医療・介護の連携を見据えた地域包括ケアが進む中、薬剤師にも在宅業務を中心とした地域と密接にかかわる医療の提供が求められています。処方せん調剤を受けるだけではなく、より患者さんに寄り添う薬局であるためにはどのような取り組みを進めるべきなのでしょうか。日本薬剤師会 常務理事の有澤 賢二氏にお話をうかがいました。
2016/2
医療・介護の連携を見据えた地域包括ケアが進む中、薬剤師にも在宅業務を中心とした地域と密接にかかわる医療の提供が求められています。処方せん調剤を受けるだけではなく、より患者さんに寄り添う薬局であるためにはどのような取り組みを進めるべきなのでしょうか。日本薬剤師会 常務理事の有澤 賢二氏にお話をうかがいました。
日本薬剤師会 常務理事
前編では主に訪問薬剤師についてお話いたしました。後編では在宅医療だけでなく、広く地域住民の健康を支援するため、薬局に何ができるかを考えていきます。
「健康サポート薬局」のあり方の検討結果を受けて、厚生労働省では「患者のための薬局ビジョン」を公表しました。「健康サポート薬局」の公表制度は2016年2月中に公布され、4月以降に施行される予定です。
「健康サポート薬局」とは、かかりつけ薬局の機能に加え、地域住民の健康の維持・増進を積極的に支援する薬局です。患者さんから一般用医薬品の相談を受けるほか、健康相談を受けた場合の各病院への受診支援など、幅広い健康に関する相談の窓口としての機能が求められます。薬剤師が調剤をしたり、説明をしたりするのは当たり前。薬局は一段階上の業務の提供を考えていかなければなりません。
健康サポート薬局に常駐する薬剤師には、経験と能力、そして患者さんからの信頼があることが求められます。患者さんは人には言いにくい問題を抱えている方もいらっしゃいます。それらを引き出すためにも、薬学的知識以外に経験とコミュニケーション能力なども必要となってくるのです。
処方せんを持たないで薬局に来た相談者に対して、どのような対応をしたかアンケートを取ったところ、「『病院の受診を勧める』以上のアドバイスをすることはなかった」という回答の割合が非常に多い結果となりました。
このように、相談者にとってもっと身近で適切な提案ができなければ、健康サポート薬局とは言えません。もちろん、単なる口内炎にも悪性の潰瘍につながる場合がありますから、一般医薬品で治るものなのか、医師の診療が必要なものなのか、薬剤師としての経験と知識を持って適切な判断からアドバイスを行うのが薬剤師ならではの健康支援と言えます。相談者が受診か一般の医薬品のどちらの治療を選ぶか、薬剤師は強要することはできませんが、最適な選択肢と方向性を提示することはできるでしょう。その“多くの選択肢を提供”して相談者が適切に選択できる提案を行うことが、健康サポート薬局の薬剤師としての役割と思います。
来局者自身が毎日の運動などの健康活動をしたり、風邪のひきはじめに一般医薬品を飲んで治したりなどのセルフケアの支援も健康サポート薬局・薬剤師の役割のひとつです。適切な支援をして相談者自らのセルフケアを支援することで、自己管理のできる相談者に有利な政策を推し進めていく、具体的には医療費を控除するという提案もあります。医療費が安くなるのであれば、病院の受診でなく薬局で薬を買って済ませる患者さんも増え、今後さらに薬局の重要性が増すと考えられます。
実は、健康サポート薬局になっても調剤報酬で評価がされるわけではなく、直接の利益となることはありません。しかし、ただ処方せんの調剤を専門とする薬局ではなく、気軽に相談に乗ってくれ、丁寧で適切なアドバイスを行う薬剤師のいる薬局を目指すべきと考えます。患者さんに「選ばれる」薬局になるには、在宅訪問薬剤師の業務も含め、薬局自体が変わっていかなくてはならない状況にあるのです。
「職場や自宅、医療機関から近いからその薬局を利用する」のではなく、薬局利用者自身がこの薬剤師になら任せられると頼っていただけるように、地域に貢献し、地域住民の生活に踏み込んだ薬局業務を、私たち薬剤師も提供していけたらと思います。自分の健康を管理するうえで有用であるという目線で選んでいただけるような、薬局づくりを広めていきたいですね。
日本薬剤師会 常務理事
【略歴】
1987年
北海道薬科大学薬学部薬学科卒業
2010年
一般社団法人北海道薬剤師会副会長
2010年
㈱メディカルマネッジ・ケン代表取締役
【所属学会】
日本薬史学会
日本医薬品情報学会
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