弊を防いで、三次救急の受け入れをしっかりと行うことができる体制になりました。
今後、当院が目指すのは「断らない親切な医療」です。とはいえ、来られる患者さんすべてを受け入れるということではなく、病病連携、病診連携をしっかり機能させて、そのうえで実現しようということです。内部の働きやすさも重視して、病院としての一体感も増していきたい。そして、当院の職員だけでなく連携病院も一丸となって、栃木県の地域医療を支え続けていきたいと考えています。
自治医科大学附属病院 病院長
【略歴】
1960年生まれ。1984年東京大学医学部卒業、1994年東京大学医学部第一外科助手。ドイツDuesseldorf 大学消化器科客員研究員、キッコーマン総合病院外科部長を経て、2000年より自治医科大学消化器・一般外科講師に就任。2003年同助教授、2007年同教授・鏡視下手術部長。2015年に病院長に就任。
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