今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第193回 2019/05

「介護者も支援されるべき存在」 ケアマネや介護福祉士の力が不可欠に

大切な家族を懸命に介護する介護者。彼らの苦しみや悩みに気づき、支援するにはケアマネージャーや介護福祉士の働きがとても大切です。今回は、日本福祉大学 社会福祉学部社会福祉学科教授で、「認知症の人と家族の会」愛知県支部で介護者支援にも取り組む湯原悦子氏を取材。家族の介護に悩む方々を、ケアマネージャーや介護福祉士などの福祉従事者がどのように関わり、支えていくべきなのかをお話しいただきました。

日本福祉大学 社会福祉学部社会福祉学科 教授
湯原 悦子 氏

日本福祉大学

アセスメントシートを有効活用し
介護者家族の状況を把握

前編はこちら

介護に苦しむ家族を救うためには、ケアマネージャーの気づきや働きがとても重要です。しかし、ここには大きな懸念点があります。ケアマネージャーは介護保険法上の職種です。この介護保険法は「要介護者の自立支援」を定めたものであるため、本来、ケアマネージャーに家族支援までを求めるのは、業務範囲外なのです。ですから、私もケアマネージャーを対象とした研修をする際は、「皆さんのメインの業務ではないけれど、ご家族が苦しい状態にあると良い介護もできません。ですから家族の方にも目配りをするようにしていますよね?」という話の仕方を、あえてするようにしています。業務外のことを強制するわけにもいきませんからね。しかし、ケアマネージャーの中でも、家族全体を見て、要介護者だけでなく介護者も支援しなければならない、というソーシャルワーカーのような視点をお持ちの方は本当にたくさんいらっしゃいます。
 
特に、こうした視点をもつケアマネージャーに向けて、私が作成したのが「介護家族からケアマネージャーに伝えたいこと」という、介護家族に答えていただくアンケートです。これは、厚生労働省の『家族介護支援マニュアル』に掲載されています。目的は、介護者の気持ちをケアマネージャーに知ってもらうこと。介護を始めてからの要介護者との人間関係の変化や、自身の生活、体調や、介護を手伝ってくれる人の有無、負担に感じていることなどをとにかく細かく聞くように意識して作成しました。普段のやり取りで、「何か負担なことはありますか?」と聞いても、考え込んでしまう方も多くいらっしゃいます。しかし、こうしたシートで介護の現状、介護者の状況を細かくお聞きすれば、皆さんも答えやすくなるのではと考えました。
 
また、このシートは介護者の状態を把握するためにも活用してほしいと思っています。特に一般の介護者に注意すべきなのが「うつ」と「孤立」です。前編でも述べたように、男性介護者の増加により、孤立する介護者の増加も課題となっています。さらに、うつは介護殺人を起こしうる最も危険な状態です。介護者側が発信できない、ご自身でも気づいていない症状をケアマネージャーが認識するためにも、このシートは有効だと思います。
 
そして、もう一つ大切にしたことが、このシートを、あくまでも「ケアプランの作成に役立てるためのアセスメント」という位置づけにしたことです。こうすることで、本来、業務範囲外である介護者への支援に、ケアマネージャーの業務範囲内で目を向けられるような仕組みにしました。介護者の現状も把握することで、より適切なケアプランが作成できるのではと考えていますので、ぜひご活用いただけたらと思います。

直接的なケアが得意な介護福祉士には
家族全体を捉える社会的な視点が重要

もちろん、ケアマネージャーだけではなく、介護福祉士の方にも介護者を支援するための重要な役割があります。
 
介護福祉士は、要介護者への直接的なケアを学んでいる方が多いので、要介護者本人の気持ちの把握やケアというところは、とても長けています。ですから、介護福祉士の中には、介護に積極的ではない家族のことをよく思わない方もいらっしゃいます。要介護者本人を大切に思うがあまりの行動だと思いますが、「あの家族は介護をしてくれない」という不満だけでは、状況は変わりません。介護ができない理由や、家族ができないところをどうカバーしていくか、という発想をもって日々のケアに当たるとよいと思います。
 
介護をしている家族の支援となると、社会的な視点や、家族全体をとりまく環境に対する視点が必要になります。場合によっては、家族と地域包括センターをつなぐ役割を積極的に担ってください。要介護者本人の支援は介護福祉士が担い、ご家族などの介護者側の支援には包括センターが取り組むという、いわばチームのような形で取り組むことができれば、要介護者もその家族も、よりよい介護生活を送ることができるのではないでしょうか。

介護者への支援に積極的に取り組む
支援団体や地域の活動とは

介護者を支援する直接的な法律などはないものの、全国には独自に活動している団体や地域が多くあります。
 
私の所属している、「認知症の人と家族の会」愛知支部では、家族支援を研究しているチームがあり、ケアマネージャーが介護家族支援で悩んだ事例を持ち寄って、『ケアマネ応援!!自信がつくつく家族支援―介護家族のアセスメントと支援』としてケアマネージャー向けの本を出版しています。一人でも多くのケアマネージャーに介護家族支援に目を向けていただくことはもちろん、実際の支援にも役立てていただけたらと思っています。
 
また、地域ぐるみで介護者支援に積極的に取り組んでいるところも、北海道の栗山町や東京の杉並区などをはじめ数多くあります。中でも、私がとても参考になる形だと感じたのが、岩手県花巻市の介護者支援です。
 
花巻市では、2010年に62歳の息子が93歳の父親をなぐり殺すという介護殺人が起こりました。これを機に行政が市全体の介護者にアンケート調査を実施。すると、苦しんでいる介護者が想像よりも多くいることが判明したのです。そこで花巻市では、介護者のお宅まで在宅ケアラーが訪問するアウトリーチ型の支援体制を設け、早速、介護者支援に乗り出しました。介護者の話を聞き、場合によっては話を持ち帰り、行政で改善策を考えるという仕組みで介護者を支えています。私がぜひ参考にしたいと思ったところは、行政側から介護者へ出向くという形を取っている点です。「介護者サロンや介護教室などに人が集まらない」と、悩んでいるお話もよく聞きますが、介護者が来てくれるのを待つのではなく、支援する側からうかがえばよいと思います。


今回、さまざまな取り組みをご紹介しましたが、高齢化がますます進行する日本で、最も大切なのは、「介護者は支援される存在である」ということを世の中が認識することだと思います。これは、人々が介護者のことを支援が必要な存在として見ていないことと、介護者自身が「自分は支援される立場ではない」と思い込んでいることが一番の原因です。
 
ですから、ケアマネージャーや介護福祉士の方が、それに気づかせてほしいのです。まずは「あなたも大変でしょう。大丈夫ですか?」という一言を介護者にかけてあげてください。声をかけられた介護者が、自分の話をするきっかけができて大きく救われたという話を何度も聞いたことがあります。あなたのことも気にかけているんだよ、支援されるべきなんだよというメッセージを、伝えてあげてください。その一言が、介護者支援の大きな一歩となるはずです。

湯原 悦子氏
 
日本福祉大学社会福祉学部社会福祉学科教授。研究分野は社会福祉学、司法福祉。
1992年名古屋大学法学部卒。2003年日本福祉大学大学院社会福祉学研究科修了。社会福祉学博士。2001年4月~2003年3月日本学術振興会特別研究員。2008年4月~2009年1月メルボルン大学文学部犯罪学専攻在籍。主な著書に『介護殺人―司法福祉の視点から』(2005年、クレス出版)、『介護殺人の予防-介護者支援の視点から』(2017年、クレス出版)など。
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