今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第203回 2020/03

地域の病院が密に連携し機能を存分に発揮 近未来の地域医療の在り方を問う(前編)

高齢化に伴い、地域医療連携が重要視される昨今。倉敷中央病院院長の山形氏は、「地域医療連携」という概念がなかった時代から、同院で地域の医療機関との相互理解を深め、地域連携の体制を整えてきました。地域医療連携の基盤を固めた山形氏が現在取り組んでいるのが、「医療のエコシステム」の構築です。医療のエコシステムとは、病院の機能分化を明確化し、本来の機能を存分に発揮できるシステムのこと。「病院がなくなってもいい」と語る山形氏に、システム構築に向けた「五つの機能強化」への取り組みや、「もう一歩進んだ、これからの地域医療の在り方」をお話しいただきました。

公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構
倉敷中央病院
常務理事 院長
山形 専 氏

倉敷中央病院

地域医療連携が自然と形成されている特殊な医療圏に位置する急性期病院

倉敷中央病院は、1923年に倉敷紡績株式会社(現クラボウ)の社長大原孫三郎によって創設されました。当初は倉敷紡績の従業員のための病院でしたが、創設から間もなく地域住民にも広く開放され、以来、地域密着型の病院として住民の皆さんの健康を見守ってまいりました。
長い歴史のある当院ですが、「おもしろい病院」だと、多方面から注目をいただくことがあります。地域医療連携や臨床研究などの参考にと、病院見学のご希望をいただくことも多いです。しかし私はいつも「当院を見学してもあまり役に立たないかもしれません」とお伝えしています。なぜだと思いますか? それは、当院が位置する地域の二次医療圏は、ほかの医療圏とはまったく異なる構造をもっているからです。

岡山県の県南西部地区の人口は、およそ70万人です。これだけの規模の中で、実は、大きな公的病院は一つもなく、大型の急性期病院も当院と川崎医科大学附属病院のみという環境。そしてその周辺に地域密着型病院とクリニックや診療所があるという、全国的に見ても珍しい医療圏なのです。こうした条件が影響して、ここではいわゆる〝患者の取り合い〞が起こりません。患者さんを取り合う相手がいませんから。急性期病院でまず治療し、次の段階として地域の病院に戻り、そして次へ……といった循環が自然とでき上がっているのです。つまり、機能分化がしっかりとできているため、自ずと地域医療連携が成り立っている状況なのです。

地域医療連携がない時代に地域の医療機関との関係づくりに奔走

地域医療連携が自然と成り立っているのは、特殊な条件が後押ししていることもありますが、そのきっかけの一つには、私が約25年前にこの病院に赴任し
たことがあるかもしれません。

私は1996年に、脳神経外科主任部長として当院に着任しました。脳神経外科では脳卒中を扱うことがほとんどですが、多くの患者さんは急性期の治療のあとに、リハビリを要する状態になります。当然、当院だけではリハビリ治療を完結させることはできませんから、回復期病院に転院するなど、次のステップへと進めなければなりません。ところが当時、この地域にそのような連携体制はまったくありません。私は、そこに大きな課題を感じていました。そこで脳神経外科では、時間をかけながら地域の医療機関を訪問し、信頼関係を築くことに力を入れていったのです。

一般的に多くの医療法人では、いわゆる〝囲い込み病院〞といって、同一法人の中で急性期から回復期までの一連の医療機関をつくることがあります。しかし私たちは、「回復期は地域にお任せします。その代わり高度急性期は当院に譲ってください」「互いに機能分化していきましょう」などと説明を続け、地域の医師との相互理解を深めていったのです。患者さんの奪い合いなんてことにもなりかねませんからね。2000年には、25病院と遠隔画像診断システムを開始するなど、地域連携の体制づくりを進めていきました。そして次第に、ほかの診療科でも同じようなことに取り組み始め、今のような地域医療連携の形がととのっていきました。その頃はまだ地域医療連携という言葉はない時代です。私は、決して時代の先を読んだわけではありませんが、機能的な医療を考えたならば当然そのような形に行きついたというわけでした。

常務理事 院長
山形 専氏
金沢大学医学部卒業後、国立循環器病センター、京都大学医学部附属病院などでの勤務を経て、1996年に倉敷中央病院脳神経外科主任部長、2008年に副院長に就任。2016年より現職。
 
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