医療・介護の連携を見据えた地域包括ケアが進む中、薬剤師にも在宅業務を中心とした地域と密接にかかわる医療の提供が求められています。処方せん調剤を受けるだけではなく、より患者さんに寄り添う薬局であるためにはどのような取り組みを進めるべきなのでしょうか。日本薬剤師会 常務理事の有澤 賢二氏にお話をうかがいました。
2016/2
医療・介護の連携を見据えた地域包括ケアが進む中、薬剤師にも在宅業務を中心とした地域と密接にかかわる医療の提供が求められています。処方せん調剤を受けるだけではなく、より患者さんに寄り添う薬局であるためにはどのような取り組みを進めるべきなのでしょうか。日本薬剤師会 常務理事の有澤 賢二氏にお話をうかがいました。
日本薬剤師会 常務理事
団塊の世代が高齢を迎える2025年に向け、厚生労働省では各市町村で地域包括ケアの体制を整えるように施策を進めています。すべての医療・介護従事者に考えてほしいのは、2025年は高齢者の人口が増加する一方で、高齢者を支える世代が減少する始まりの年にすぎず、さらに先には2035年、2045年の医療・介護がどのように提供されていくかを考慮しなくてはなりません。2025年までに地域包括ケアを構築し、その時点で医療・介護の連携ができればよいわけではないのです。そうした医療・介護の需要過多の時代に備えるために、医療・介護・調剤の各制度や報酬体系の適時改正を行い、厚生労働省はさまざまな改革を図り、政策誘導していく方針です。
薬局に関しても、2015年度は地域包括ケアの準備の年として、さまざまな検討がなされてきました。特に、2015年10月に厚生労働省から公表された「患者のための薬局ビジョン」では、国民の病気の予防や健康支援を行うための「健康サポート機能」を有する、かかりつけ薬局が各々の地域に展開すべきと示されています。薬学的管理機能を果たすために「服薬情報の一元的・継続的把握」「医療機関との連携」「24時間対応・在宅対応」の3つを柱として挙げ、「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へと薬局のあるべき姿が示されています。
しかし、薬局の現状を見ると、残念ながら患者さんに寄り添う調剤というよりも、処方せんをお持ちの患者さんに処方通りの薬を提供するだけの業務に見受けられがちです。医薬分業が進むことで、患者さんの健康支援が深まるという地域密着型医療に期待をされていましたが、必ずしも薬局はこの役割を果たせていなかったのです。
こうした現状を踏まえ、日本薬剤師会では、かかりつけ薬局やかかりつけ薬剤師が地域により密着した業務を提供することが重要だと考えています。そこで、推進されているのが「健康サポート薬局」という薬局・薬剤師の本来のあるべき姿です。今後増加する在宅医療の現場での薬剤師の役割について、前編・後編の2度にわたりお話してまいります。
地域包括ケアが構築されるにつれ、薬剤師にも在宅療養中の患者さんを訪問するなど、在宅医療の現場でも活躍が見られるようになりました。訪問看護・介護のサービスが浸透してきたため、薬学的管理を担う薬剤師も在宅医療に携わる機会が多くなりました。入院療養から在宅療養への転換が推進されつつある中で、今後の薬局業務は病院内のチーム医療と同じように地域多職種と連携をして在宅療養向けの医療を提供していかなければなりません。
在宅(居宅)訪問薬剤師の役割は、処方された薬を患者さんに届けるだけではありません。薬局と同様に薬の説明や飲み方の指導をするのも大切な業務のひとつです。薬局での処方には、ご家族が薬を取りに来ることも多く、直接患者さんにお会いする機会は少ないでしょう。一方、訪問の場合は直接患者さんの様子や生活環境を見ることができます。訪問薬剤師自身の目で患者さんの生活や薬の服薬状況を見て、処方医師と連携して薬を調整することもできるのです。例えば、薬の飲み残しがないか、副作用の兆候がないかをチェックし、必要に応じて剤形の変更や薬剤を加工するなど、医師に処方提案することができます。こうした薬剤管理は看護師にも不可能ではないですが、在宅医療では疼痛ケアに麻薬などの専門的な薬剤を扱う場合もあり、薬剤師の専門的知識が必要となります。
その他、患者さんのご家族にも薬に関する知識を丁寧に説明したり、文書にまとめて提供したりと情報を共有することも大切な業務です。
これまで、薬剤師が患者さんのお宅に訪問する機会は、あまりありませんでした。在宅訪問薬剤師という在宅業務に、積極的に取り組む薬剤師も多くなかったようです。そのような中でも、多職種との連携が行われ在宅医療が進む今、在宅訪問を行う薬剤師の例も少しずつ増えてきています。
各地域の薬剤師たちは、先行事例を参考に自分の地域の特色に即した医療の提供方法を探っていくのですが、在宅医療を取り巻く環境は地域ごとに異なるため、ある地域では成功した事例でも、別の地域ではうまくいかないことがあります。例えば東京と北海道では、人口密度も薬局の軒数、また交通事情など、在宅医療を行うための条件が大きく異なります。さまざまな要素をもとに多職種と連携をはかり目指すべき業務のあり方を探っていくことが必要なのです。
よりよい在宅医療を提供するためには、患者さんとご家族、看護師、介護士、ケアマネジャーなど、ケアに関わる人々の連携が欠かせません。それぞれの専門職が自分の分野の情報を集約し、それをもとにケアマネジャーが分析・整理を行い、各職種にフィードバックします。
もっとも単純で確実な情報共有の方法は、患者さんのご自宅に設置した情報共有ノートでのやり取りです。各職種が訪問した際、気づいた点をそれぞれノートに書き込みます。患者さんに関わるすべての職種がこのノートを見て、患者さんの状態を把握するためのものです。
例えば、薬剤師が「薬の飲み残しがある」ことに気付いたら、このノートを使い看護師、介護士に服用状況の観察を依頼します。ノートを見た看護師や介護士は、食事の時に患者さんにお声掛けをしたり、服用の様子を見たりして「薬の数が多いから飲み残してしまった」という原因を突き止めます。薬剤師は、その理由をもとに解決法を探ります。「血圧の薬を配合剤に変更」「口腔内崩壊錠に変更」など、薬の数を減らす策や飲みやすくする策を検討、医師に提案します。こうして情報を共有しながら薬物治療の改善を進めていくのです。
医師・看護師と薬剤師の情報共有は、比較的容易ですが、介護従事者と医療従事者間では専門用語に差異があり、共有の難しさを感じます。しかし、それらを乗り越えて連携を取り合うことは非常に大切です。小さな気づきをチームで共有・改善することで、患者さんによりよいケアを提供することができるのです。
各職種の連携は、都道府県や市町村単位で医師会、薬剤師会などの職務団体を中心に行なわれます。ある市町村では、各職種を一同に集め、地域包括ケアに関するグループワークやシンポジウムを行うなど、お互いの知識を用いて課題を解く研修活動を進めています。こうした活動の中で、各職がどの領域でどのような働きができるのかをお互い理解しておけば、現場でもスムーズに動くことができるでしょう。
私たち薬剤師は薬のプロフェッショナルですから、薬のことはどのようなことでも聞いてほしいし、気づきがあればどんどん教えていただきたいです。特に患者さんに触れる機会の多い看護師、介護士は、ケアの最中に気づきを得ることも多いですから、キーマンとして非常に期待をしています。集めた情報をチームで共有し、どうしたらいいか話し合いながら、患者さんに適したケアを皆で探っていければと思います。
後編では、広く地域住民の健康を支援する「健康サポート薬局」についてお話いただきます。
日本薬剤師会 常務理事
【略歴】
1987年
北海道薬科大学薬学部薬学科卒業
2010年
一般社団法人北海道薬剤師会副会長
2010年
㈱メディカルマネッジ・ケン代表取締役
【所属学会】
日本薬史学会
日本医薬品情報学会
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