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2019/4

認知症の村“Hogewey”の知恵を日本で応用 施設から地域ぐるみのケアへ

高齢化が急速に進む日本では、2025年には認知症患者が推定700万人に上ると言われています。認知症患者の増加に備えて、医療・介護の現場ではどのような認知症ケアを確立することが求められるのでしょうか。今回は、東京医科歯科大学医学部附属病院、看護部長の川﨑つま子氏を取材。今の日本の認知症ケアの現状と課題、そして川﨑氏が訪問されたオランダの痴呆の村“Hogewey”(ホグウェイ)から、これからの日本で実践していくべき認知症ケアについてお話しいただきました。

川﨑 つま子

東京医科歯科大学医学部附属病院 副病院長 看護部長

日本でもホグウェイは実現する!? 地域でつくる見守りの形

前編はこちら

とても魅力的なホグウェイの取り組みですが、ホグウェイの型をそのまま日本に持って来ればよいのでは? というと、それは少し違うのではないかと私は思います。日本でホグウェイのような村を建設しなくても、同じような環境を作り出すことはできるのではないかと思うからです。日本は昔から地域のコミュニティをとても大切にしている国ですよね。つまり、ホグウェイの環境を地域で展開すればよいのです。東京で期待するのは難しいかもしれませんが、地方ではすでに、地域内での高齢者の見守り体制を徹底しているところも出てきています。

以前発生した広島豪雨の際、ある地域では全く行方不明者などの被害が出なかったというニュースがありました。よくよく調べてみると、その地域では、どこにどのような状態の高齢者が住んでいるのかを把握しており、災害などが起きたときは、誰がどこの人に声をかけるかを、しっかりと取り決めていたそうです。まさに、これが「地域ぐるみの見守り」だと思います。

また、例えば新オレンジプランの認知症サポーター研修を地域全員が受けていれば、コンビニで働いている方も、ホグウェイのスタッフ同様の見守りの一人になります。そうすれば、買い物に来た時の目の配り方も違ってくるはずです。こうした、「地域全体で見守る」という仕組みがもっと広がればよいなと思います。見守る側の人たちが認知症のことをしっかりと学び、理解していれば、患者さんは最後の瞬間を迎える直前まで、住み慣れた場所で生活することができるのではないでしょうか。

世界各地で高齢化が進む中でも、日本はその先頭を切っている国です。私は日本の看護師や介護士による高齢者のケアは、世界中が注目しているトピックのひとつだと思っています。「日本の高齢者の方々は素敵なケアを受け、幸せに暮らしている」ということを発信できるように、看護師・介護士の皆さんは日々のケアに当たっていただけたら嬉しいですね。そのためにも、まずは患者さん、施設利用者さんの残された人生が少しでも幸せなものとなるようなケアを大切にして欲しいと思います。

 

医療現場に起こる変化 認知症患者さんの尊厳を守るケアへ

▲ホグウェイの街は全体的に穏やかでゆったりとした雰囲気

日本では、2015年1月に「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」が策定されました。これは、「認知症の方の意思を尊重し、できる限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けられる社会」をめざして、厚生労働省が打ち立てたものです。中でも、「認知症サポーター」には約90分の研修を受けるだけで登録することができ、その数は、2018年12月時点で約1100万人に上りました。世間的に認知症への関心が高まっていることを感じています。

また、医療現場でも少しずつ変化が表れています。金沢大学附属病院では、2016年に身体抑制をとりやめ、丁寧なケアの充実を宣言されました。患者さんの尊厳を守るケアに力を入れ始める医療施設も、今後増えていくでしょう。このような丁寧なケアを、看護師をはじめとしたケアに関わる皆が心がけていけば、患者さんからの拒否反応も減り、結果的にケアにかかる時間が短くなることも多くなるはずです。

これは前編でご紹介した、「自然な介護」を実践するホグウェイの認知症ケアに、大きく通ずる部分だと思います。ホグウェイの認知症患者はとにかく穏やかで、暴言・暴力とは程遠い療養生活を送っているように感じました。介護側の都合を押し付けたケアではなく、患者側の意思を理解し、尊重した自然なケアが患者さんをおだやかにしているのだと思います。

まだまだ多くの医療現場で、自身の忙しさからつい粗雑な対応をしてしまうという看護師も多いのではないでしょうか。私たち看護師の対応の仕方によって、患者さんの姿勢に必ず変化が起こるはずです。まずは、私たちのケアを患者さんに「理解してもらう」姿勢ではなく、患者さんを「理解しよう」という姿勢でケアに当たってみるとよいかもしれません。

川﨑 つま子

東京医科歯科大学医学部附属病院
副病院長
看護部長

1978年、国立埼玉病院付属看護学校を卒業後、国立医療センター(現在の国立国際医療研究センター)に勤務。1991年から赤十字病院系列へ。赤十字病院の幹部研修にて「赤十字の諸原則」に出会い、黄金律(ゴールデンルール)を知り、赤十字の魅力に惹かれる。2008年から2011年まで小川赤十字病院の看護部長を務めたのち、2011年から足利赤十字病院看護部長に就任。2014年に東京医科歯科大学医学部附属病院看護部へ。2016年より、現職に至る。

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