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2019/1

これからの先進医療のあり方を 医工連携に強みをもつ東北大学病院に探る(後編)

東北・北海道の中で最も古い大学病院である東北大学病院。医学と工学の連携に圧倒的な強みをもち、数々の医療機器を世に排出して、日本の先進医療の発展に大きく貢献してきました。「世界をリードする病院を目指す」と語る、東北大学病院病院長の八重樫伸生氏に、いかにして日本の医療の最前線に立ち先進医療を推進されてきたのか、そして現在、力を入れているのはどのような取り組みなのか、これからの展望とともにお話しいただきました。

八重樫 伸生

国立大学法人 東北大学病院 病院長

現場で医療ニーズを探索するための画期的な独自プログラムを展開中

前編はこちら

東北大学病院でも、「臨床研究推進センター(CRIETO)」を中心に、医療機器はもとより、創薬や再生医療も含めた研究開発が活発になっています。

▲アカデミック・サイエンス・ユニット(ASU)の様子

 

医療機器や医療システム、医薬品の開発に重要なのは、ユーザーのニーズをきちんと把握することです。自分の頭の中だけで考えても、いざ医療現場に持ち込んだときに「こんなものは使えない」となることはよくある話です。「もっと簡単に」「もっと小さく」といった要望は、医療現場の現状を徹底的に観察しないとわからないものなのです。

メーカーなどの企業や研究者を医療現場に受け入れ、画期的な医療機器や医薬品開発につなげる。それを実現しているのが、今、当院の最も特徴的な取り組みともいえる、「アカデミック・サイエンス・ユニット(ASU)」です。倫理的、法的なルールを整備したうえで、平成26年3月に第Ⅰ期プログラムが開始されました。参加企業の担当者は、職員や患者さんからもわかりやすいように黄緑色のユニフォーム着て、院内を見学します。看護師のミーティングに立ち会ったり、手術室を見学するなどし、私たちが何を行っているのか、今ある医療機器の何に困っているのか……院内の至るところで観察し、ニーズを探索しています。数ヵ月もすれば、100個、200個とニーズが見つかるので、その中から市場規模や実現性などを鑑みてセレクトしていきます。初回からまもなく5年が経過しますが、現在も次々と医療機器メーカーや材料メーカーから参加申し込みがあります。現場を観察でき、病院と一緒になって開発するという機会は、そうある話ではないですものね。

そしてもう一つ、国家的プロジェクトの「ジャパンバイオデザイン」という人材育成プログラムがあります。これは、スタンフォード大学とのコラボレーションによって実現したプログラムで、東北大学のほかに、東京大学、大阪大学が協定を結んでいます。医師、工学研究者、企業開発職などバックグラウンドがさまざまなメンバーによって構成された参加者は、フェローシップと呼ばれる10ヵ月に及ぶフルタイムプログラムに参加し、海外の講師や専門家の指導を受けながら医療現場のニーズを探り、その問題解決のためのコンセプトや事業プランを発表します。東北大学の場合、先んじてASUを独自に展開し、スタンフォード大学と協力しながらいろいろなことに取り組んでいたため、ジャパンバイオデザインの原型は、ある意味、東北大学にあるともいえるでしょう。

 

▲先進医療棟の高度救命救急センターに設置された、ハイブリッドER「iTUBE(※)」。CT、血管撮影装置、手術室機能を備えた初療室 ※Integrated Tohoku University Hospital Resuscitation Bay for Emergency patients

 

その他、平成30年2月には「先進医療棟」が完成。第一種感染症病室が宮城県で初めて整備され、高度・先進医療をより効率よく、安全性高く提供できるようになりました。また、平成29年4月に院内に設置した「個別化医療センター」では、がんゲノム医療を推進するとともに、希少疾患や難治性の疾患を中心とした個別化医療の提供を目指しています。

東北大学・東北大学病院の研究者や医療職からの発信と、企業との連携の両軸で生まれる新しい医療機器・材料や医薬品。そして、それを世に送り出すための医療現場のサポート。こうした体制や、新しい試みを次々と打ち出す姿勢があるからこそ、当院の先進医療は、他の追随を許さないレベルになっていっているものと自負しています。

 

先人たちの叡智と伝統を受け継ぎながら世界をリードする病院を目指したい

私は、「研究は、ナンバー2ではダメ」と、常々考えています。誰も成し遂げていないこと、誰も知らないものを作らないと、おもしろくないですし、そもそも誰もよしとはしません。研究者はみな、独創的な研究成果を目指して日々取り組んでいるわけです。当院の5つの基本理念の中には「着実かつ独創的な研究の推進」という理念があります。画期的なアイデアや発見というものは、毎日の積み重ねから生まれ、独創性もまた日々の努力で養われ、その結果、よそにはないものが生まれるのだと思います。着実に、一歩一歩、地道に。まさに、東北人らしさを表している言葉です。

東北大学の長い歴史の中では、そうした研究姿勢や独創性、そして偉大な研究そのものが、先人たちから今に、脈々と受け継がれています。例えば、先天性の疾患の治療法を開発したら、開発までで終わりにはせず、その後も子供が育って大人になるまで経過を見守っていく体制が東北大学病院にはあります。教授・診療科長が代わっても、教室の伝統を受け継いで患者さんに寄り添っていくこの姿勢こそが「先進医療の推進と患者さんにやさしい医療の調和」だと考えています。

こうした伝統を受け継ぐことを大切にすると同時に、今後も、これまで以上に先進医療に重点をおいて取り組んでいきたいと考えています。私の夢は、東北をアジアのシリコンバレーにすることです。アメリカ・カルフォルニア州のシリコンバレーには、世界中から人やモノが集まってきており、スタンフォード大学が中心になって医療機器開発が盛んに進められています。アジアの人と日本人は遺伝子構造的に似ているところがあるでしょうし、モノの考え方や生活スタイルも共通する部分があると思います。すると、疾患の発生傾向も似ているはずです。アジア各国の医療の質向上に貢献するような新たな医療技術を当院から発信し、アジアを、そして世界をリードしていけるよう、さらなる飛躍を目指していきます。

八重樫 伸生

国立大学法人 東北大学病院 病院長

昭和59年東北大学医学部卒業、八戸市立市民病院を経て、
東北大学医学部附属病院産婦人科入局。
米国フレッドハッチンソンがん研究所留学等を経て、
平成12年に東北大学大学院医学系研究科教授に就任。
平成27年4月より現職。専門は産婦人科。

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