2015年4月に本格運用が始まったDiNQL(ディンクル)。労働と看護の質を向上させるためのデータベース事業で、現在、全国521病院、3,996病棟が参加しています。その概要やメリットについて、日本看護協会理事の川本利恵子さんに伺いました。
2016/1
2015年4月に本格運用が始まったDiNQL(ディンクル)。労働と看護の質を向上させるためのデータベース事業で、現在、全国521病院、3,996病棟が参加しています。その概要やメリットについて、日本看護協会理事の川本利恵子さんに伺いました。
公益社団法人日本看護協会 常任理事
DiNQL(ディンクル/ Database for improvement of Nursing Quality and Labor)は、看護の質を向上させるために始まったデータベース事業です。
看護の質を上げるには、病院で働く看護職の方々が、長く安心して働けるような環境をつくることが欠かせません。そのため、労働状況、看護職情報、感染や医療安全に関する評価など、あらゆるデータを多角的に集め、比較・分析ができるシステムを構築しました。インターネット上で看護や医療に関する必要項目を入力すると、瞬時にレーダーチャートによるベンチマーク評価が確認できる仕組みです。時系列の推移表(折れ線グラフ)や散布図もあり知りたい情報がわかりやすい形で表示されるようになっています。
ベンチマーク評価:レーダーチャート
取り組みの成果が経時的に確認できる折れ線グラフ
散布図なら、比較対象施設の中でのポジションが確認できる
最大の特長は、結果だけではなく〝プロセス〞がしっかりと見えるところ。褥瘡や転倒・転落の発生率といった最終的な数字だけでなく、「なぜ発生率が上がったのか、または下がったのか」や「結果に至るまでにどんな取り組みを行ったのか」がわかるようなデータを網羅しています。
また、全国の病院を比較できるところもポイントですね。国立・私立といった設置主体の異なる病院を、これほどまで大規模に、客観的なデータという形で比べられるシステムは、ほかにありません。他病院や全国の中央値などと照らし合わせながら、自分たちの位置、強みや弱みを測ることができる。これまでわからなかったような事実が浮き彫りになることも多く、大規模なデータベースに参加する意義を感じていただけるシステムになっているものと思っています。
DiNQL事業の目標は、「看護に関する情報をデータ化することで、看護管理者のマネジメントを支援し、看護実践の強化を図ること」と、「政策提言のエビデンスとしてデータを有効活用し、よりよい看護政策の実現を目指すこと」。私たち日本看護協会が10年の構想を経て実現へとこぎ着けた、肝煎りのプロジェクトです。2012年に事業が始まり、1年間の検討期間、2年間の試行期間を経て、いよいよ今年度から本格運用へと移行しました。
2015年12月現在で、521病院・3,996病棟が参加中。さらに多くの病院にご参加いただき、データの充実とシステムのブラッシュアップを図っていきたいと考えています。
DiNQLには、「病院・病棟情報」「看護職情報」「褥瘡」「感染」をはじめとする、全8カテゴリー・136項目の評価指標が用意されています。これらの指標は、国内外の論文や、医師の団体ですでに使用されている評価項目などを参考にしながら策定してきました。
最もこだわったのが、〝看護の質〞に関する評価項目を過不足なく盛り込むこと。例えば、褥瘡に関するカテゴリーに「褥瘡ケアに関する研修時間」「研修への年間延べ参加者の割合」「定期的な褥瘡リスクアセスメント」などの項目を盛り込んで、現場で働く看護の現状・課題・対策が見えるような構造になるよう心がけました。
さらに、全国133病院の看護部長からアンケートを取り、評価指標をブラッシュアップするという試みも行いました。いくら役に立ちそうな評価項目でも、データが取りにくかったり、現場の看護職がほしいと思う情報とズレがあったりしては意味がありませんからね。アンケートの結果、「チームケアカンファレンスに関する項目を入れてほしい」との意見が集まり、新たに項目を追加するなどということもありました。病棟の最前線で活躍されている皆さんの生の声によって、より看護職に身近な指標ができ上がったと実感しています。
136項目の評価指標と聞くと、「多いな」とか、「そんなに入力できるかな」と不安に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、必須の入力項目は11項目だけです。説明会などもありますので、まずは気軽にご参加を。データの有用性とその可能性に触れていただけると幸いです。
数あるDiNQLの機能の中でも特徴的なのが、「Webアンケート機能」です。事前に了承をいただいた病院にアンケートをお願いし、Web上で回答していただくというもので、看護政策の迅速な実現を目指して、必要時のみに運用しています。
例えば、今年6月に実施した認知症に関するアンケート。これは「認知症の患者さんが増え、ケアに手を取られてしまって本当に困っている」「でもなんのデータもなく、現状を把握することも、改善を要求することも叶わない」という看護職の悲鳴のような訴えを受けて実施しました。たった2週間で126病院・587病棟からの回答が集まり、その関心の高さに驚いたことを覚えています。
調査の結果、1病棟あたりの入院患者数(中央値)41人に対して、65歳以上の認知症患者が二人いることがわかりました。「診断はされていないが症状はある」という方を含めると、なんと7人もの認知症の患者さんが。これに対して夜勤の看護職員数は3人と、圧倒的に人手が足りない状態が浮かび上がったのです。私たちにとっても衝撃的な数字で、結果を見て「すぐになんとかしなければ!」という強い危機感をもちました。早速、国にデータを提示し現状を伝えて、「有効なケアを行っている病院に加算してほしい」と要望を出しています。「エビデンスを活用して政策提言を行う」という目標の第一歩を踏み出すことができ、非常に意義深い取り組みになりました。
後編では、データの〝見える化〞がもたらす、大きな変化などについてお話いただきます。
公益社団法人日本看護協会 常任理事
【略歴】
2007年
山口大学大学院 医学研究科 博士課程
2012年
厚生労働省 緩和ケア推進検討会、日本看護科学学会 評議員・理事
2013年
厚生労働省 厚生科学審議会
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