インタビューアーカイブ

2019/11

たった1年で、1.5倍の収益を達成! 社会福祉法人「小茂根の郷」の組織改革

特別養護老人ホーム、在宅サービスセンター(デイサービス)、訪問看護ステーションをはじめとした8つの事業を運営する社会福祉法人「小茂根の郷」。地元・板橋区に根差した活動を行い、地域の方々に愛され続け、いまでは、1,000人以上のボランティアが、その活動を支えてくれるまでに成長しました。なぜこれほどまで多くの住民を巻き込むことができたのか、どんな仕掛けや工夫を施していったのか……? 施設長の杉田美佐子氏に、住民と入所者がイキイキと関わり合う“活発な地域連携”のポイントについてお話いただきます。

杉田 美佐子

社会福祉法人 小茂根の郷 理事 施設長

収益を生む仕組みをつくり
介護職のスタッフを徹底的に育成した

小茂根の郷は、特別養護老人ホーム、在宅サービスセンター(デイサービス)、訪問看護ステーションをはじめとした8つの事業を運営する社会福祉法人です。私が着任した当時は、すべての施設がバラバラに運営されており、ほとんど連携していない状態でした。また、介護保険制度が始まる前の感覚・体制・意識からなかなか脱却することができず、支出ばかりが積みあがっていくという状態に。収益に見合わない人件費が当たり前のように支払われ、稼働率の低いベッドが放置されて、赤字が常態化しているような状況が続いていました。

そこで私が取り組んだのが、「お金の改革」と「人の改革」です。「お金の改革」として最初に行ったことが、特別養護老人ホームが行っていたショートステイを、ホテル仕様に切り替え、午前の部、午後の部に分け、7つのベッドを14と考えて稼働させました。あわせて取り組んだのがデイサービス事業の大型化です。認知症の方と一般の方を合わせ、最大で92名の方を受け入れる体制を整備し、収益を得るための土台づくりを行いました。

これらの仕組みづくりとともに実践したのが、人材の教育です。まずは介護保険制度の仕組みについて徹底的に説明し、仕組みそのものについての知識や理解を深めてもらいました。看護師をはじめとする医療職のスタッフは、新しい制度が始まるときや仕組みが変わるときなど、かなりしっかりと教育されます。また、教えられたことや取り組みなどを、エビデンスから理解としようとする習慣を持っています。一方、介護職のスタッフは、圧倒的に教育を受ける機会が少なく、そして、ものごとを「優しい」「嬉しい」「悔しい」などの感情で理解しようとする傾向が強いように感じました。感情から入る介護職スタッフに、介護保険の仕組みを理解させ、収支の感覚を身につけてもらい、ロジックに納得した上で実務を行ってもらうというのは容易なことではありません。研修などである程度の説明をしたあとは、「とにかく実践してもらうしかない!」と割り切り、一つひとつの事例に寄り添いながら「この場合はこうだよね」「こういう場合はどうしたらいい?」と、事細かに説明や問いかけをしていきました。そうこうしている間に、少しずつ介護保険を含むお金への理解が深まっていき、「入所希望者が待っている状況で空きベッドをつくることがどれほどもったいないことか」「どうすれば収益を確保することができるか」を考えて動くことができるようになっていったのです。

 

訪問看護を先行して充実させたことが
介護職の意識変革につながった

もうひとつ、強く伝えたのが「看取りを受け入れなさい」ということ。介護職にとって、死はとても恐ろしいもの。当時の介護職スタッフは、医療とのつながりが希薄で知識も乏しく、みな、「死の話はタブー」「死人を出してはいけない」「なにがなんでも看取りは病院でやってもらわなければならない」と思い込んでいるようでした。それでは高齢者の介護がうまく回るはずがありません。「私たちは高齢者の介護をしているのだから、死はあって当然のもの、当たり前のことなのだ」ということを、知識とともに、何度も何度も、繰り返し話したことを覚えています。

その他、思いがけず効果があったこともありました。そのひとつが、「訪問看護ステーションがどんどん充実していったことで、介護職のスタッフの意識が変わっていったこと」。たまたま私が前職で横浜市の訪問看護ステーションの所長をしていたこともあって、看護師のツテがあり、着任して早々に、「こもね訪問看護リハビリステーション」の看護師を充実させることができたのです。8名の看護師が医師と連携し、地域にどんどん入っていく様子を見て、介護職のスタッフは「なぜ看護師は、猛烈に忙しいのに、あんなにイキイキと、活発に活動を続けることができるのだろうか」と不思議に思ったのだそう。そのうち看護師が特養と連携するようになり、介護の現場にも医療の考え方や情報が入ってくるようになると、「なぜ」の理由がわかり出してきたようで……。並行して行っていた研修や教育の効果も相まって、「医療や介護の奥深さ」「地域とつながることの面白さ」がわかるようになってきたと話していました。

訪問看護の看護師たちは、みな、「仕事だから仕方なくやっている」のではなく、「地域のなかでなにを生み出すか」「どう生きていくか」を考えてやっていたんですよね。また、医療の知識が入ってきたことで、介護職にとって、高齢者の体調変化や看取りが得体の知れない怖いものではなくなってきた。訪問看護が先行して活動の幅を広げて行ったことも、組織の変革において、とても大きな効果があったものと実感しています。

 

半年で黒字化を達成!
難病、看取りも積極的に受け入れる施設に

着任して半年は、こうした仕組みづくりと意識改革を、とにかく猛烈な勢いで行いました。その甲斐あって、介護職ひとり一人の知識が増え、意識が変わり、半年で黒字化を達成することができました。着任当初の1.5倍の利益を出すことができ、大きな手応えを感じたことを覚えています。また、どの事業所であっても、医療依存度の高いケースや、難病、看取りを積極的に受け入れることができるようになり、福祉施設で医療系サービスを実施している「小茂根の郷」らしい支援が提供できるようになりました。

私は、「半年間、真剣に課題に対して取り組んで、それで状況が変わらなければうまくいかない」と考えています。逆に、半年でよい変化が見えれば1年もつ、1年もてば3年後には生まれ変わるとも思っているのです。小茂根の郷も、1年、3年、現在と、どんどんよくなってきていると感じています。

変化や反対を恐れず、集中的に、思い切ってやる。これが組織改革のポイント。まずは改革を牽引する人間が、本気で考え、全力で取り組むことが欠かせないのです。

後編はこちら

杉田 美佐子

社会福祉法人 小茂根の郷 理事 施設長

SNSでシェアする