今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第195回 2019/07

生活の場だからこそ、長く続けられる仕事がある。介護施設が障がい者雇用に取り組む意義

障がい者がごく普通に地域で暮らし、地域の一員としてともに生活するために、すべての事業主には法定雇用率以上の割合で障がい者を雇用する義務があります。平成30年4月より施行されている障がい者の法定雇用率は、民間企業で2.2%と、従業員45.5人以上の企業は、障がい者を一人以上雇用しなければなりません。常に人と向き合う介護施設における障がい者雇用は、一般企業に比べると難しい印象がありますが、社会福祉法人アゼリヤ会では、30年以上にわたって障がい者雇用に自然な形で取り組み、高い定着率を実現してきました。現場で看護師として働きながら、障がいを持つ方々をサポートしてきた同法人理事長の稲垣瑞恵氏に、障がいをもつ方と働く中で生じた現場の課題と対応策、そして介護施設における障がい者雇用の意義について、お話をうかがいました。

社会福祉法人アゼリヤ会
理事長
稲垣 瑞恵 氏

社会福祉法人アゼリヤ会

得意なことを生かし、役割を与えることで、自信につながる

前編はこちら

アゼリヤ会では、現在障がいを持つ二名の方を雇用しています。視覚障がいを持つマッサージ師の男性と知的障がいを持つ清掃担当の男性で、二人とも八王子市にある特別養護老人ホームで働き、勤続30年近くという大ベテランです。
 
マッサージ師の方は、平成2年から常勤として働いてもらっています。マッサージ師の資格を持ち、常勤ということもあって、視覚障がいがあったとしても、現場は高いレベルのものを求めます。もちろん自分のやるべきことに一生懸命取り組んでいますが、「もっと専門性を生かしてほしい」といった職員からの期待の要望があるのも事実。とはいえ、一朝一夕にはいかないのが実際のところです。
 
彼はコミュニケーションが苦手で、自分がやったことを他の職員に伝えることができません。
 
そこで、職員の中でチームをつくり、まずはチーム内で彼の動きや利用者さんの状況を共有し、チームのリーダーがそれを全体に周知するというシステムで動くようにしました。苦手なところを改善しようとする時に焦りは禁物。同じことを繰り返し伝えながら、徐々に行動につなげてもらうことが大切です。その甲斐あってか、朝礼などでも少しずつ自分の思いや考えを発言できるようになってきました。
 
もちろん苦手なことばかりではなく、特技もあります。例えば、集団リハビリでの声かけはとても上手で、いつも場を盛り上げてくれます。「すごくはっきりした大きな声でよかったね」と言うと、笑顔になり自信を持って頑張っています。
それから、職員会議の中で、日頃の生活のしづらさについて感じていることを話してほしいと振ってみると、あふれるほどの考えや思いが出てきたんです。日々実感していることについて自分の考えもしっかりと持っています。でも、求めすぎると負担になったりするので難しいですがそこのバランスを見極めることも大切だと思います。
 
一つ言えるのは、その方のいいところを見つけて役割担ってもらうことで、自信につながっていくということです。得意なことも苦手なことも知ったうえで、一歩踏み込んで、徐々に関係性をつくっていく。ゆっくり距離を測っていくことが大切です。

コミュニケーションは苦手でも、無垢なやさしさは伝播する

障がいを持つ方に共通しているのは、生活のしづらさを日々実感しているので、人にとてもやさしいということ。特別養護老人ホームには、認知症の利用者の方がたくさんいますが、二人とも、利用者の方とトラブルになったことは一度もありません。本当に不思議ですね。利用者さんの中には、職員に厳しい目を向けて、介護への拒否が強い方もいますが、なぜか彼らには厳しいことを言わないんです。
 
清掃担当の方は気遣いも人一倍で、いつも同じペースで掃除をしたいというこだわりがあるにも関わらず、その場所で誰かが何かをやっていたら、そこは後回しにしたりと柔軟に対応できます。周りを優先しようという気持ちがあるので、邪魔をすることも一切ありません。マッサージ師の方も、利用者さんを上手に励ましたり、悩みを聞いたりすることは難しいものの、相手を怒らせるような言動は決してとりません。
 
一方、これまでに困ったこととして真っ先に思い出すのは、迅速な対応が求められる場面で的確に対応できなかったことです。ある日、清掃担当の方が、仕事中に指をざっくり切って、血をダラダラ流しながら医務室に来ました。ケガをした場所や状況など、詳細がわからないと労災を申請することができないのですが、本人に聞いてもはっきりしません。「ちゃんと言ってもらわないと、私もあなたもすごく困るよ」と情に訴えかけるように伝えると、ようやく怪我をした場所に連れて行ってくれて、「ここ」と指し示してくれました。このように正しい情報を瞬時に得たい場面では、なかなか対応が難しいのですが、相手が困っていたり、泣いていたりすると、「助けないといけない」という気持ちになって、行動に移してくれることがわかりました。

日々の温かい声かけが、安心して働ける環境をつくっていく

人と向き合う介護の仕事は柔軟な対応が求められる場面が多く、障がい者雇用が難しいと言われることもあります。しかし、介護施設は生活のための施設であり、朝起きてから寝るまでの間にいろいろなことがあります。一般企業なら、ある程度のスキルや資格がないと仕事にならないかもしれませんが、生活の施設は業務の幅が広く、洗濯、掃除、窓拭き、庭の草むしりと、枚挙にいとまがありません。生活の施設だからこそ、何だって仕事になるんです。だから、得意なことや長続きすることが見つかりやすいと思います。
 
これまでを振り返ると、障がいを持つ方が落ち着いて働き続けるためには、日々の声かけが大切だとつくづく感じます。こちらが声をかけることで、今どういう状況なのかが理解でき、安心してその環境にいられるんです。私が看護師として現場にいた頃、忙しくてドタバタしていても、嫌がることなく自然とそばにいるんですよね。こちらが「受け入れてるよ」というサインを出し続けて、それを感じ取ってくれさえすれば、必ずそこには長くいられると思います。逆に「なんで来たの?」「今日は忙しいから無理」と素っ気ない言葉や態度を出していると、すぐに来なくなくなります。一番してはいけないのは、情報を一切与えないこと。そういう意識は職員みんなで共有し、日々徹底しています。

障がいだけでなく、多様な生きづらさを抱える人たちを支援していきたい

アゼリヤ会では、障がいを持つ方の雇用だけでなく、就労支援にも取り組んでいます。八王子市に東京都立南大沢学園という軽度の知的障がいを持つ生徒さんが通う特別支援学校があります。二年前からそこの生徒さんを受け入れ、職場体験実習を行っています。みなさん楽しみながら実習を受けてくれるので、希望さえあれば、そのまま働いてくれたらいいなと思っています。これは今後も毎年続けていきたいですし、もっとたくさんの生徒さんに来ていただきたいですね。頑張っている生徒さんに実習という形で関わっていくことが、職員にとってもいい勉強になっています。
 
また、働きたいけれど、働きにくい人を受け入れ、相談支援機関とともに支援をする「はたらくサポートとうきょう」という東京都地域公益活動推進協議会の広域の連携による取組みにも参画し、障がいを持つ二名の方を受け入れ、就労支援を行っています。こうした困窮者支援を地道に継続しながら、ゆくゆくは地域の障がいを持つ方々のサポートも行っていきたいと考えています。
 
高齢社会のなかで、障がいを持つ方々が長く続けられる仕事がますます求められてくるでしょう。そのニーズを満たすためにも、福祉の仕事の幅がもっと広がっていけばいいなと思っています。世の中には障がいを持つ方々への偏見が根強くありますが、私は障がいを持つ方々と関わることに最初から違和感がなく、その方のことをよく知って、行動一つひとつを理解すれば、一緒に働き、生活することができると信じてきました。
 
アゼリヤ会では、障がい者雇用は何ら特別なことではなく、ごく当たり前のこととして捉えています。多様な方々が社会の中で生活していることを理解しながら日々の支援にあたることは、人と関わる専門職としても大事なことだと考えています。これからも自然体を貫き、障がいを持つ方だけでなく、さまざまな生きづらさを抱える方々とも積極的に関わりながら、あらゆる支援を続けていきます。

稲垣 瑞恵氏

看護師資格取得後、国公立病院や一般病院で勤務する。
昭和63年4月に社会福祉法人アゼリヤ会入職。
平成21年6月~医務リハビリ科長
平成24年4月~施設長就任
平成26年4月~理事・施設長就任
平成29年6月~常務理事就任
平成31年4月~理事長就任、現在に至る
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