がん・心臓病・脳卒中に特化した医療の提供を目的に、平成19年に設立された埼玉医科大学国際医療センター。“患者中心主義”を徹底的に貫いた病院づくりと枠組みづくりが評価され、平成27年には大学病院で日本初のJCI(国際病院評価機構)認定も取得しました。日本の病院のステレオタイプとは異なり、革新的な病院経営のあり方について、病院長の小山勇氏にお話しをお聞きしました。
2018/8
がん・心臓病・脳卒中に特化した医療の提供を目的に、平成19年に設立された埼玉医科大学国際医療センター。“患者中心主義”を徹底的に貫いた病院づくりと枠組みづくりが評価され、平成27年には大学病院で日本初のJCI(国際病院評価機構)認定も取得しました。日本の病院のステレオタイプとは異なり、革新的な病院経営のあり方について、病院長の小山勇氏にお話しをお聞きしました。
埼玉医科大学国際医療センター 病院長
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病院建物は、ダイヤモンドが連なっているように、A棟、B棟、C棟、D棟、E棟が並んでおり、今度F棟も建設予定です。A棟は主に心臓病センターで、B棟は脳卒中センターを含む救命救急センター。C棟は共通部門で、D棟・E棟は包括的がんセンター、E棟の2階は通院治療センターとなっています。先ほども申し上げましたが、当院には診療科ごとの外来はありません。センターという分かれ方をしているため、組織は診療科を横断するように形成されており、ハードも組織も〝横のつながり〞を非常に重視したつくりになっています。もちろん、診療科がないという意味ではなく、実際の働き方は診療科単位になりますが、それぞれの科が独立して医療を完結するということはほとんどありません。
エントランスホール
このような組織にしているのには理由があります。それは、高度で複雑化した現在の医療は、一つの診療科で成り立つ時代ではもはやないからです。がんの手術も非常に複雑で、一つの科ではなく複数の科の医師によって実施されるケースが実に多い。例えば当院の場合、腎臓がんは典型的な例で、特に進行している場合、血管の中に入り込んで心臓まで浸潤していることがあります。そこで、泌尿器腫瘍科だけでなく、消化器外科と心臓外科の医師も加わり、3つのグループで手術を施すことがあるのです。
こうした体制は、普通はなかなか実現しません。多くの病院では、違う診療科に仁義を切ったり、根回しのあいさつをする必要があったりします。言葉だけで「チーム医療」と言っても、組織が凝り固まっていると、本来求められていることに容易に応えることができなくなると思います。患者さん一人に対して、さまざまな専門家が集まり、職種を越えて意見を言い合い、治療にあたる。そのような雰囲気をつくることが最も必要なことなのです。しかし残念ながら、従来の縦割りの組織構造では難しいことは初めからわかっていました。チーム医療のバーチャル組織をつくっても仕方ありませんから、縦割りのない医療を実現するために、ハードのつくりも組織の構造も今のような形にしたのです。
では、〝横のつながり〞を強化するための具体的な取り組みをいくつかご紹介します。まずハード面では、医局やスタッフステーションがないことが大きなポイントです。医局をつくると医師が必ず留まってしまうのであえて設けることをせず、スタッフステーションも同様で、病棟の看護師が居続けることがないよう、廊下の一部のスペースをそれにあてました。これは、イギリスの病院を参考にしました。医師も看護師も基本的には患者さんのそばにいることが原則ですから、部屋で待機しているということはあり得ません。ただ、日本人は特に仲間でまとまる習性が強いですからね。組織を根本的に変えるためには、枠組みからつくらなければ変化はなかなか起きないと考えたのです。ただし、枠組みだけをつくれば文化が醸成されるというものでもありません。そこはやはり、我々管理サイドが常に伝える努力を怠らないことが大切です。同じ職員がずっと在籍してくれればよいですが、毎年、何百人もの職員が入れ替わります。ですから、同じことでも何度も繰り返し話をしていき、本当の意味での文化をつくらなければ意味がありません。文化というのは、たかだか年では完成しませんからね。
当院では、主に新しい入職者に対して毎月オリエンテーションを行い、私が自ら登壇して病院について話をしています。そして、すでに入職した方々へは、少なくとも年2回は講演会を開き、病院の実績報告やその年の目標などを共有しています。それは、常勤の職員だけでなく、非常勤はもちろん、受付や警備、掃除などの委託業者の方にも参加していただいています。この病院がどういう病院で、何を目指しているのか、直接は関係なくても知ってもらうことは非常に重要なことです。枠組みづくりと言葉、どちらか一方だけでは組織は変わりません。その両軸で取り組むことで、横のつながりが強化された真のチーム医療が提供できるようになると思います。
ご存じの通り、これからの日本は世界に類を見ないほどの超高齢社会になっていきます。高齢者が多いのは決して悪いことではありませんが、若い人がいないのは題があります。この現実を嘆く一方で、子供が少ないことを自然に受け入れてしまっているのも考えものです。そのような社会の中で、医療の役割は大きく変わってきました。国は地域包括ケアを強く推し進めていますが、高度急性期・急性期を含め、私たちはあらためて病院の役割を見直さなければいけないと思っています。
緑に囲まれた病院
治療は急性期から始まり、手術や治療を行い、そして社会復帰へと向かいます。肝心なのは、急性期からの次の行き先をどう確保するのか。病診連携と理想をいいますが、それぞれの病院の方針や思惑などが阻み、システムの整備はなかなか進んでいないのが現実です。地域と一緒にどのようにしてケアの連続性を保っていくのかということが、これからの一番の課題だといえるでしょう。その実現のためには、いわゆるICT(Information and Communication)やIoT(Internet of Things)といった技術を活用していくことも大切です。だからこそ私たちは今、PHR(Personal Health Record)の開発にも着手しているところです。
今回お伝えしたようなさまざまなことに取り組んでいるのは、そのすべてが〝患者中心主義〞を貫き、あらゆる面で〝患者さんにとって便利な病院〞であることを目指しているからです。患者さん一人ひとりに病院全員で治療にあたり、結果はもちろん、そのプロセスにも満足してもらうこと。患者さんにとって一番の病院であるために、これからも努力を続けていきたいと思います。
埼玉医科大学国際医療センター 病院長
昭和52年東京医科歯科大学を卒業後、三井記念病院のレジデントや米国留学を経て、昭和60年埼玉医科大学第一外科に入局。埼玉医科大学国際医療センターの設立に携わり、現在は病院長として、研修時代に実体験し強く共感した「患者中心主義」を病院の理念に掲げ、既存の大学病院の概念を覆す体制を構築すべく尽力している。
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