今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第207回 2020/07

クルーズ船乗客ら260名超の患者を受け入れながら院内感染ゼロ! 新型コロナウイルスに対峙する感染管理認定看護師

認定看護師は、日本看護協会の認定審査に合格し、高いレベルの看護を実践できると認められた看護師です。救急看護、緩和ケア、認知症看護など21領域の看護分野において、全国で2万人を超える認定看護師が活動しています(2019年7月時点)。自衛隊中央病院 看護部看護主任の吉ノ薗道子氏も、そのひとり。新型コロナウイルス感染症が拡大する中、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗船者、武漢からの帰国者をいち早く受け入れ、感染管理認定看護師として260人以上の陽性患者に対応してきました。最前線での感染対策、院内感染を起こすことなく第一波を乗り切れた秘訣について、お話をうかがいました。

自衛隊中央病院 看護部看護主任 感染管理認定看護師
資格認定制度 専門看護師・認定看護師・認定看護管理者
吉ノ薗道子 氏

自衛隊中央病院

感染制御チームの一員として、日頃から感染対策や訓練を実施

1995年に自衛隊の看護師となり、12年にわたって自衛隊中央病院で手術室看護師を務めてきました。その後、陸上自衛隊高等工科学校勤務などを経て、今度は自衛隊中央病院の一般病棟に配属。当初は手術室との環境の違いに戸惑うことも多く、それが、私が感染管理に興味を抱くきっかけにもなりました。

例えば、手術室には限られた人しか出入りしませんし、滅菌したエリアを不用意に触らない限り、清潔さが保たれる環境でした。一方、病棟には患者さんやお見舞いに来られた方、医療従事者などさまざまな方が出入りします。多くの人が流動的に歩き回るため、どのように感染経路を断ち切るべきかなど、手術室とは全く違う発想で感染管理施策を考える必要があると感じていました。また、清潔なものと不潔なものが隣り合わせで置かれていたこともあり、病棟内の感染対策をもっと強化しなければならないのではないか、と考えました。そこで、まず私が着手したのがゾーニングです。清潔なものと不潔なものをきっちり区分けし、物品の適正な管理や整理整頓を徹底しました。こうした取り組みを行ううちに、感染対策についてもっと深く学びたいと思うようになりました。そこで看護師長に相談したところ、感染管理認定看護師について教えていただき、3年前に資格を取得しました。

感染管理認定看護師の資格を得てからは、病棟勤務をしながらICT(感染制御チーム)としても活動しています。ICTは専従のICN(感染管理看護師)を中心に、医師、私を含む感染管理認定看護師3名、薬剤師、臨床検査技師らで構成されています。週に一度、病院各所をまわって感染対策に問題ないかチェックしたり、N95マスクのフィットテストを行ったりと、院内感染を防ぐための取り組みを行っています。また、エボラ出血熱などを想定した訓練を毎年実施しています。

訓練では実際に病室を使い、タイベックスーツ(防護服)を着用して模擬患者に採血や点滴を行ったり、病室から汚染された物品を持ち出したり、極めて実地に近い内容を演練しています。この際、他の看護師たちとノウハウを共有しています。訓練は都の行政機関と連携して行いますが、細部については、感染管理認定看護師や医官の問題認識あるいは自衛隊の訓練のノウハウを反映させているため、ある程度独自の訓練となっていると思います。昨年からは診療放射線技師や、ME(臨床工学技士)も、タイベックススーツの着脱訓練に参加してもらっています。ICT専従看護師と「そろそろ新型インフルエンザが出現するかもしれない。来年になったら訓練を始めよう」と話していたところ、新型コロナウイルスが猛威を振るいはじめたのです

全職員の力で危機的な状況を乗り越える

当院では、2020年1月末~3月にかけてクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗客、武漢からのチャーター便帰国者を受け入れました。とはいえ、病床はエボラ出血熱など、危険度が極めて高い「1類感染症」用が2床、感染症病棟全体でも10床しかありません。クルーズ船の乗客を受け入れる際には一般病棟や結核病棟なども使用し、100人以上の患者さんを収容できるよう拡充しました。

患者さんの受け入れに際し、院内感染防止の中心となって動いたのはICTのメンバーです。新型コロナウイルス感染症のために新たなチームを組んだわけではなく、普段のメンバーが対応にあたりました。当院には約350名の看護師が在籍していますが、他の病棟の負担も一気に増えたため、援軍支援を頼むわけにはいきません。N95マスクを装着すると息苦しく、活動できるのは2時間が限界。とはいえ人員不足で交代できず、疲労も蓄積していきました。そんな中、病院が業務を整理して人員を手当てしてくれたり、他の自衛隊病院からも支援をいただいたりして、看護師約60名で100名以上の患者さんに対応することができました。

私たちは2月の時点で新型コロナウイルスの脅威を感じていました。これまでさまざまな感染症の患者さんを看てきましたが、新型コロナウイルスは感染力が強く、重症化した時の多様な臨床像はインフルエンザとは比較にならないと感じました。
日頃から訓練を行っていたとはいえ、ここまで多くの感染症患者さんを受け入れるとは想定していなかったため、さまざまな課題を克服しながら対応しました。それでも危機を乗り越えられたのは、自衛隊の組織力によるものが大きかったと感じています。例えば、医療用ガウンやN95マスクについては備蓄していたので、物資が不足する心配はありませんでした。防護資材が足りないと、節約して使いまわすことになり、それが感染源になりかねません。その点、当院では安心して業務を遂行できました。

また、当初、業務の負担の原因となったのは外国人患者さんでした。6割を超える患者さんが外国人で、そのナースコール対応に最も難渋した際、全国の陸海空の部隊から通訳支援に来てもらいました。他にも、医療職以外の職員が患者さんに代わって買い物に行ってくれるなど、さまざまな形で私たちの業務を助けてくれました。みなさんのサポートがなければ、困難を乗り越えられなかったのではないかと思います。

院内感染はひとりの気の緩みから 基本を徹底し、新型コロナウイルスを防御

院内感染を防ぐため、重視したのは“基本の徹底”です。感染対策においては、「この手順、少し簡略化してもよいよね」と気が緩むこともあるでしょう。でも、たったひとりでも感染経路を遮断できない人がいたら、一気に院内感染が広がる恐れがあります。そうならないためには、たとえ「これはちょっとやりすぎかな」と思っても、みんなが一律にルールを守ることが重要なのです。

当院でも、医療従事者に限らず、全職員にルール遵守を徹底してもらいました。院内感染を防げているのも、みんなの協力があってこそ。ICTでは日頃から手指衛生について啓発活動を行っていましたが、誰もが掲示にしたがって丁寧に手を洗ってくれます。また、新型コロナウイルス感染症の患者さんがCT検査を行う際には、他の患者さんと接触しないようゾーニングを徹底するなど、職員同士が協力し合い、小さな努力を積み重ねたことも感染防御につながりました。ひとりも気を抜くことなく、みんなで努力する。だからこそ、現在に至るまで院内感染ゼロを保てているのだと思います。
 
後編では、切迫した状態に置かれた患者や看護師のメンタルケア、新型コロナウイルス第2波に対する心構えについてお話します

後編はこちら
第2波に備えて今やるべきことは? 新型コロナウイルス感染症に立ち向かう感染管理認定看護師の実践的アドバイス

吉ノ薗道子氏

1995年より、看護師として自衛隊中央病院に勤務。手術室看護師、高等工科学校勤務を経て、病棟に配属。2017年、感染管理認定看護師の資格を取得。新型コロナウイルス感染症患者の受け入れに際し、ICT(感染制御チーム)の一員として院内感染防御の指揮を執る。
 
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